【壱】お天道様とドタバタ剣道娘
初投稿なので温かい目で見て下さい。一、二週間に一回で連載していくつもりです。
ではどうぞ宜しく御願い致します♪
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす…
遥か昔に存在したこの言葉通りに、200年以上も続いた長い長い江戸の時代は幕を下ろし、時は明治、そして大正の時代を迎えた。
大政奉還、開国、文明開化により日本は大きく発展した。自動車や機関車が日本中を走り、街並みも西洋文化の影響を大きく受け、洋風の建物が立ち並ぶ。
しかし田舎ではまだまだ発展途上で江戸時代からの街並みがまだ多く残っていた。そんな田舎のとある町では今日も今日とて騒がしい日が始まった。
「どいてどいてぇー!!!」
お天道様の下、一人の少女が慌てた様子で沢山の人がいる商店街の大通りを走っている。真っ直ぐ前を見つめるその目は珍しい翡翠のような色の美しい目。長い黒髪を後ろに1つに纏めて、桜の模様が入った和服を着ている。手には木刀を握り、革靴を鳴らして人々の間を稲妻のように駆け抜けた。人混みを抜けた先で走っていた自動車にあわやの所で轢かれそうになる。
「ッ!?危ないだろ!」
「す、すみませぇ〜ん!」
少女はそのまま走り去った。
大通りの先には古い屋敷町があり、少女は屋敷と屋敷の間の路地に入って行く。細い路地には人や物など様々な障害物があるがそれをものともせず飛び越えたり避けたりしながら奥へ進む。
進んだ先には小さな剣道場。見た目も中身も良い言い方をすれば歴史を感じるが、悪い言い方では時代遅れのとても古臭い道場だ。
スムーズに開かない正門を無理やり開けて敷地内に入ると見事な桜の木、男が一人、その下で仁王立ちで立っていた。
「遅刻ギリギリだぞ凛桜。もう少し遅かったら素振り千回の刑になる所だったな」
大きな体と厳つい顔がまるで熊の様な姿の男はニヤッと笑う。
「あはは、遅くなってごめんなさいお父さん」
汗だくになりながらも凛桜と呼ばれた少女は笑顔をみせる。
「なんだ?寝坊でもしたか?」
「してない!」
バレバレである。
「ガハハ!さぁ、稽古を始めるから早く道着に着替えな」
「はーい!」
凛桜は小走りで道場の奥へ消えた。
「さて、ワシも待ってる間に鍛錬でもすっかぁ!」
普通の大きさより遥かに長く太いまるで丸太の様な木刀を持ち、古くなった防具を着せた練習用の案山子に連続で鋭く打ち込む。最後の一撃が頭に入り案山子の頭が吹き飛んだ。
「おやおや、久々に来てみればまた練習道具を壊してらァ」
塀の上から声がする。声の主は…カラス。鳥のカラスだ。
「おう!クロ!クロじゃねぇか!久しぶりだなぁ!」
男はさも当たり前かのようにカラスと会話を交える。
クロと呼ばれたカラスは塀を降りて男の肩に乗った。
「久しぶりだな権太郎、相変わらずみたいだな」
「ガハハ!そっちも元気そうで良かった良かった!」
権太郎が笑うと大きな肩が上下に揺れるので乗っていたクロも揺れて落ちそうになる。
「おっとと…危ないじゃねぇか」
「おぉ、すまんすまん。それで、どうした?お前がこうやって現れるのは何か用があるからだろ?」
「ああ、それが…実はな権太郎、俺たちに上から『指令』が出た」
「指令だと…内容は?」
権太郎の表情が険しくなる
「それはな…」
「セイ!ヤァ!ハァ!」
木刀同士が激しくぶつかり合う、打ち合う度に木刀の音が鳴り響き、その衝撃で道場を振動させていた。
「うん、綺麗な太刀筋だ。しかし…」
木刀を捻り上げると凛桜の手が握っていた木刀が弾けるように跳ね、音を立てて地に落ちた。
「まだまだ打ち込みが浅いな」
「いやぁ〜十分凄いで!あの凛桜ちゃんがこんな立派に剣を振るうようになってなぁ。免許皆伝の日も近いかもしれんで?」
クロがパタパタと翼を広げて褒めた。
「ありがとうクロさん!」
凛桜は落とした木刀を拾う。
道場には権太郎と凛桜とクロの3人?しか居ない。クロは窓際に止まって2人の稽古を見ている。
「良し、今日の稽古はこれで終わりだ」
「ハイ!ありがとうございました!」
「凄いなぁ凛桜ちゃん。こんなべっぴんさんでこんなカッコ良く剣を振るなんて、惚れてまうで!」
「えへへ、褒め過ぎですよクロさん♪」
防具を片付けながら凛桜は照れた
「そうだぞクロ、凛桜は褒め過ぎるとすぐ調子に乗るからな」
「そんな事ない!」
膨れっ面になって怒っている。
「あはは、愉快愉快♪こんなに楽しいのは久方ぶりだな」
ケタケタと笑うクロに凛桜は尋ねた。
「クロさん。凄い今更なんですけど、どうしてクロさんはカラスなのに喋れるんですか?」
クロは目を真ん丸にした。
「あれ?ワシ、言ってなかったっけ?」
「はい。私がまだ小さかった頃からお話ししてたので当たり前になっちゃってたんですけど、どうしてかなって」
今度は鳩が豆鉄砲食らったような顔をした。(カラスだけど)
「えぇー!権太郎から何も聞いてないんか?」
「はい、お父さんからも何も…」
「本当か?ふむぅ、そうやな…じゃあ、ワシが何者かという所から話さなあかんな」
険しい顔になったクロが凛桜を真っ直ぐ見つめる。
「ワシはな、あんたら人が言う『妖怪』や『アヤカシ』って奴の仲間や」
「えぇ!?じゃあクロさんはカラスじゃないんですか!」
凛桜は驚愕する。
「んー…違う、とは言えないけどな。妖怪って言うのはどうもハッキリしないもんでなぁ…ちなみにワシは鴉天狗って妖怪の仲間や」
「じゃあ…クロさんもあの『モノノケ』の仲間なんですか…?」
凛桜は恐る恐る聞く
「違う違う!あんな奴らと一緒にされたら困る!」
クロは怒ったように説明した。
「良いかい?『モノノケ』って言うのはな、理性が無く、人もアヤカシも関係無く襲うおっそろしい化け物の事を言うんや。まぁ…確かにアヤカシがモノノケになっちまったって話は多いが普通の動物や人もモノノケになる事もあるんだぞ?」
「じゃあ私もなっちゃうかもしれないって事?」
「いや、人がモノノケになる理屈は完全には分かってはいないんやが、瘴気に侵されてる所に行かない限りは大丈夫やで。」
「瘴気?」
「瘴気も知らんのか!?全く…権太郎は本当に剣術しか教えなかったのかよ…」
クロは翼で頭を抱えた。
「娘にこんな大事な話をしないなんて…まさか…?」
クロは凛桜を見る
「凛桜ちゃん、権太郎が昔、何してたか知ってるか?」
「え?お父さんが?えっと、剣道の先生?」
「もっと何か、ないか?」
「ん〜…分からないです。」
「はぁ…ホンマにアイツは…良いか?お前の父親、権太郎はな…」
そこまで言いかけた時、地面が揺れた。あちこちから人の悲鳴が聞こえる。
「チッ!奴ら、もう出てきやがったのか!」
「何?どうしたの!?」
サイレンが鳴り、アナウンスが流れる。
「モノノケが出現しました!町から避難してください!繰り返します。モノノケが出現しました!町から避難してください!」
クロは平静を保つが凛桜は怯えた。その時、権太郎が引き戸を激しく開けた。
「クロ!この町にモノノケが出たぞ!」
「分かっちょるわ!凛桜ちゃん、話は後に必ずする。だからここでじっとしとってな。」
怯える凛桜を宥めてクロは権太郎の方へ翔く。
「ひっさしぶりに暴れたろうやないか権太郎!」
「ああ、俺たちの町を襲った事を後悔させてやる!」
二人は道場を飛び出して行った。
もう何時間経ったのだろう…夕陽の光が道場の窓から漏れる。
まだ地響きがたまに起こるのでこの騒ぎはまだ終わっていないだろう。お父さんもクロさんも出ていったきり一度も道場に戻ってきてない。
「おかぁさん!おかぁさん!」
近くで子どもが泣き声をあげていた。
居ても立っても居られないので外の子どもを助ける事にした。しかし何か護身の為に持っておきたいと思ったのでまずは倉庫へ急いだ。埃まみれになりながら武器を探した。練習用の薙刀や古い木刀、壊れた防具などしか見つからず使えそうな物は無い。
諦めて出ようとした時、ふと背後から何かを感じた。
振り返ると倉庫の一番奥に布を被せた何かが目に付いた。
「あれは…?」
引き寄せられるようにそれに近づき慎重に布を取る。そこには立派な刀が一振、刀掛けに収まっていた。直感がその刀を使えと指示する。触れるとほんのり温かい…刀が生きている様に感じた。まるで自分を使ってくれ!と言っている気がした。
「お父さん、ちょっと借りるね!」
刀を手に取り全速力で倉庫を飛び出した。
子どもの声がする方向へ走って向かった。人々は逃げ惑い、混乱していた。群衆を潜り抜けて更に進むと五歳ぐらいの女の子が一人で大通りの真ん中で泣きじゃくっていた。
「大丈夫?怪我はない?」
「おかぁさんとはぐれちゃった!」
また女の子はワンワン泣いた。
「お姉ちゃんと一緒にお母さん探そ?さぁ、行こ…」
女の子から視線を外し顔を上げた時、ここからそれほど離れていない屋敷の屋根の向こうに『何か』が見えた。
それは大通りに出た。歪な形をした頭、巨大な鉤爪がある手が、そして骨が浮き出た胴体、強靭な足が姿を現す。『それ』は酷い猫背で二足歩行をしている。知っている生物でこんなおぞましいものは知らないしそもそも生物なのかも分からない。人より一回りも二回りも大きく、その姿には禍々しさと底知れぬ恐怖を感じた。
(あれが…『モノノケ』)
恐怖で声が出ない。初めてその姿を目にしたがその恐ろしさは沢山聞いた事がある。並の人間じゃ太刀打ち出来ない相手である事、人を襲い、喰らい尽くすその残虐性、もし狙われれば死を覚悟しなければいけない事…
「きゃああああ!!!」
女の子がモノノケを見て悲鳴をあげてしまった。咄嗟にその口を防いだが、遅かった。
悲鳴に気付いたモノノケはこちらを見ていた。目が合ってしまった。ゆっくりとその歩みをこちらに向ける。
「逃げるよ!」
女の子の手を少し乱暴に掴み走り出す。逃げ出した事に気付いたモノノケは二人を追いかけ始めた。
モノノケを撒くために視界の悪い狭い路地に入ったがモノノケが長身のせいで二人の姿は見えてしまっていた。壁や民家を破壊しながら一目散に二人を追う。幸い足はそれほど速くはないが油断するとあっという間に追いつかれる。このまま人々が避難している地区に逃げたかったがそんな事をすれば他の大勢の人が襲われてしまう。考えた結果、誰もいないであろう山へ逃げる事にした。
「こっち!」
女の子の手を引き無我夢中で山へ逃げる。屋敷町から田んぼ道に出た。振り返るとまだモノノケは追ってきていた。視界を遮る物が無いのでひたすら走る。しかし女の子が石につまづいて転んでしまった。
「大丈夫!?」
女の子は痛みに泣きじゃくるがモノノケは歩みを止めない。このままでは追いつかれてしまう。
「掴まってて!」
凛桜は女の子を抱えて走る。山の頂上には子どもの頃よく肝試しで訪れていた廃神社がある。そこを目指し、全力で駆ける。気付けば日が暮れ、辺りはどんどん暗くなっていく。もっと暗くなって木や闇夜に隠れることが出来れば見失ってくれるかもしれない。
しかし今夜は怒りを覚えるほど見事な満月の夜だった。月明かりのせいで隠れる事が出来ない。凛桜はそのまま神社へ全力で走る。神社の鳥居が見える。石の階段を駆け上がり頂上着いた頃にはモノノケと少し距離があった。急いで本殿の中へ入り女の子を下ろした。
「ここに隠れててね、絶対に声を出しちゃダメだよ?」
息を切らしながら女の子に指示した。
女の子は涙目になりながらも口を両手で抑えてコクコクと頷く。
「よし!いい子ね。」
足音が近づき一歩ごとに地を揺らす、ボロい本殿なので埃が降ってきた。
「お願い神様!あたしたちを助けて!」
女の子が御神体であろう黒い石に手を合わせている。自分も手を合わせたい所だが奥へ一緒に隠れるように促した。破れた障子にモノノケの影が差す。まだ諦めていないようで周りを歩き回っている。二人は本殿の奥で息を潜める。女の子はガタガタ震えていて安心させるために抱きしめてやる事しか出来なかった。
しばらく歩き回っていたモノノケが立ち止まった。
(…諦めた?)
本殿が大きく揺れる。モノノケが二人の居る本殿を攻撃し始めたのだ。必死に声を漏らすまいと泣きながら懸命に口を抑える女の子、しかしこのままでは二人とも潰れた本殿の下敷きになってしまう。
(どうすればいいの!?)
携えていた刀が熱くなる。まるで使えと言っているようだ。
(私が…やるしかない!)
凛桜は本殿を飛び出した。
「こっちよ!モノノケ!!!」
気付いたモノノケは凛桜の方へ向き恐ろしい声で咆哮した。体の中が振動する。モノノケは突進し、その巨大な鉤爪で攻撃してきた。
後ろに下がり攻撃を避ける。勇ましく飛び出したが子どもを抱え、山の頂上まで走り抜けたせいで既に体力はほとんど無い。凛桜は攻撃を避け続ける事しか出来ない。
右、左、と大振りで引っ掻くような攻撃だが当たれば一撃でやられてしまいそうだ。かすりでもすれば当たった体の部位が吹き飛ぶだろう。回避が間に合わない攻撃は刀で防ぎながら受け流す。マトモに防御すれば体ごと吹き飛ばされそうだった。
(何とか隙を見つけて攻撃しないと…)
防御と回避ばかりしていればこちらの体力が尽きて動けなくなってしまう。その前に攻撃して仕留めないといけない。出来なければ…死が待っている。
(見つけた!)
大振りな攻撃なので手を振り切った後に体がガラ空きになる瞬間を見つけた。特に右手で攻撃する時に大きな隙ができている。
(大丈夫、私なら…できる!)
刀がその思いに応えるように握っている柄が熱くなる。刀身が淡く輝いて見える。
右、左、そして右手の鉤爪が空を切りながらこちらに向かってくる。
(今!)
鉤爪を避け、モノノケの懐へ踏み込んだ。隙だらけの胴体に入り込む。千載一遇のチャンスだと確信した。刀はその輝きを増し、更に熱くなる。刀と同調し一体化していた。残った力を振り絞り、刀を握り締め、咆哮のような気合いの声と共に全力で右へ振り切る。
刹那、時が止まったようだった。一枚の桜の花びらが舞い落ち、そして地に触れた。モノノケの脇腹が裂けドス黒い血のような液体と蒸気のような気体が吹き出す。モノノケは苦しみ、悶えた。しかし腕を振り払うようにぶん回して暴れ始めた。
「っ!?」
暴れ回るモノノケの腕が迫って来ていた。刀を盾にして防御したがその衝撃に耐えきれず体ごと吹き飛ばされ鳥居に叩きつけられてしまった。
「うぅ…」
背中を叩きつけられ痛みが全身を襲う。朦朧とする意識の中、手から離れてしまった刀に手を伸ばすが届かない。力が尽きた。もはや立つことも出来ない
怒り狂ったモノノケは凛桜に近づき、自分を苦しめた者を叩き潰そうと両腕を上げ、咆哮と共に振り下ろした。
(ああ…私、あの子を守れなかった。)
目を閉じて最期を悟った。走馬灯がよぎる。
厳しくも楽しい剣道の練習、好きな場所、友人、父親のニヤついた顔、そして亡き母親の優しい笑顔…
意識が薄れて暗闇の中に落ちていった。
ふと何かを感じ意識が蘇った。体が熱い。しかし痛みではなかった。遠くから声が聞こえる。男の声だ。声はどんどん近くなって周りの音も聞こえるようになった。炎が揺らぐような音が聞こえる。
目を開けると人が背を向けて立っていた。男の人だ。
怒り狂ったモノノケが腕を交互にあの怪力で振り下ろすが男は刀一本、片手で受け流している。男の腰には白色の大きな尻尾らしき物が着物の間からはみ出していた。
使っていない左腕は白毛に覆われていてまるで獣の前足のようだった。その手には青い炎を滾らせていて鎧の様に腕に纏わせていた。すると炎が大きくなり掌の中へ集中していく、やがて大きな蒼炎の火球となりそれをモノノケへ放つ。火球はきりもみの様に回転しながら飛び、命中した。モノノケは衝撃で大きく仰け反り体勢を崩した。その大きな隙に男は刀を両手で持ち、左から右へ斜めに斬り上げた。銀色の閃光が煌めき、斬撃音が響いた。モノノケの胸は引き裂け大量の黒い血が吹き出し、ゆっくり仰向けに倒れた。
先程までの死闘が嘘のように辺りには静寂が訪れる。
いつの間にか月が出ていて夜になっていたのに気付いた。
男は刀に付いた血を払って鞘に収め、こちらを向く。
「怪我はないか?」
若い男の声だった。満月の逆光で顔がよく見えない。男は私を起こすために手を差し出してくれた。片腕は毛に覆われていたはずだったが今はどちらの腕も普通の人の手になっていた。差し出された手を取り、引っ張ってもらい立たせてもらったが足がふらつき転びそうになる。
「おっと!大丈夫か?」
男が支えてくれたお陰で転ばずに済んだ。
「あ、ありがとうございま…」
言葉が詰まる。月明かりが男を照らし、その姿を現した。同じ14、15歳ぐらいの青年で驚いた事に頭にはピンと立った狐の様な耳が生えていた。髪は白く月明かりを受けて輝き、目は闇夜に瞬く蒼い星のようだった。
耳を見られているのに気づき青年はパッと離れて落ちてた帽子を拾い、深く被った。
「見たか?」
「う、うん…」
下手に嘘をつくのはマズいと思い正直に答えた。
「はぁ〜…そうか、とりあえずウチに来い。手当してやる。そこのチビもだ」
崩れかけた寺からひょこっと頭を出していた女の子はビクッと驚いていたが慌ててこちらに駆け寄ってきた。
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら女の子は抱きついてきた。そしてわんわんと泣いた。
「怖かったんだね?もう大丈夫よ」
頭を撫でて安心させた。しばらく泣いていたがようやく泣き止み、そして手を繋いだ。
「行くぞ、ここからそう遠くないから…」
どんどん声が遠ざかっていくように聞こえる気がしたと思うと目の前が真っ暗になった。そして意識は深い暗闇の中に消えていった。