黒の魔法陣と、ライルの確信
ライルは、ついに確信に迫る。そして、新たな目標を掲げる。
003
「ただいま~!」
シーン……
「母さん?…いないのか。買い物かな。」
ま、いいや。属性判定屋に行くまでの道は覚えてるから、一人で行けるし。飛んでいけば良いもんな。
「行ってきまーす!」
誰もいない家に向かって、行ってきますを言っても、返答があるはずがない。
シーン……
俺が帰ってくる頃には、母さんも父さんも帰ってきてるだろう。黒の魔法陣に関しても、父さんに聞きたいけど今はいないから、また帰ってきてからでいいか。
2歳の頃に通った道を再び歩く。何年ぶりだ?4年ぶりか。そんなに経ってなかったんだな。
「あぁ!忘れてた!僕、飛べるんじゃん!」
すっかり飛べるということを忘れていた。風魔法。浮遊!
……シュ~ゥゥン……
ん?あれ?飛べない。風は起きるのに…なんで!?俺は、またひとつ属性を失ったのか?もういい。歩いてこう。
相変わらず、草木が生い茂っているなぁ。歩きにくいと言ったらありゃしない。その辺の影から、毒蛇でも出てくるんじゃないか?
「あぁ。出てきそう。ほんとにそんな感じがする。してきた。」
怖すぎだろ。
ガサガサッ
「うわっ!なに?なんだ?」
慌てて、警戒体勢。怖さ反面、好奇心反面だ。こういうときに、好奇心が勝らなくて、感謝だ。好奇心旺盛すぎると、こういうときは負けゲーになる。大抵は。
ガサガサッ、ピョイ。
飛び出てきたのは、毛虫。なのだが、デカさが異常だ。普通なら、5、6センチくらいだろ?この毛虫、30センチはあるぞ。世界観、ぶち壊しだ。田舎っぽいけど、綺麗なこの世界の世界観が。台無し。
はい!気を取り直して、歩こう!あとちょっとで着くはず。あ!見えてきたぞ!変わらない雰囲気を漂わせる、このお店。俺が、二度と感じたくない空気を感じたno.2のこの場所。もちろんno.1は、死んだとき。もう、来ることはないと思ってたけど、再び来てしまった。これは運命なのか。
「こんにちはー!お邪魔しまーす。店長に用があって。」
「はーい。お!ライル君!1人?」
「はい、家に両親ともいなかったので。」
「そうかー。で、今日は、どうしたの?もしかして、この前の入学式のときのこと?」
そうでもあるんだけど、今日は、ちょっと違うかな。
「いえ。今日は、俺の属性をもう一度調べて欲しくて。」
「この前のじゃダメなの?」
「この前と変わっている可能性が、あるんです。」
そういうのは、起こり得ない。この前も、店長に言われた。それが起こりうるとしたら、神か何かが関係していると。だから、今日は、それも聞きに来た。俺の身に何が起こっているのか、確信を得るために。
「そう。この前も言った通り……ってのは、分かってるみたいね。その顔ぶりから分かるわ。」
「わかっていただけて感謝します。」
じゃあ。ここにてをかざして。と言われ、3度目の属性判定。
「はい。いいよ。ライル君。属性が、分かったよ。君の今の属性は、光魔法と闇魔法。それと、火魔法のみ。また減っているね。これは、おかしい。こんなことあり得ないのよ。普通なら。ね。」
これで、確信を持つことが出来た。店長に話によると、
『普通、産まれ持ったものは、無くなることはない。逆に、自分で習得することはできる。希になにも持たないで産まれてくる子がいるから。全てをもって産まれてくる子もいる。
それが、君だった。でも、減ってきている。最初に減ってきているのを見たときは、生活環境が影響して、減ってしまったのではないかと思った。けど、これはちょっと違う。おかしいんだ。完全消去されている。完璧に消えてなくなっている。
だから、この世界の何かが影響しているとは、考えにくい。だから、ひとつの仮定として、神がいじった。という仮定が浮上する。それ以上はわからない。
不思議なことを、神やあやかしのせいにする奴がいるのと一緒で、本当に神がいるかもわからないから。』
と言うことだった。まあ、俺は、神の存在を確信しているわけだから、店長の話をそれだけ聞けば、もう、俺の属性を奪った奴は、あいつしかいない。あの女神だ。
「ただいま~。母さん?」
あれ?帰ってきてないのかな?もう、日が暮れるけど。こんなに遅くなるとこ何てなかったのに。
「ラ、ライルか?」
と、父さん?
「どうしたの?」
「ルーラーが、帰ってこないんだ。」
え?母さんが、帰ってこない?買い物にいってるんじゃないの?なんで。
「買い物に行くって言ってたんだ。でも、遅すぎるだろ?女子の買い物って、そんなに長くならないんだろ?」
あ、そういうね。父さん、逆だよ逆。女子の買い物は長いんだよ。俺は、妹の買い物に付き合っていたことがあったから。分かるんだよ。
この歳になって、初めて、父さんが心配性だということが分かったよ。俺と同じでね。
「大丈夫だよ。父さん。女子の買い物は長いんだよ。そのうち帰ってくる。」
「そういうもんなのか?」
「うん!」
「ただいま。遅くなっちゃった。」
「ほら、言った通りでしょ?」
これぞ、噂をすれば。ってもんだ。そんな簡単に、あの強い母さんが、居なくなるはずがない。ちくいち、俺に説教するようになった母さんが。(俺が、反論するのもいけないんだろうけど)
「ルーラー!!心配したんだぞ!全く!」
「あー、ごめんなさい。ちょっと、欲しいものがあって、つい。」
ほらね、女子って大抵こんな感じ。欲には、負けちゃう人が多い。俺の周りには、多かった。
「あ、父さん。あとで話がある。」
「お、おぅ。ルーラーが無事でほんどによがっだ!」
あ、あははは、そんなに泣かなくても。イケメンな顔が台無しだよ。
それで、そのあと…父さんを呼んだ。
「あのさ、父さん。男同士の秘密ね。」
「ああ。」
「黒の魔法陣ってなに?」
「あぁ、黒の魔法陣とは……は!?ライル、お前どこからその言葉を聞いたんだ?」
あ、やっぱりこういう反応になるんだね。これは、率直に聞くのはまずかったかな。お酒に酔わせてから、とかのほうが良かった?いや、ダメダメ。そういうのはいけないやつ。
「あ、あのね。入学式の日にね……」
そうして、正直にその日にあったことと、今日のことを打ち明けた。女神と、毛虫に話には触れずに。
「と言うことで、属性は、光魔法と闇魔法。それと、火魔法だけになっちゃったんだ。」
「そうだったのか。それにしても、入学式で黒の魔法陣を発動か。お前、どうしたんだ?なんか、感情的になったんだろ?」
「ふーん。感情的になると発動するのか。」
「あ、」
ふっ。墓穴を掘ったな。引っ掛かりやすい性格だもんね。父さん。こうなったら、洗いざらい言ってくれ。
「そのまま全部話してよぉ。ね、父さん!」
ちょっと、親をからかうようで、気が引けるけど。しょうがないんだ!うん!しょうがない!
「うーん、そうだな。ここまで言っちゃったんだしな。よし。」
やったー!黒の魔法陣がなにか、分かるぞ!ここまで、そんなにかかってないけど、疲れたなぁ。
「黒の魔法陣はな。闇魔法と、それを使う本人の感情によって発動する。普通、子供は作れないものなんだけどな。感情の種類によって、又、本人の思いによって、魔法陣が何を起こすかは変わってくる。俺は、やったことないから、分からないがな。少なくとも、悪い感情で発動すれば、悪いものになるだろうな。ライルは、そういうふうに使うなよ。ある、闇魔法を使う者が転移を使った。という噂もある。どの感情が、何になるか、やってみるのも面白いかもな。」
そうか、そういうことだったんだ。感情で、発動。やってみる価値はある。そうすれば、転移とか出来ちゃったりするんだろ?あの、女神がいる、神の世界に転移してやる。幸い、あの女神の姿形は覚えている。そいつを思い浮かべれば、そこに転移できるはず!
「だがな、それ相応の、思いの強さが必要なんだ。だから、難しいかもな。」
「うん!ありがとう。父さん!おやすみ!」
「話が終わったら、もう用済みか、悲しいなぁ。おやすみライル。」
ガチャン
あの女神に、俺は、どんな憎しみを持ってるんだろう。自分の思いを踏みにじられたこと?出来ることを、無くされたりしたこととか?そんなんで、怒っていられるのかって?あぁ。怒っていられる。出来ることをなくすんだったら、産まれたときから無しにして欲しかった。全属性を持っていたことで、優しい両親にあんな顔をさせて。なにも持たないで、1からやれって言っておいて、現実世界の記憶を持たせて。それで、こうなったんだ。俺は、そこに怒っている。そんなくだらないことでも、俺にとって、優しい両親は凄い優しくて、初めての感覚だった。それを、あの女神は、ぶち壊そうとした。許せるはずがない。
絶対、お前のとこに行って、復讐してやる。この気持ち、わからせてやる!
次回、第2話 試す!