俺死ぬの?
000
「にーちゃーんっ!!」
「…!?どぉっ」
く、車!?なんだ、痛い、体のそこらじゅうが痛い。くそっ!俺は引かれたのか?そうだ!妹は?あれ、目が見えない。手も動かせない。足も‼死ぬのか?俺は死ぬのか?
「…ちゃん…にい…ーん‼」
深鈴か、深鈴なのか?
「救…車を…お願…す!…今す…‼」
救急車?そうか、本当に引かれたんだ。まぁ、もう死んでもいいかな。
なにも見えないような、そんな暗闇で、吏音は絶望を語る。なにも期待できない。死んだのだから。
十分なくらい、今までの生活は充実していたからなぁ。あ、でも、深鈴は…心配かけちゃうよな。
「あらら、なさけないなぁー。そんなんで、人生終わっちゃっていいの?はははっ!どうせなら、転生でもする?」
吏音の目の前に突然、キラッキラなオーラをまとった女性が現れた。
「誰?お前。」
あわ。
驚いてしまって、吏音は口を覆う。
喋れてる……!
あぁぁ!足も見える!
吏音の五感は戻ったらしい。
んー。やっと見えたと思って、見えたのが…こんな小さい奴とは。しかも、目の前にいる女と、俺しかいないみたいだし。
当然だろうが、そんなことを思いながら、辺りを見回す。
下見たら吸い込まれそうなくらい闇なんですけど。
「お前呼ばわりってひどくない?一応女神でーす!」
「へー。女神なんているんだ。てか、ここどこ?俺って、ホントに死んだの?これからどうすれば良い?」
吏音は、シツコイくらい女神とやらに、質問を浴びせた。
「うーん、死と生の狭間?で、私はその門番的な感じ?君転生したい?それとも、このまま死にたい?」
うーん、死にたいかと言われれば、死にたくないけど。んー。どしよっかな。転生するなら、勇者とかがいいかな。いやそれじゃなきゃ困る。
「そうか…じゃあ、転生にしちゃおっか!」
「え、ちょっ…」
「君に拒否権ナーシ!」
女神は、バッテンのジェスチャーをして、にししっ、と笑う。
「それでも女神かよっ!」
それに、背のちっちゃい年下にからかわれるの嫌いなんですけど!
「女神だし。私はもう、100歳越えてるしぃー!あんたって、本当に人が気にしてる事ばっかり突いてくるよね。」
んじゃ、ばばぁか。
とぼけた顔をして、言った。ふざけ半分で吏音は言った。
「なっ、なにをぉーーー!!!もう怒った!君転生ね!!じゃあね!サヨナラっ!」
女神は、素早く手を動かし、何かを操作する。
なんだこれ?魔法陣?体浮いてるし?!ホントに転生なの?!
「ま、待って!なんか持たせてくんないの?」
「君なんか知らないもん。持たせてやんなーい!赤ちゃんからやり直しなさいよ!べーっだ!」
「あ、ああ?!あかちゃ…?!」
なんか、気がとおく…なって……
「マジで、むかつく。何なの、あの人間。人間なんて…だから、嫌いなのよ!!」
001
「ルーラー様。赤ちゃんですよ。男の子です。可愛いですね」
赤ちゃん?可愛い?なんのことだ?ルーラー?誰それ?
「はっはい!ありがとうございます!」
「ありがとうございますって、ルーラー様の子供さんですよ。」
「あ、そうでした。すいません」
俺は今どこにいるんだ?なんも見えない。声だけが聞こえるだけか?うぐぅ…き、気持ち悪くなってきた。だ、誰かが俺を揺さぶっている?うぅ…
「いいこ~いいこ~」
いいこ?と言うことは、揺さぶられてるのは俺で、揺さぶっているのは、ルーラー?や、やめてくれ~!
「うなぁーー」
はっ!声が出た!けどなんで、うなぁ?あ、まさかあいつが言ってた赤ちゃんって、ホントに?マジもんの転生?まじかぁ。現実世界では、俺は、死んだってことになるのか。ごめんな。深鈴。
「な、ナースさん!今、この子が喋りましたっ!」
「あら、生まれたばっかの頃は声も出さなかったのに。これが、初泣きですね。」
「あ、名前何にしましょう?」
「旦那様はいないのですか?お仕事?」
「そうなんですよ。今、ちょうど遠出していて。」
ははぁーん。俺の母さんは、ルーラー。父さんはまだ名前分かんないけど、遠出してるんだな。(何を当たり前のことを考えてるんだ俺は)
「ライルでどうですかね?」
ら、らいる…?そういや、現実世界の俺は、吏音だったよな。ライルか。かっこいいなぁ。
ここ、異世界だよな?世界観どんな感じなんだろう?魔法使いとかいんのかな?空飛びたいなぁ。
「ライル。いいんじゃないでしょうか!お似合いですね。あっ!」
あっ!誰?看護師みたいな服装してるけど。あ、ナースさんか。
「ルーラー様!ライル君が!」
「あ!ライル!おはよう。目があいたのね。お母さんですよ。」
「なー!なー!」
おぉ!やっと目が空いた!って、母さん美人!一目惚れだなぁこれは。
天井は白いな。うーん、ベットの上か。なんか、普通の病院。あ、平民に産まれちゃった系?貴族とかだったら、家で医者とか呼んで出来るもんね。(俺の見解では)
じゃあ、主人公設定ではないと言うことらしいな。ホントにあの女神、地位もなにもくれなかったんだな。最悪な女神だ。現実世界の知識があるだけ、ましなのかもな。
それが、裏目に出ないようにしないといけないよな。
「ルーラー様。明日中に退院できます。それまで、ゆっくりしていてくださいね。」
「あ、付き合ってもらってありがとうございました。」
「はい。それでは」
明日退院できるのか。家はどんな感じなんだろう?やっぱり、平民だからそれなりの家なのかな。まぁ、家族でそろって、ご飯が食べれれば、幸せなんだけどね。
現実世界の俺の家は破滅的だったからな。ご飯も、何もかも勝手にどうぞって感じ。両親ともに働きっぱなし。一緒にご飯食べたいって何年言い続けたことか。結局最後まで一緒に食べれなかったけど。
産まれてから、5年で、父さんは単身赴任。母さんは、朝から夜まで、俺達のために仕事。帰ってくるのなんて、夜中。そのあと、妹が生まれてしばらくは二人ともいたけど、また、3年したら父さんは単身赴任で、母さんは、妹を預けて、仕事。それからと言うもの、家族で食べるときはなくなった。
妹が産まれてから9年、「一緒にご飯を食べたい。」そう言ってきたが、14歳になって、転生するまで一緒にご飯を食べれることはなかった。だから、転生したここでは、楽しく食べたい!
「ねぇ、ライル。明日には、家に帰れるんだって。久しぶりに帰れるわ。お父さんもあと、2日で帰ってくると思う。」
「なぁー!」
「嬉しそうで良かった!」
さぁ、明日が楽しみだ。
やっぱ、母さんは子供の事よく理解できるんだな。
ん?なんか眠いなぁ。さすが、赤ちゃんってとこか。母さん、おやすみ。
002
「なー。なーなー。」
「うん?ふぁーぁ。おはよう。ライル。早起きなのね。」
うん。なんか、起きちゃった。お腹すいた。
「わぁーー!わぁー!」
「ミルク?オムツかな?」
「みー!」
「みー?ミルクなのね?凄い!言葉わかってるの?」
ニコッ。うん。って言えないから、せめてもの相槌!これはいい。俺凄い。この歳(生後二日)で、言葉がわかるって天才になっちゃう!町じゃ一躍有名だぜ!前世の記憶持ちって、案外凄かったり?
「ぐぷぅ。」
「そうそう、ちゃんと空気はかないと、大変なことになっちゃうんだよね。偉い偉い。こんなに頭よかったら、有名になれるかもね。ライル。」
当たり前さ!なってやるよ。転生したんだからそのくらいしないと‼転生したら、それが生き甲斐って奴だろう?
「ルーラー様!退院の準備はできましたか?」
「はい!大丈夫です!」
おぉ!もう退院か!家が待ってる!これからの活動拠点が!
「はい!ライル。これがライルのおうちよ!ちょっと古いけど、古い良い感じがあって、素敵でしょ?」
ごとごとごとごと… ひひーんっ!
「ルーラー!」
「リヒス!どうしたの?帰ってくるのって、明日じゃなかったけ?」
会話の感じから、どうやら父さんだな?さぁ、どんな顔ですかね。母さん美人だから、父さんもイケメン?
「あぁ!だけど、子供が産まれるてって、話をしたら、帰って良いって言われたんだ。」
うおっ。父さん。い、イケメンだぁーー!何て幸せ。
父さんも母さんも、美人で、イケメンなら…俺も、イケメンになれるのか!
父さんも母さんも、仲良さそうで、優しそうで。うぅ。ちょっと泣けてくるかも。
違う意味でも泣けてきちゃうけど。それは、家の古い感じ。庭は田舎って感じで綺麗な桜の木があって、広くて良いんだけど、家が何て言うの?お化けが出そう。この世界に、そんな概念があるかは分からないけど。どうにかして、この外見変えられないかな……
そうだ!俺がお金稼いで、建て直してあげよう!そうすれば、もっと良くなる!
ライルは、今出来もしない事を、夢見る。
「おぉ!この子がライルか!おーい。ライル。パパだよぉ~」
「なぁー!」
ニコニコ。
愛情表現発動!
「ら、ライル!なんて可愛らしいんだ!俺の自慢の息子になるぞ!!」
「あ、リヒス!ライルは、揺さぶられるの嫌いみたいだから、気を付けてね」
はいそうです。母さん。ありがとうございます。現に揺さぶられて、気持ち悪いです。
「うなーーー!」
父さんっ!目が回ってる!世界が揺れてる!
頭が壊れる!
「あ、悪い。ライル。つい嬉しくて。」
ライルは、父さんに抱えられて落ち着いたと思った矢先、ホッとして体の力が抜けて、K.O.
父さんにあそこまで、言われると悪気はかったみたいだけど。でも、こんなことされるの初めてかも。嬉しくて、ついってのは。愛があるってことだよなぁ。
「リヒス。家に入りましょう!風邪引くわ。」
「あぁ。ライルを頼む。俺は馬車をしまってくる。」
馬車か。じゃ、馬車と馬が入れるくらいの倉庫的なのがあるんだな。
「ライル。これが家のなかよ。意外と綺麗でしょ?」
確かに、外見からは考えられないくらい綺麗だ。ギャップがあって良い。これじゃあ、建て直すのはもったいないな。やめだやめ。
広いキッチン、食卓。壁は白と木の色がいい感じにマッチしている。灯りが、蝋燭ってのが、結構いい雰囲気を出している。
どうやら、とっても敷地は広いみたいだ。キッチンと食卓、リビングと間取りがとても広い。庭も、テニスコート2面分はあった。2階には、寝室と子供部屋、書斎。あとは、母さんの仕事部屋らしい。
「病院から、ここまで結構距離あったから、疲れたでしょう?ちょっと、昼寝しようか。」
「なぁー!」
「あ、そうだ!リヒスにライルが、言葉わかってるって教えてあげなきゃ!ちょっと、ねんねしててね。」
俺を、子供部屋の、ベビーベットの上に寝かせて、母さんはせっせといってしまった。
いかにも子供部屋って感じに、おもちゃが転がっている。ほんとは、貴族の家なんじゃ。と思えるくらいの、揃いぶりだ。遊びたくなってきたけど、まだ首が座ってないから、寝返りできないし、座れもしない。立てもしないし。
赤ちゃんって、こんな感じなんだ、普通大きくなると小さい頃の記憶ってなくなっちゃうからな。赤ちゃんの気持ちが分かった気がするよ。
はぁ、寝るしかないのか。眠いから良いんだけど。
この期に改めて考えてみると、俺って本当に転生してたんだな。って思う。不思議じゃないか。今までの生活がついさっきで、全く違う生活に変わってしまった。素晴らしいことなのかもしんないけど、現実世界の俺が死んでいると思うと、ゾッとしてしまう。一度死んだことがある。という、苦痛は、二度と実感出来ないかもしれないけど、もう二度と実感したくはない。もう二度と……