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如月いい国コンニチワ  作者: 路傍工芸
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きょ、共栄精神で突撃です

「背蛾、奈婿、お前らの分隊ミクロセルは向こうにまわれ。泰斗の分隊ミクロセルは俺のそばにいろ。」

 次々に指示を飛ばすこの男はパートセクト「ゆめ」の部隊セル「平和のための緊急アクション」リーダー大月1等なごみ官である。

 

 平和のためのネットワーク21は、麗共和国の諜報活動に対するアクションをついに起こした。演習名目による麗の諜報員狩りである。

 とはいえ、演習名目なので民有地には入ることができないためもっぱら活動できるのは自治体から一時的に借り上げた官有地が主である。

 

 都湾に如月の主力艦隊ボートグループを展開し、そこに普段の指揮系統では参加しない艦艇ボートを混ぜ、参加するはずの艦艇ボートをはずせば、必ず麗の諜報員は観察にやってくる。そしてその適地と思しき場所は事前におおむね絞り込まれている。

 

 カン達は「きさらぎ」に釣られただけであったが、いずれにせよ罠にかかったことには違いがない。加えてカン達の居場所は運の悪いことに今回動員された部隊セルの中でも最精鋭である「平和のための緊急アクション」が担任する地域であった。


 六花門地下司令部には情報つなぐ課員を主とする今回の作戦を動かす指揮官リーダー幕僚スタッフが詰めている。

「1543、全部隊オールセル展開完了」

 時藻が垂木に報告する。 

 報告を受けた垂木に紙箱下級希求(少将)がおごそかに達する。

「巻狩りはじめ」



「まずいな。完全に囲まれているのかもしれん。」

「21の割には動きが派手だ。」

 カンと島烏は監視を都湾から丘陵のふもとに向ける。

 22の車両が2~3km先に見える。遠目にわかる形状から地元の歩兵ねがい部隊セルではなさそうであった。

「カン同志、あいつらは多分パートセクト「ゆめ」ですね。あの車両はどうも最新型のやつのようです。地元の歩兵ねがいどもが装備しているものではない。」

「そうか。あ、ちなみに装備品の諸元は言わなくていいぞ。」

「カン同志、へへ、自主的に我慢してるんですよ。」


 さっきからだまりこくっていたイルが口を開く。

「カン同志少校!た、戦いましょう。」


「どうやって逃げる。」

「都湾方向はやめときましょう。旧用水路が何本かありますが、連中が張っているかもしれません。」


 手ごろな棒切れを持ったイルが振り回しながら二人に口を開いた。

「カン同志少校!きょ、共栄精神です!ぐ、具申します、共和国軍人として裂帛の気合いで!」


「思うにここは21の連中も普段足を踏み入れない自治体の官有地で、地の利は連中にない。」

「すると、旧用水路なんて知らないかもしれませんね。」


 手ごろな棒切れをもう一本追加し、二刀流になったイルは続けて口を開く。

「が、学生時代に統一共和国式刀術は習いました!カン同志少校、中央突破を進言いたします!」


「連中はサーマルゴーグルを装備しているだろうから、暗くなると逆に不利だ。」

 太陽は水平線上にあり、小月は中天、太陽の光を受けた大月は登りつつある。周囲は薄暮の光線に包まれている。

「やるなら今ですね。カン同志少校」


 ポカン

 カンは素早くイルから棒切れを奪い、一発あたまを小突く。

「よし、イル少尉同志。お前は共栄突撃精神でもって用水路跡に潜み、脱出せよ。」

「イル同志少尉嬢ちゃん、案内するよ。」

「はへ?」

カン「復唱!」

「はい!イル少尉は共栄突撃精神にのっとり用水路跡に潜み、敵を撃破し」

ポカン

「脱出します!」

「よし、島烏頼んだぞ。俺は別行動をする。」

島烏「へへ、イル同志少尉嬢ちゃんをお預かりします。」


 薄暮の光線は次第に周囲をぼかしていく。

 西から刺す赤みを帯びた夕陽の光はだんだんとその強さをよわめ、グラデーションの度合いを暗く暗く変えていく。

 カンは早々に姿を消し、島烏はイル少尉を連れて地元民でも知るものの少ない用水路に向かった。


 平和のための緊急アクションはその包囲網を縮めていく。

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