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如月いい国コンニチワ  作者: 路傍工芸
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わかったけどわからない

 銀城かねき不動産

 在月麗人共助会に連なる企業で、社長は銀城辞郎

 在月麗人3世である。

「ほんなら、アパート契約完了・・・っと。」

 銀城はリズムのついた喋り方でハンコを押した。

「毎度もうしわけないですね、社長」

「ええってことです、助け合いですよ。

 嬢ちゃん、悪い人うちにあげたらあかんで。」

「はい・・・ありがとうございます。」

 

 この日をもってイルは自分のアパートを手に入れた。

 如月という敵地に単身潜入という生活上の異常事態により麻痺していたが・・・

「銀城さんのおかげでようやく嫁入り前の姪っ子を独り暮らしさせることができます。」

「隣のアパートだから勝手もいいでしょう。お役に立ててよかったよかった。

 なんぼ叔父とゆうてもねえ、外聞が悪いからねえ。」

「あぁ、はぁ。」

「うちの不動産はね、役所や警察、21の人たちもたくさん使ってくれてるから、自分で言うのもなんだけど信用されとるんよ。外人なんやけどね。ありがたいことに。」

「銀城さん、それじゃまた。いつか五千里で冷麺おごりますよ。」

「おおきにな、他部中さん。

 嬢ちゃん、なんぼ同朋でも麗人連合会の連中だけはあかんで。金むしられてまう。」

「セっちゃん、銀城さんのいうとおりだ。困っても頼る相手は気をつけんとな。

 では、また。」


 帰路、イルは尋ねた。

「他部中さん、ずっと、その。」

「なんだセっちゃん。」

「はぐらかされている気がいたします。この際はっきりたしかめたいのですが、よろしくありますか。」

「セっちゃん軍人みたいな喋り方だね。」

「はっきりたしかめたいけど叔父さん、いい?」

 季節は春

 桜花の並木が美しい。近くの小川に花弁がひらひら降りそそぐ。

 イルはひとひらの桜花を掌につかまえ、眺めながら他部中に尋ねた。

「ときどき聞く21という組織?っていうかグループ。この花弁をトレードマークにしてますよね。」

「やめやめ、この話やめよっか。」

「また逃げる!おじさん!」

 他部中は歩みを止め、小川に降りる石の階段に腰かけた。

「どうしてもその話やんなきゃダメ?セっちゃん。」

「叔父さん。他部中節花たぶなか せっか、あらためてご説明いただきたく存じ上げます!」

「軍人ごっこやめようよ。」

「それですよ。21って、軍事組織なんですか?他に22とか23もありますよね。」

「あー感づいちゃったかあ。面倒だなあ。実に面倒だ。」

 他部中はあたりをみまわした。

 見通しの良い小川沿いの道路

 周囲に人はいない。間断なく走る幹線道路の車の騒音で普通の会話なら聞かれようもない。

「21というのはな、如月軍なんだよ。」

「軍警とか親衛軍とかそういった準軍事組織ですか。」

 他部中はかぶりをふった。



 ところをかえ、ここは六花門地下12階

 如月の軍事中枢である。

 煌々たる照明下で会議が行われている。

「以上、報告を終わります。」

「ご苦労、芝紙君」

 ねぎらう声の主は咲反さきたん即希求

 わかりにくいことこの上ないが、即希求とは戦前の如月軍制でいうところの元帥にあたる階級である。

咲反「昨今、北麗の動きが活発化している。特に国内における諜報活動が今の報告にあったとおり、非常

   に激しい。潜伏する諜報員数は概数であるが、年々増えているようだ。

   この件について「つなぐ」課長」

「つなぐ」課長、情報課長のことである。

 課長は垂木だるき上級和平。垂木大佐といったところである。

垂木「はい、垂木上和(上級和平の略)です。

   即希求閣下がおっしゃられた通り現在国内での北麗による諜報活動は活発化の一途をたどっており

  ます。「つなぐ」としても対抗措置を粛々と打っておるところであります。

   時藻ときも下和、彼を。」

 時藻と呼ばれた男は少佐にあたる階級である。ほどなく彼は一人の黒ずくめの男を連れてきた。

時藻「彼は先月、北麗から潜入してきた諜報員で、軍情報隊大尉。亡命希望者であります。」

ソン大尉「恐縮です。」

 ソンの挨拶に会議参加者一同からどよめきがわいた。

咲反「報告は受けていたが、驚いたな。亡命者は定期的にやってくるが、軍情報隊の中堅将校とは。」

時藻「彼の協力により、北麗諜報の一端が解明できそうであります。」

咲反「あらためて言うまでもないが諸君。我々は如月国防の重責を負う、平和のためのネットワーク21

   である。平和希求官として、北麗による間接侵略を見逃すことはできない。

   この際、徹底的にやっていこうと思う。」

垂木「我々22のみならず、ネットワーク23及び24との協力体制も着実に構築中であります。

   特に23の3個リベラルボートセル、24の2個パシフィック飛行セルは現在諜報対処中の3個

  「ねがい」マクロセルとの連携をとりつつあります。」

ソンが時藻に耳打ちした。

ソン「まったくわからない。」

時藻「だろうな。これについてはおいおい勉強してもらうが、今は私が翻訳しよう。

   我らは陸軍のみならず海軍、空軍との協力体制構築中

   特に海軍の3個巡洋艦隊と空軍の2個飛行隊は陸軍の3個連隊と諜報対処の連携をとりつつある。

   ・・・だ。わかったかね大尉」

ソン「わかったが、なんでそんな名前をつけているのかまったくわからない。」

時藻「それは我々もわからんのだ。」

 時藻は会議列席の将星たちに聞かれないよう苦笑を漏らした。



 ところは戻ってアパート近くの小川

 一陣のつむじ風が地吹雪のように桜花の花弁を巻き上げる。

「・・・というわけだ。わかったか?」

「なんとかわかりましたが、なんでそんなまわりくどい、というか意味不明な言いかえをしてるんですか、おじさん。」

「如月人もよくわかってないらしいぜ。はい、やめ。この話題やめよっか。」

 他部中カンは誰に聞かれてもかまわない大声で苦笑大笑

 つられて節花ことイルも大笑い

 二人は陽光の中アパートに帰宅していった。

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