第8話 限界突破
死霊騎士が自分の間合いに捉えようと距離を詰める。だが、槍使いにおいて、正面から突っ込んでくる敵などただの獲物。
速攻――――放たれるは一点集中の突き。
槍の矛先は死霊騎士の肩へと吸い寄せられる。
死霊騎士は最初のことで学習したのか、カウンターではなく大剣で弾きにきた。金属の塊ともいえる大剣が振るわれることで、大気が揺れる。
「グッッ!?」
ここにきて初めてお互いの得物がぶつかり合う。鳴り響く金属音。交差する殺気。一瞬の油断もあれば命が狩り取られると容易に想像出来るほどだ。その中での力のぶつけ合い。
結果、俺の体が槍ごと吹き飛ばされる。しかし、すぐに受け身をとり衝撃を地面に受け流した。
(と、とんでもないパワーだ!!)
ただ槍が弾かれた――――それだけなのに手が、肩までもが信じられない程痺れる。
手の感覚などほとんどなくなり、両手が自分のものではないように感じる。それほどの衝撃。
たった一合…武器を交わしあっただけでこれだ。次も同じように武器で受ければ手が使い物にならないだろう。
(やはり、正面からまともに剣を受けるのはダメだな…)
筋力差が10倍以上、真っ正面から受ければ確実に負ける。だからといってすべての攻撃を受け流す技術もない。
(でも今の俺が受けに回ったら勝ち目はない!)
受け身とった体勢からすぐ様立て直し、足に力を込める。
ステータスも技術も負けている状況で、体力が尽きかけている今、受けに回っても延命措置に過ぎない。なら僅かでもいい…勝機のある方に賭けるに決まってる。
死霊騎士の間合いにわざと入り攻撃を誘う。
何故相手の間合いにわざわざ自分から入ったのか?
それは、集中力を高め自分を極限状態に追い込むため。
また正面から攻めればどうなるか?
力負けは必須。
なら突きや払いを大剣で防がれず攻撃するには、カウンターを狙うしかない。
間合いに入ったことで、死霊騎士から繰り出されるのは圧倒的パワーが込められた左上段斬り。【危険感知】が反応する。
(まだだ、もっと引き付けてから…)
ギリギリまで引き付けさせ、大振りを狙う。
非常に危険を伴うが、大振りをすれば必ず大きな隙が生じる。
(あと少し……今だ!)
【危険感知】と【思考加速】を同時に使い、剣先が肩まで残り1ミリをきったところで、右側に屈むようにして避けた。
死霊騎士はそのまま大剣を振り切ってしまい、斬ってくれと言わんばかりに隙ができる。
(体力的に全力で放てるのはこの一槍で最後だろう……だからこの一槍に――――)
―――――すべてを使いきるッ!!
「ハアアアアアァァァァァァァッッ!!!」
穿つは眉間。撃ち放つは全身全霊の突き。
足を踏み込み下半身の力も乗せた攻撃。しかしこれでも……
―――――倒せない。
死霊騎士のHPは半分以上残っている。そして今の一撃では到底ダメだ。
(全身全霊じゃ足りない。)
限界を決めるな!己の限界を超えろ!
相手は強い、それこそ俺とは比べものにならない程に…
そんなのは知っている。何度も確認した。そして何度も絶望した。
そう、何度も何度も何度も何度も………
何度もっ!!
でも、勝負に100%などない!少しでも可能性があるのなら…
掴み取り、奪い取れ――――
100%でダメなら120%を捻り出せ―――
体力がないのなら魔力を振り絞れ―――――
自分の限界がここならその限界を突破しろ――――
最強の一槍をッ!!!!
【限界突破を取得しました】
【魔闘気を取得しました】
【魔力撃を取得しました】
貫かれる大気。
閃光の如き速度。
可視化出来るほどの魔力。
すべてを絞り出した一突きが、死霊騎士の眉間を貫き、頭蓋骨を粉砕する。
その衝撃に耐えきれず同時に槍も砕け散る。
【経験値を3270獲得しました】
相手の死を報告するかのように膨大な経験値が入ってきた。それに続き、レベルアップの告知も連動して聞こえてくる。しかし、それよりも…
「どうだっ…生き抜いて…やった……ぞ…………」
体力も魔力もすべてを使い果たし、意識が遠退いていくなか掠れる声で、過去の怯え恐怖する自分に言い放つ。
無力ではないと―――――
その言葉を最後に、体力を完全に使いきり意識を手放す。