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第7話 無力



極限の集中化、瞬きすら許されない延ばされた時間のなか考える。


(あと、どのくらいの時間だッ!)


本来、戦闘の…それも不利な状況で余分なことに使う集中力はないはず。だが…


(かれこれもう5分はたったぞ!?)


【殺気】によって能力値が減少させられてから既に5分が経過している。しかし、一向に解除される気配がない。


「はぁ、はぁ、はぁっ」


5分間ずっと攻撃を避けてきて体力が限界に近い。

足取りは重くなり、1つ1つの動作が鈍くなる。

落ち始める判断力。

攻撃を避ける度、肩で息をする。


極限まで高められた集中力で走馬灯を見るが如くゆっくり見える。

そこまで研ぎ澄まされた集中力をもって今まで避けてこられた。

その集中力も最早限界。



対して死霊騎士の体力は無限大。

繰り出す攻撃は、どれも衰えの色が見えない。

圧倒的なまでの圧力を感じさせる一刀。

見事な足さばき。

正確な判断力。


何を取っても俺を凌駕している。


(これが人間とアンデッドの差…)



仕方ないと言えばそこまでだが、あまりにこの差は大きい。



この瞬間にも止むことのない斬撃の嵐。

首を両断すべく放たれる一閃。

【危険感知】が警鐘を鳴らす。元々、紙一重で避けていたのにも関わらず、今は体力も精神力もほとんどない状態。


一瞬、判断が遅れる。


(まずいッ!!)


僅かな隙――――それすらも戦闘中には命取りになる。

剣先は頸動脈を捉えすぐそこまできていた。


(くそッ、間に合わない!)


すぐに重心を後ろに持っていき、バックステップを踏めばまだ希望は?

ダメだ。下がりきれる余裕がない。


屈んで、攻撃をやり過ごすか?

それも間に合わない。


なら、槍で剣を受ければ…

槍を首元に構えるときにはもうすべてが終わった後だろう。



なら……ならっ、どうすればいいんだよっ…



避けようにも身体が思考に追いつかず、脳裏に浮かぶ一文字。




――――――――死




絶体絶命…それは今のことを指すのだろう。

対策を立てても、もう遅い。




弱者は強者に淘汰されるのみ。

弱いからいけない。

弱者だから何もかも奪われる。

底辺にいるから何をしても無駄。




どこから間違えたのか?

出会った直後逃げ出さなかったこと。

勝てる可能性があると思ったこと。

時間稼ぎをするために受けに回ったこと。

わからない…


でも1つだけ分かることがある




――――――――()()




それだけは分かる。今まさに体現してる最中だ。

無力だから抗えない。

端から逃げることだけ考えればよかった。

最初から一目散に逃げ出せばよかった。

凡人が愚かにも上を目指したのが間違いだった。

可能性があると勘違いしたのがいけなかった。

何もかも間違いだらけ。

なにもなし得ない人生。

なに1つ残せなかった人生。

無意味。それが似合う一生だった。

もし、次があるのなら…




誰にも負けない最強になりたい。





何があっても屈しない程に






それこそ()()()()の頂点に…









身体は重いし、頭を使い過ぎて気持ち悪い。

もういい、疲れた…休もう。



思考を止め、身体から力を抜き運命に身を任せようとしたそのとき…



《【殺気】が解除されました。》



走馬灯で引き延ばされた永遠とも言える時間に届いた声。考えることを止め真っ白になっていた頭のなかで反響する。


(俺にまだ戦えと?すべてを諦めたこの俺に!?)


もうダメなんだ。遅すぎる。

手遅れだと言い返す。

対する謎の声は…



【身体操作を取得しました】



諦めるな、まだやれると…スキル取得のアナウンスで返す。


だが、もう疲れたんだ。眠らしてくれ。


このダンジョンで目覚めてから、今まで1人で頑張った。ここにいる以前のことは覚えてなく、家族もいたかすら不明。誰も俺を知らない。ただひとり。孤独。


正直、起きたときは何がなんだか分からなくて怖かった。この声が聞こえて少しは紛れたが、それでも内心は怯えてた。平常を保つために、冗談や面白いことも考えようとした。でも、それでも、完全には紛れない。だから非力な俺は、少しでも強くなろうとした。


頑張った…頑張ったんだ。


でも、その結果が今の状況。

本当に笑えるだろ?生き残るために、恐怖を拭うために強くなろうと戦っていたのに結局はこの様。何も出来てやしない。自分の命さえ守ることも。


それに…


(今の俺になんの価値がある?)


自分には価値がないと促す。

地位も、権力も、金も、力もっ!

何も有りはしない。

無価値で、無意味で、無力で、無謀…それが俺だ。

だから、もういいと…


それでも背中を押してくれる声。



【歩法を取得しました】



お前は諦めないのか、この状況で!!

俺はすべて手を尽くした。必死に、必死に考えた!生きるために何度も試行錯誤した。何度も運命に逆らおうとした。絶望しようとも歯を食い縛り、自分を奮い立たせる。そうやって、耐えていたんだ。自分になら出来る。可能性があるなら諦めない。変われる。そう思っていた。でもお前は…


何故、そこまでする?


お前は俺のことを何も知らないだろ。

俺の何が分かるんだよ!

気づいたときにはひとりで、自分のこともよく解らない。家族の顔も名前も覚えてない。居たかどうかすら解らない友人!

何もかも覚えてない。思い出すことすら叶わない。

誰を信じていいのか、誰を頼ればいいのか、そんなことも…


解らないんだよ。



お前は一体、俺のなんなんだ!?






【称号「願い」を取得しました】



――――――――――願い



お前にとって俺は、願われるほど生きていてほしいのか?


願ってくれる位の価値があるのか?


諦めなくていいのか?


側にいてくれるのか?



【身体操作がレベルアップしました】



そうか…


俺はひとりじゃなかった。

どこの誰かは知らないが、俺に生きてほしいと願ってくれる。価値があると言ってくれる。諦めなくていいと。

誰かが側にいる。こんな当たり前なことがここまで嬉しいなんて。

俺は救われた、生きてて欲しいと言う願いに。

なら少しでも恩返しに、その人のために生きよう。




己の無力を知り、尚立ち向かえ。


最弱でありながら抗い続けろ。


最強になるその日まで。


()()()()―――――




意識を切り替え、首元に迫っている大剣を見据える。そこから剣速、角度、距離を確認し、到達時間を逆算。そして自分の反応速度の限界と照らし合わせた。


(間に合わない…)


体の動作とは、視認して脳に情報が伝わり、そのあと脳が体の部位に伝達信号を送ってキャッチしてから始めて行動に移すことができる。


(今から首を断ちに来る一刀を避けるには、動作自体を速くするしかない。)


伝達信号を速くしようにも、それは意識して易々行えるものではない。だが、動作を速くすることなら…


(今の俺にも出来る。)


新しく取得した【身体操作】と【歩法】を使い、大剣が向かって来る方向と逆の方に飛び退けば避けられるだけの時間はある。

今までは【思考加速】で強化された意識に身体が着いて来れなかったけど、2つのスキルを同時使用すれば、多少は解消される。頭の中で行動パターンを考え終わり、実際に動きに出す。


【身体操作】を使い、身体のリミッターを外す。瞬間、身体の奥から力が溢れ出る。だがすぐに、数倍にまで引き上げられた力が暴走しないようギリギリの出力で、力加減をしながら足の指先まで精密にコントロール。そこから【歩法】を使用。

【歩法】によって飛び退く時の膝の角度、僅か足の向き、動かし方。それらを完璧に寸分の狂いなく行う。


呼吸すら許されない刹那の時間、その一刀は微かに首の薄皮一枚を斬るが俺を殺すに至らなかった。


(あと数ミリずれていたら頸動脈に届いていたな。)


避けることは出来たが、まだ勝ててはないのだと再確認する。そして、死霊騎士から距離を取り槍を構え直す。



さぁ来い、死霊騎士。



今の俺は無力(さいきょう)だ!!


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