第5話 死霊騎士
とっさに戦闘体勢に入り、【アイテムボックス】から槍を取り出す。一連の行動は今までにない以上に素早く行われた。
(どうする、どうすればこの状況を打破できる!?)
意識を集中させ、最悪の状況を防ぐべく思考を加速させる。
(ここから逃げるべきか?いや、扉が閉まっていてすぐに開けることは無理だ!じゃあどうする?)
さらに思考を加速させ頭を使う。頭を使いすぎて脳内神経が焼き切れそうだ。
【思考加速を取得しました】
危険感知に続き、またスキル取得のアナウンスが聞こえた。
(うるさい!!今はそれどころじゃない!)
相手の一挙一動を見逃さずに頭をフル回転させる。
それも自分より格上で殺しにきてる相手にだ。そんな状況で冷静になることは簡単じゃない。だからと言って今、冷静さを失えば命取りになるだろう。
(落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け …)
これを何度も繰り返してないと、相手から目線をそらしてしまいそうになる。それほどさっきの投擲には、力量さを感じるものがあった。
【恐怖耐性を取得しました】
恐怖を押し殺そうとするなか初の耐性スキルを取得した。
思考加速のときはこの声にすらイライラしたはずなのに、今回はむしろ逆。精神的に楽になってきた。恐怖耐性の効果は効いており取得してから徐々に冷静さが戻る。
(落ち着け…まずは相手のステータスを見て能力を分析することが重要だろ。)
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種族:死霊騎士
Lv47
HP3170/3170
MP60/60
筋力 660
耐久 340
敏捷 50
魔力 20
ランク C
耐性スキル
【光属性耐性Lv3】
ノーマルスキル
【格闘術Lv3】【剣術Lv4】【殺気Lv1】
【歩法Lv1】
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こいつ…死霊騎士は俺よりも格上だと分かってたが、ステータスを閲覧してそれは確信に変わった。
(強い!予想はしてたがこれ程とは)
ほぼすべてのステータス面において相手が上回っている。特に筋力と耐久は俺の10倍以上。絶望的といっても差し支えない差。当たり前だがこれ程ステータスに開きがある敵と殺りあった経験などない。
(正直言って怖い!本当に身体が震える。まともにやって勝てる気がしねぇ…)
また身体が震えてきた。耐性スキルを取得して治まった直後なのに、数値を見て明確な差がわかったことで、さらに恐怖する。
【恐怖耐性がレベルアップしました】
取得したばかりの恐怖耐性がレベルアップする。それほど身体が、本能が、魂が逃げろ叫んでいる。だけど出来ない、いや敵がさせてくれないだろう。だから歯を食い縛り、震える身体を止め、恐怖から臆さず向かい合う。
(生き残る……絶対、絶対にだ!!!)
【称号「逆境」を取得しました】
生き残る―――――それには俺が唯一勝っている敏捷を使って優位に立つしかない。
死霊騎士のステータスを見た限り戦い方は高いHPと筋力を生かしたパワータンク系。一撃でもまともに受ければ待っているのは確実な死。でもまともに攻撃をもらえばの話だ。
今の俺の敏捷は52それに対して死霊騎士の敏捷は50。誤差範囲と思うかも知れないがそれでも僅かに俺が勝っている。
(勝機があるとしたら、敵の攻撃をすべて捌き俺の攻撃だけ通すことだ!)
だが、実際攻撃をすべて捌くとなると、相手より遥かに技術面で優れてないと困難である。でも俺のスキルの中で最も高いのは【槍術Lv3】。だから現実問題やるとなると難しい。なら武器の長所をすべて生かしきり戦うしかない。
槍という武器はリーチの長さが長所でもあり短所でもある武器だ。だから懐に潜り込まれたら一気に劣勢に持ってかれる。この戦いにおいてどれだけ相手を懐に潜り込ませずやり抜くか。それが勝敗を決めるだろう。
そして槍の攻撃手段として、主に突きと払いがある。
突きはモーションが少なく攻撃速度が速いうえ、力が矛先一点に集中する分攻撃力が高くなる。しかし、突きの攻撃は利点だけでなく、弱点となるところも存在する。それは突きを放つとき力が矛先一点に集中する分、攻撃範囲が点になってしまうことだ。
逆に払いは、面攻撃ゆえ突きと比べ制圧力が高く、見切られにくい。だが払いも突きと同様で、弱点部分がある。一つ目は、モーションが大きくなり攻撃速度が遅くなること。二つ目は、攻撃範囲が広くなる分、力が分散してしまい攻撃力が低くなってしまうことだ。この突きとは対極になるような二つが主な弱点と言える。
それを踏まえた上で、仕掛けていかないと倒すことなどできない。それほどの相手。本来もっとLvや技術を身に付けてからやり合うべきだった。
(だけど、そんなのは関係ない。今ここでやらないと死ぬ!)
地を蹴るや、死霊騎士目掛けて一気に駆け抜ける。
「うおおぉぉぉぉっ!」
自分を奮い立たせ、身体の底から力を出す。今の俺があの耐久力を打ち破るには、一撃一撃を全力で攻撃しなければならない。
槍の矛先を寝かせ、喉元を狙っての突き。
――――その瞬間【危険感知】が反応した。
すぐさまバックステップをして、距離をとる。
一呼吸もせず大剣が通り過ぎ、もし攻撃を続けていたらと思うと背筋に戦慄が走った。
「――――ッ」
(こんなこと端からわかってたことじゃねぇか!)
再び足に力を込め、死霊騎士に向かって駆け出す。
死霊騎士を間合いに捉え、放つのは三連突き。
「ハアァァッ!」
俺のことを格下と思い舐めているのか、突きを大剣で受けるのではなく、攻撃に合わせカウンターを狙ってきた。
【危険感知】と【思考加速】を最大限使い、カウンターをスレスレのところで避け三連突きを叩き込む。
三連突きをまともに貰った死霊騎士はダメージを受けたのか、僅かに後ずさる。その隙を見逃さず、さらに追撃をかけるため自分の間合いに入るように踏み込む。次に放たれたのは、下半身に向けての薙ぎ払い。
(いける!!)
下半身、それも間接である膝部分を壊しにいく攻撃。
薙ぎ払いを受けた死霊騎士は体勢を崩したが、大剣を杖がわりにしてなんとか転倒するのを防いだ。
死霊騎士からこれまでより濃厚な殺気が向けられる。
これ以上の追撃は危険だと思い、一旦間合いの外へ下がった。
(凄い殺気だ!思わず目を逸らしそうになった。でも、殺気をより放つってことは攻撃が効いているんだよな?)
ダメージは本当に入ったのか、入ったのならどの程度なのか?それを知るためにステータスを閲覧する。
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種族:死霊騎士
Lv47
HP2383/3170
MP60/60
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(効いている!俺の攻撃でもダメージは通る!)
相手のHPが少し減っただけで、歓喜する。
それも当然。
何故ならダメージを与えられるということは、倒すことが不可能ではないと、証明されたからだ。