仲違い
呆気なくその決意が崩されたのは
ティルダの大切なルカとのお昼の時間にミアが場所を見つけ出し居座ろうとしたからだ。
教師の一件からミアの突撃を受け入れることにしたが、話だけは聞くが、もう一度部屋に入れて欲しいとかお揃いのお化粧をして欲しいとかそんなお願いは却下してその度「ティルダちゃんってつまんないね」と言われても耐えてきた。
ルカの話を聞き出そうとしてきた時に激しい苛立ちを感じた。
「嫉妬深い人って嫌われちゃうよ!ティルダちゃんにお似合いの人か私が判定してあげるから紹介して!」
と理解できない発言を聞き流しながらなんとか日々を送ろうとしたが、
ついに昼休みのティルダを尾行してルカとの食事場所まで突撃してきたのだ。
「誰この子?」
「初めまして!ティルダちゃんの親友のミアです!ご一緒していいですか?」
「ん?僕は嫌なんだけど、ティルダは?」
「私は…」
「ティルダちゃん!」
ティルダは嫌だと言いたかったが、またこれもいじめなのだろうかと迷ってしまった。
「ふーん。やっぱ君帰って。僕とティルダは学年が違うから昼休みくらい一緒に過ごさせてよ」
「私が一緒でもいいじゃないですか!」
「親友なら僕たち恋人同士なの知ってるでしょ?気を使ってよ」
「学園でふしだらです!」
「何想像したかしらないけど早く帰ってよ」
「ティルダちゃんの馬鹿!知らないんだからね!」
走り去っていくミアを呆然と見送るしかなかった。
「何あの子?」
「ミアっていう転校生で」
ティルダはルカとの大切な時間にミアのことを話するだけで嫌で話せていなかった。
「彼女とは気が合わず関わろうとしないようにしたことがあって、先生にそれはいじめだと注意された。…どうしよう。またこれもいじめで父さんと母さんが呼ばれてしまうかもしれない。どうしよう」
ティルダは目頭の痛みに耐えた。泣いてもどうにもならないのがわかってるからだ。
「ティールダ」
ふわっとルカの両手に包まれて抱きしめられる。
反射的にギュッと抱き返すとルカの香りで自然と気分が落ち着いた。
「今回のことはティルダ悪くないでしょ?僕が嫌だったんだ。せっかくふたりの時間だったのに。先生に何か言われたら僕を呼んで?僕からも説明するからさ」
「ルカ…ありがとう…」
ティルダのお腹がぐうぐう鳴って笑い合うまでふたりは抱きしめ合うことをやめなかった。
ティルダは教師に呼ばれることはなかった。
拍子抜けしたティルダにミアが近づいてきて
「ねえティルダちゃん!ふたりの邪魔するのはやめてあげるけど、私個人がルカ先輩と仲良くするのはいいよね?」
(嫌だ)
口には出せなかった。だって誰と仲良くするのかなんてルカの意思で決まるものだからだ。
ミアもそれがわかってるのだろう。
「近くでみてもほーんとかっこいいね。私ティルダちゃん大好きだから、ルカ先輩が浮気しないように見張っててあげるからね!」
そう言ってミアは走りさっていく。
それから急激に噂が駆け巡ることになる。
ールカはティルダと別れてミアと付き合おうとしているー
「本当に噂って当てにならないよねー嫌いだわー」
「ルカ」
ぷんぷん怒りながらティルダに膝枕をされてるのはルカだ。ふたりは場所を変えて昼の時間を過ごすことを変えなかった。だからあんな噂なんでもない。
なんでもないはずなのだ
『ルカとミアさんって並ぶとお似合い恋人同士だよな』
『ティルダとだと男同士にしか見えないし』
『喧嘩するほど仲がいい』
なんにも知りもしない人たちの言うことなんて気にしなければいいはずなのだ。
ルカはこうしていつだって愛情表現をしてくれる。
放課後はティルダがルカのところへ行くより早くミアがルカの隣に居座る。
するとティルダはなぜかふたりに近寄れなくなる。
ルカが
「あっち行って」と邪険にしてもミア嬉しそうにルカの周りを付いて回るのだ。
「そんなこと言って嬉しいのバレてますよー!」
「本当に気持ち悪い」
「ルカ先輩って小さい頃絶対好きな子いじめるタイプだったでしょ」
ルカは決して楽しそうになんてしてないのにティルダの胸にはどんどんともやもやが溜まっていく。
意を決してふたりに近づけばあっさりするほどミアは引いていく。
最近のミアはティルダを見ると怯えたような目をして去っていく。
「ティルダー癒して」
ぽふと肩に頭をのせるルカからミアの香水が香ってきてティルダは泣きたくなってしまった。
ある日の放課後。ティルダは見てしまう。
ルカとミアが抱き合っているところを。
「ルカ!!!」
「ティルダ!」
「わ!ティルダちゃん怖い顔が余計怖いよ?」
「出ていけ!」
空間全体がビリビリと波打つ。
怒ったティルダは鬼といってよかった。叫びながらミアは走り去っていく。
「ティルダ!ティルダ!」
「ルカの浮気者!」
「違うけど!違うけどごめん!」
「ひどい。ひどいよ」
「ごめんよ。ティルダ」
「なんで抱き合ってたの?」
「いや、ほんと急に抱きついてきたんだよ。ごめん」
「ほんとにそれだけ?」
「それだけだよ。なんかあいつ変なこと言ってて」
「変なこと?」
「ティルダにいじめられてるって。睨まれるし暴力も振るわれてるって」
「信じたのか!?」
「信じるわけないじゃん!落ち着いてティルダ」
「大体なんでルカがあの子と話す必要があるんだ!?ルカも本当は嫌じゃないんじゃないか!?」
激情に駆られながらももう一人の自分が警鐘を鳴らす。
『苦手なミアを大好きなルカが苦手じゃないというのが許せないのは傲慢だ』
そう。ティルダはルカにもミアが苦手であって欲しかった。めげないミアにルカが呆れながらも返事をすることすら嫌で嫌で仕方なかった。
「ティルダ…」
「ごめんねルカ。ひどいこと言った。今日はもう帰って頭冷やすよ。ごめん」
八つ当たりだってわかってるのに。
ミアの存在を疎ましく思う自分の性格の悪さに辟易とする。
ミアが現れてからティルダは自分がどんどんと嫌な人間になっていくような不快感に襲われる。
こんなんじゃルカに嫌われてしまう。
ルカが好きだと言ってくれたティルダはどんな人間だった?
ミアともルカとも明日もう一度話そうとティルダは決意した。