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転入生

ミアという子は、

駆け落ちした貴族の令嬢の子供で年をとった当主が旦那を亡くした娘を許し孫も保護した。その孫であった。

現在は貴族でありながらずっと下町で過ごしていた特殊な子だ。


学園にはいってきたミアを心配した教師は学園の中で特殊な生まれ、平民だった英雄の子のティルダを紹介した。


「よろしくね!」


屈託無く笑うミアはふわふわの茶色い髪に青い瞳がまるで小動物のようでとても可愛らしくどことなくローズと似ているような気がして仲良くなれたらいいなあと思っていた。


違和感を感じるようになったのはいつ頃だったろうか。


ミアは「ティルダちゃん!ティルダちゃん!」と無邪気に好いてくれているように見える。


ただ

「ティルダちゃんと私はお友達だからお揃いがいい!」

と可愛らしいリボンやレースの髪飾りを共につけさせ周囲に

「ねえ。ティルダちゃんとっても似合ってるでしょ?可愛いでしょ?お揃いなの!」

と言い回る。ティルダにあまりに不釣り合いでミアによく似合う髪型に

気のいい周囲は苦笑い。単純な男子はミアを褒めそやした。

「そんなことないよー。ティルダちゃんが似合うと思ってお揃いで買っただけなの」

そうやってくねくねするミアにティルダは白目をむいて恥ずかしさを耐えるしかなかった。

「私はつけたくない」

とティルダが否定しても

「照れなくたっていいんだから!私もおんなじだから恥ずかしくないよ!」

と見当はずれの答えしか返さず、

ローズがやんわりとやめなさいとミアを嗜めると

「ローズちゃんはティルダちゃんに可愛くなってほしくないんだ!」と喚いた。


「ティルダちゃんは女の子なんだよ!?かわいそうだと思わない?」

そうやって男の集団にわざわざティルダの可愛さと現状の可哀想さを語ることに

「ミアちゃんは友達思いのいい子だね」

「ミアちゃんは本当にかわいいね」といわれて一生懸命否定する姿に

ティルダはだんだんといくら教師の頼みとはいえ我慢の限界を感じるようになっていった。それには訳がある。


ティルダの寮の部屋に「友達なんだから!」と無理やり入ったミアは

可愛らしいものが沢山あるその部屋をみて大笑いをしたのだ

「ティルダちゃん全然似合わないよー!変なの!おもしろーい」

そうして「これかわいい!見て?似合う?」

眺めるだけで満足していた小物を何点かを「使わないなら頂戴!」と大笑いしたその口で言って了承も得る前に持って帰ってしまった。

可愛らしい部屋はティルダの他人に見せるのは恥ずかしいが大切な一部だ。

ティルダが女の子であるという意識の一番柔らかいところを傷つているのはいつもミアなのだ。


ミアに悪気があるかないかはティルダにはわからなかったが、

ティルダはミアに他の人間に感じない怒りを感じていた。

ミアのそれは友好的であることは間違いないはずなのにそこに見え隠れするものが悪意や馬鹿にしているとしか思えない自分の方がおかしいのかとティルダは悩んだ。

可愛いミアに対する僻みなのかもしれないと。


「ローズちゃんってティルダちゃんを利用してるだけだと思う。気をつけた方がいい」


ローズとティルダはいつも一緒にいるわけではない。

ローズは大概恋をしていてその相手と共にいる。

ミアはローズがいる時は「可愛い!」「恋愛相談乗って欲しい!」と好意的に接していたはずなのに。


「振られたり都合いい時だけティルダちゃんによってきて。ずるいよ」

「それは違う」


ティルダは即座に否定した。ローズとは確かにべったりと言った関係ではないが、

彼女はティルダが求める時は恋人を置いてティルダの元に駆けつけてくれる。

縁が切れぬように取り計らってくれるのはいつもローズだ。


「でもやっぱりあんなに男好きなのってちょっと異常だよ」

「ローズと私の関係にもローズの恋愛観も君が口出しする必要はない」


それだけ言うとティルダは立ち去った。我慢の限界がその時だったのだ。

それからはミアが近づいてきてもやんわりと断り彼女の頼みを聞くことをやめた。

多少の罪悪感はあったがティルダの平穏が戻ってくるはずだった。


教師に呼ばれるその時までは、

そこには涙をいっぱいにためたミアと困り顔の教師だ。


「お前ミアさんをいじめたんだって?」


「?」


「ミアさんはただお前と仲良くしたいだけなんだよ。彼女は生い立ちも複雑だし。お前を頼りにしてるんだよ。それを無視だなんて子供じみたことをして」


「無視してはいないと。価値観が合わないんです」


はっきりと言ったティルダの言葉にミアが声をあげて泣いた。

教師は大きくため息をつくと


「ミアさん落ち着いて。いいか?人と人との価値観が合わないことなんて当たり前なんだ。だからっていじめていいことにはならない。いじめっていうのはいじめた側はそうは思ってなくてもいじめられた側が傷つくのならそれはいじめなんだよ。ティルダさんの行いはミアさんをひどく傷つけた。ちゃんと自分の行動を振り返って反省しなさい」


ティルダは混乱していた。

教師の言うことは正論だということはわかったが、うまく飲み込めなかった。

こんな一方的なことがあっていいのか?と疑問にさえ思った。


「ミアさんに話を聞いて見たらお揃いのものをつけたい。お前のもってるものが欲しいってかわいらしいお願いや、男の制服を着ているお前の女性としての尊厳を守りたいとか立派な意見ばかりじゃないか。お前は何がそんなに気に入らない?」


そう言われてしまうとティルダは言葉が出なかった。

確かにミアの行いは他人からすればなんてことはないのかもしれない。


「思春期には人を羨んだりやっかんだりすることもある。それは仕方ないがそれを相手にぶつけて攻撃するのは良くないことなんだ。謝りなさい」


ティルダは歯を食いしばった。ミアに憧れたことなんて一度もない。それでも何故だろう喉が熱くて。鼻の奥が痛くて自分の主張をしようとすれば泣いてしまいそうだった。


「すみませんでした」


早くこの場から逃れたかった。ティルダの言葉を聞いたミアは涙をためながらにっこりと微笑んだ。


「ティルダちゃんと仲良くしたかっただけだからもちろん許すよ!仲直りだね」


「よかったな!今回はこれで不問とするが次このようないじめ問題が起きたらご両親を呼ぶしかないからな」


にっこり笑顔の教師とミアにティルダは枷を嵌められたような気分になった。

明らかにティルダが悪者と決まった上の話し合いは苦痛だったが、教師の言い分も少しは理解できた。

この教師が見た目で判断してないことを願うしかない。そっけなくしたのも本当だったのだからミアを傷つけてしまったのだろう。

これからも嫌なものはしっかり嫌と言いつつミアとの関係が修復できたらそれもまたひとつの成長かと自分に言い聞かせティルダは笑みのようなものをつくった。




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