入学
そうして会えない時間に沢山の手紙をやりとりして
苦手な勉強にも励み、無事ティルダは学園へと入学する。
ひとつ問題があったのは
ティルダの身長が伸びすぎたことと女性にしては体格がしっかりしていたことだ。
男性と並べば細いのだが指定の女子の制服は入らなかった。前例がなく特注ができないと言われティルダは男子学生服で通うことになる。
正直はちきれそうな女子制服より数段似合うのでティルダは少しほっとした。
(ルカが婚約者の私が男の格好をしてるのをどう思うか…)
深刻な顔で悩んでいたのに、じぶんで考えた「婚約者の」に意識して悶えていた。
「ティルダ!」
「ルカ!」
悶えるティルダを皆が遠目にみていたところにルカが現れティルダを抱きしめた。
久しぶりにあったルカは身長が随分と伸びてすっぽりとティルダを包み込んだ。
「久しぶり!ティルダ!元気そうでうれしいよ」
「ルカこそ!大きくなってますますかっこいいな!」
「かっこいいのはティルダでしょ?その制服」
「恥ずかしいことに女子の制服が入らなくて。ごめんね」
「謝らないでよ。なに着てたってティルダはティルダだよ!僕の唯一」
ルカの言葉はがティルダの胸に喜びとともに染み込んだ。
「ふふ。それにティルダに懸想する人間も減るだろ」
周りに見せつけるルカと気付かずにただルカと会えた喜びにひたるティルダだったがそれを聞いて笑ってしまった。
減るもなにもそんな人間はいないのに。そう思うのだがルカが嘘でもそう言ってくれて胸がきゅんとするティルダだった。
ティルダの学園生活は楽しいものだった。
お昼はルカととり、放課後研究で忙しいルカに差し入れしたりとそばにいれることが嬉しかった。
「ティルダのごはんがいちばん好きだ」
「な!な!ありがと!」
「ティルダ膝枕ー」
「おう」
飄々と自分の欲望に忠実なルカと献身的なティルダはふたりでいるのが自然だった。
喧嘩をすることもあるがタイミングが合わずどちらかが拗ねる程度の犬も食わないやつだった。
そうして過ごしていると女の子達から人気が出た。
ルカと並ぶと特に黄色い声があがる。ティルダの入学前、どんなに美人が誘惑してもすんなりかわす難攻不落のルカの恋人を皆憎々しく思っていたが、蓋を開けてみれば男装の麗人だった。
怖い顔とずっと言われていたティルダも成長しルカに恋をし、色香が漂うようになった。厳つい顔だが妙に色っぽい男のように見えるのだ。王子様のようなルカと並ぶと似合いすぎてもう誰もなにも言えなくなり、いっそ応援するようになった。
ティルダは接してみれば無口なだけで礼儀正しく、皆に優しかった。
また学園にはすでに婚約者が決まってる令嬢や恋人がいる子もたくさんいるが、その子達でもティルダとルカなら婚約者や恋人に嫌な気持ちにさせることなく愛でることができたので学園ではルカ派ティルダ派などと言い合ったりして人気者となったのだった。
怖がられていた頃を考えるとティルダはその状況を嬉しく感じていたし、可愛いものが好きなティルダはそんな女の子達を目の保養にしていた。
その子達とは友達と呼べるか怪しいのが少しさみしかったティルダだったがひとりの友人ができた。
ローズだ。ローズは商家の娘でとにかく恋多き女の子で女子から距離を置かれることも多かった。
失恋で大泣きしていたローズにハンカチを渡したのが縁で交流が始まりよくよく彼女を知っていくと
「相手がいる男にゃ手を出さねえ」が信条の正々堂々とした男好きだった。
ティルダがルカにだけは色目を使わないでくれと言ったら
「そんな意味のないことするわきゃないだろ!」と怒られたこともある。
そしてティルダに似合う化粧や髪の手入れや肌の手入れを教えてくれる美の伝道師でもあった。
化粧に興味のでたティルダのとにかく色をのせてきゃいいというあまりのセンスのなさを目撃した時
「馬鹿なの!?馬鹿なんでしょ!?許せないわ!」
とぷりぷり怒りながらもあれこれ世話を焼いてくれるローズがティルダは好きだった。
ローズの前だと落ち着いた気分になれる。
彼女は恋する数は多いけどそ同時進行はしないしいつだって真剣そのものだからティルダも余計なことは言わずそこには信頼関係が築かれていた。
「あんたの恋人可愛くして褒められこそすれ睨まれる覚えはないはずなんだけどね!」
「ティルダが一番可愛いのは僕だけ知ってればいいんだよ」
ルカとローズはよく喧嘩するが言葉遊びのようなものであったし、そこに自分への愛情を感じて照れたりして
「調子にのるな!」と怒られるのも幸せな日々だった。
そこに新しい顔が現れたのだった。




