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第3話「主演はミケケ」

 草太がいつもの集合場所で待っていると、女神ミケケが見知らぬ男を連れて現れた。


「今回はあたしは出演側にまわるから、代わりの監督を連れてきたわ。本来ならあんたみたいな人間はとても言葉を交わせないような、すごく偉い神様なんだからね」


 あご髭をたくわえた細身の中年男は、帽子を軽く持ち上げて草太に挨拶をした。


「僕はモーティエル。キミがミケケが連れてきた転移者だね。人間がいると表現の幅が広がっていい。今日はよろしく頼むよ」


「こちらこそよろしくお願いします」



 あの女神と違って初対面が挨拶で始まるだけ、常識的な人、いや神だと思っていいだろう。草太はほっと胸をなでおろした。


「叔父様は今も語り継がれている数多くの神話をセルフプロデュースした凄い人なのよ。これで今回の売り上げは保証されたようなものね」


「おいおい、そんなに持ち上げないでくれよ。でも確かに主役が美人だから、いい作品になることは間違いないと断言できるよ」


「やだぁ、叔父様ったら」


 ミケケは照れたように笑う。こうして笑ってる分には可愛いのに本当にもったいない、と草太はしみじみ思った。


「確認しておきたいんだが、内容については僕に一任で構わないんだよね」


「ええ、まかせるわ。もうなりふり構っていられない状況なの。叔父様が最高傑作になると思う映像を存分に撮ってちょうだい」


「その言葉が聞きたかったんだ。じゃあ、さっそく始めよう」


 モーティエルが両手をポンと叩くと、ミケケはたちまち意識を失った。




「……ん……ここはどこ?」


 どこかの地下室らしいが、中はとても暗い。


 よどんだ空気の中には、鼻をつく刺激臭が混じっている。


 思わず口元を手で覆おうとしたが、まったく動けない。ようやくミケケは壁に両手両足を拘束されている状況を理解した。


「こんな錆びた鎖なんかで私を……え……うそ……なんで力が出ないの!?」


「逃げ出せないようにするために決まってるだろ」


 ロウソクの明かりが灯り、青ざめたミケケの顔と薄笑いを浮かべる草太の顔を照らした。


「草太……!? どういうことなの……早くこの鎖を解きなさいよ」


「それはできない相談だ。可愛い顔に傷をつけられたくなかったら、大人しくしときな」


 刃物を持った草太の後ろに、カメラマンとモーティエルが見えたことで、彼女は少しだけ落ち着きを取り戻した。


 しかし、青汁のCMなのにどうして自分はこんな目に遭っているのだろう。




 状況が理解できないミケケに向かって、草太は小声でささやいた。


(大丈夫ですよ、ミケケ様。これはモーティエルさんの筋書きですから)


(そんなこと言ったって、何の説明も受けてないし、なぜか力も出せないんだけど……)


(演技を超えたリアルな反応を引き出すために、わざと説明もなしに封印したって監督は言ってました。今回は囚われの美少女を救うために青汁の購入を呼びかける、視聴者参加型の通販番組にするみたいですよ)


(な、なるほど……たしかにそれならいけるかもしれないわね……)


 美少女という言葉に気をよくしたミケケは、一応納得して次の出方を待った。


 準備ができた草太は悪人っぽい表情を作りながら、カメラに向かってダミ声を張り上げた。


「おぃ、TVの前の野郎ども。この囚われの美しい女神を助けたかったら、今すぐ青汁を購入するんだ。電話番号はフリーダイヤル 0120-35530-315(ミケケ様最高)。今なら高級キャットフード3kgもついて、何と1万円ポッキリだ!」


「まぁ! すごいお得じゃない! これはもう買うしかないわね」


「アシスタントみたいな余計な合いの手を入れるんじゃない! 黙って見てろ」




 モーティエルがノートパソコンの前のオペレーターに視線を送ると、その男は両手で大きくバツの字を作った。電話の受付を開始してから1分を過ぎようとしていたが、まだ1件の注文もないらしい。


「この結果は予測できたことだ。じゃあ、プランBを実行しよう」


 監督の言葉に、草太は困惑した表情を浮かべる。


(本当にやるんですか? いくら何でも、あれはやり過ぎだと思うんですけど……)


(心配ない。彼女の同意は得ている。段取りやセリフは、さっき教えた通りに頼むよ)


(……どうなっても知りませんからね)



 草太はミケケに近づくと、彼女のスカートを引き裂いた。


 純白のギリシャ調の衣装の中から、色香の漂う太腿と下着が悲鳴と共にあらわになる。


「ぐへへへへへ、全国ネットで下着を晒される気分はどうだ?」


 羞恥心で顔を赤らめるミケケの頬を、草太は舌で舐め上げた。


「いやぁ……なんなのよ、これ……」


 何もできずになすがままのミケケの反応を楽しむと、草太はパンティに指をひっかけて、数cmぐいっと下げた。


「ひっ! ダ、ダメ……それだけは許して」


 草太は身をよじって耐えるミケケの懇願を無視して、カメラに向かって下卑た笑いを浮かべた。


「おぃ、お前ら。女神のあそこがどうなってるか見たくないか。今からお前らが青汁を200箱買うごとに、パンティを1mmずつずらしてやるよ」


「最低! あんた最低よ!!」


「今度の電話番号はフリーダイヤル 0120-35530-0-82-0141(ミケケ様のパンツおいしい)。さぁ、こんな凄いモノを拝める機会なんて、そうそうねぇぞ。完璧な美とエロスの極致を見たいなら、今すぐ電話しやがれ!」


 たちまちオペレーターは、目まぐるしく更新される注文数を監督に告げる。


「10000……30000……70000越えました。このペースだと10万個は固いですね」


「これでもう1億円稼いだわけか。やはりエロスはキラーコンテンツだね。善かれ悪しかれ多くの人を引きつける」


「善かれ悪しかれって、これは悪意100%でしょ! 叔父様のバカ! 見損なったわよ!!」


「とんでもない。神と言えど、何かを得るには何かを失わなければならないんだ。考えてもみたまえ。今まで1円も自分の力で稼げなかったキミが、今や10億にも届こうという金を得ようとしているんだよ」


 モーティエルは真面目そうな顔をして言った。


「キミが最終的に得るものと今から失うもの、それを天秤にかけるんだ。その決断を僕たちは尊重しよう」


「ぐっ……」


 ミケケは唇を噛んだ。パンティを脱がされるのは嫌だが、あのバカに負けて笑われるのも嫌だ。


 放送事故のような長考の末、彼女は目に涙を貯めながら、震える声で言った。


「OKよ……パンティをずらしなさい」




「ミケケ様、いいんですか?! 正確には昨日1箱売れたんですよ。今無理をしなくても、腰を落ち着けてじっくりと売っていっても……」


 草太は思わず素の口調に戻った。快く思ってない相手だとしても、こんな辱めを与えるのは本意じゃない。


「たった1箱じゃ焼け石に水でしょ。相手はもう60億……ここで少しでも差を詰めておかないとならないのよ……」


「……分かりました。そこまで言うのなら、俺も覚悟を決めます」


 草太はオペレーターがカンペに書いた数字を読み上げた。


「喜ばしいことに10万個もの注文があった。つまり今から50cm下げることになる。しかし、大事な部分が見えるかどうかは微妙な数字だから、追加注文をしといた方がいいぜぇ」


 パンティに指をかけて、じわじわと降ろしていく。


 ミケケの足が恥ずかしさで震えているのが見えた。


「やっ……待って、まだ心の準備が……」


 いびつに引き延ばされたパンティの片側は、もう膝まで到達しようとしている。


「あ……ああ……」


 ここまでで45㎝。あと5cmもあるのに、斜めになったパンティの影からは際どい部分が見えようとしていた。


「……や……」


「……や……?」


「やっぱダメぇぇぇぇぇええええええ!!!!!」


 顔を真っ赤にしたミケケは、モーティエルの封印を吹き飛ばすほどの力を爆発させた。


 もうもうと立ち込める煙の中、画面右下の『つづく』という文字で深夜番組は終わり、その後には『試験電波発射中』の文字とカラーバーの画面が映し出された。



―――


「今夜の放送は特にひどいわね……ハレンチだし……爆発オチだし……」


 草太の幼馴染の白部奈央子しらべなおこは、あきれた顔でTVを見ていた。



「でも、これでこの番組がリアルタイムで放送されていることは分かったわね」


 昨日の放送後、奈央子は電話をかけて情報を得ようとした。


 自動音声ガイダンスでの対応だったため、草太のことは聞き出せなかったものの、なけなしのお小遣いをはたいて青汁を1箱購入しておいたのだ。


 確かに草太は番組内で、昨日1箱売れたと言っていた。あれは私が買ったものでほぼ間違いないだろう。なら次に打つ手は……。


 頭をフル回転させながら、奈央子は届いた箱の中から青汁の袋を一つ取り出すと、水に溶かして飲んでみた。


「……結構いけるじゃない」


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[良い点] ここまで読んだ感想です。 面白いです! この後どうなるのか判りませんが、着眼点といい、話の構成といい、とても良いと思いました。 どうしてこれがもっと評価されないのか不思議だとすら思いま…
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