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第2話「最後の希望」

「死ぬな! しっかりしろ!」


 地下墓地の奥深く、草太は自分の盾となって倒れた男を抱え起こした。


「俺に構わずに行け。あの剣を手に入れて勇者に届けなければ、どの道みんな死ぬんだぞ」


「でも、あんたがパーティに誘ってくれたから今の俺があるんだ……あんたを見捨てて行くくらいなら、世界がどうなったって構うもんか」


 倒れた男は最後の力をふり絞ると、草太の両肩を強くつかんだ。


「俺はお前を利用していただけだ……今回のカタがついて用済みになった後は、お前を殺して報酬を一人で丸儲けしようとしてたんだぞ。世界を救うことより、こんな薄汚い男の方が大事だっていうのかよ」


 草太にはその言葉がとても信じられなかった。今までの男の言動を思い返しながら、これからどうするべきなのかを考えようとした。



「来たぞ、ボヤボヤすんな!」


 男の叱咤が飛ぶ。草太は後ろから迫りくる幽鬼を袈裟斬りにするが、手ごたえがない。


 アンデッドだ。聖水や聖なる加護を受けた武器でないと太刀打ちできない。


 この墓地に入る前に用意した聖水はとっくの昔に使い切っていたし、呪いのトラップで武器にかけられた加護はすべて失われてしまっていた。


 彼らはあっという間に幽鬼の群れに飲み込まれた。魂まで凍りつかせるような爪の連撃を防ぎきれず、草太は血まみれになって地面に片膝をつく。


「なんだ……なんなんだ、お前ら……」


 草太は怒りに声を震わせながら立ち上がった。


「人が人生の大事な決断をしようとしているんだ。邪魔をするな!」



 草太は懐からボトル瓶を取り出すと、幽鬼の群れに中の液体を浴びせかけた。


 すると、どうしたことか……! みるみるうちに幽鬼が蒸散していく。


「まさか、その液体は……」


 絶句する男の傷口にも、草太はその液体を注いだ。たちまち出血が止まり、痛みが消え、傷口が塞がっていく。そのあまりの薬効のすごさに、男はその液体が何であるかを確信した。


「それ、青汁だろ……どうしてお前がそんなもの持ってるんだ……?」


 草太はその問いに答えずに、残り少なくなった青汁のボトルを懐にしまいながら言った。


「俺にはあんたの言葉が本当か、それとも先に進めさせるための嘘かどうかは分からない。だけど、さっき俺をかばって負傷したことは疑いようのない事実だ。これはその借りを返しただけだ」


「お前……」


「さぁ行こう。すべてのことは剣を手に入れた後、二人でゆっくりと話し合えばいいさ」




 そうして草太たちは、地下墓地の最深部にたどり着いた。


 悪魔を封じ込めたと書かれている墓標に、ひと振りの剣が突き刺さっている。


「この柄の紋章……聞いてたものと一致する。間違いない、これが勇者の剣だ」


 草太たちはその剣を墓標から引き抜こうとした。しかし、いくら力をこめてもびくともしない。


「まるで墓標と一体化したみたいだ。二人がかりでも引き抜けないんじゃ、何か仕掛けがあると考えるしかないんだけど……」



 草太のため息に呼応するかのように、暗がりからフードを被った顔色の悪い男が現れる。


「ククク……その通り、こんな地の底までようこそ。私はヴァンパイアロード。剣に近づく不逞の輩を始末するように魔王様に命じられた者です。どうぞよろしく」


「律儀に挨拶を交わす必要があるとは思えないな。さっさとかかってくればいいだろう」


「なぁに、久しぶりの新鮮な血を運んできてくれたことに対するボーナスみたいなものですよ」


 フードの男は愉快そうに二人を見た。


「へぇ、じゃあ、抜けない剣の秘密も冥途の土産に教えてくれるのか?」


「その剣は勇者の血縁者にしか抜けないんですよ。ただの平凡な一般市民や、縁もゆかりもない別世界の人にはとても無理な話です」


「お前……おれが異世界から転移してきたことをどうして知ってるんだ!?」


「私は魔王様からそう聞いただけです。詳しく知りたいのなら直接聞いてみるのが良いですけど、もうすぐ死ぬあなたたちにはやはり無理な話です」


「……ふ~ん。でも、そうでもないんだぜ」


「なにっ!?」


 草太は残り少なくなったボトルを取り出すと、いっきに飲み干す。


 そして墓標に突き刺さった剣の柄に手をかけると、いとも簡単に引き抜いた。


 草太は驚愕で目を見開くヴァンパイアロードに向かって、剣を突きつけた。


「さぁ、魔王の居場所を教えてもらおうか。俺の……」




「はい、カット! カット!!」


 サングラスをかけた若い女性が、メガホンで声を張り上げて撮影をストップさせた。


「アンデッドを倒す聖水みたいな使い方や、傷を治す薬みたいな効能まではまだありと思ってスルーしたけど、最後のアレは何よ。勇者の血筋まで継承できるのはさすがにやり過ぎでしょ」


「でも、これくらいインパクトを持たせないと、100億っていう売上は無理のような気が……」


「やり過ぎて視聴者が嘘くさく感じちゃったら、何の意味もないでしょ」



 女神ミケケはサングラスを取ると、草太を下からにらみ上げた。


「あのバカはもう60億を売り上げてるらしいのに、こっちは未だ0円。この差を埋めるには私も少しは協力しないといけないようね……ったく。明日の収録遅れるんじゃないわよ!」


 彼女はそう毒づくと、天界に戻っていってしまった。


 撮影スタッフやセットも同時に消え、草太は元着ていた学生服のまま、ぽつねんと地上に戻された。


「いつも遅れてくるのは自分のくせに……」


 草太はため息をついて空を仰いだ。


「協力してくれるとは言ってたけど、まったく期待できそうにないのは何なんだろうな……」


 草太のアップと画面右下の『つづく』という文字で深夜番組は終わり、その後には『試験電波発射中』の文字とカラーバーの画面が映し出された。



―――


「今夜もやってるし……内容が続いてるし……何これ」


 草太の幼馴染の白部奈央子しらべなおこは、昨日見た番組の内容が気になって夜更かしをしていた。


 最初は他人の空似だと考えた。でも名前まで合っているとそれは考えにくい。


 じゃあこれは生前に撮ったものか、それともリアルタイムに撮っているものなのか。


 確かめるには一つ方法がある。


 奈央子はスマホを手に取ると、番組冒頭に表示されていた注文先の電話番号に電話をかけ始めた。


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