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特別話「グリーンクリスマス」

 この異世界にサンタはいなかった。しかし麻雀と同じく、草太より前に来た転生者がクリスマスを広めていた。


 厳密なイエス降誕祭は根付かなかったが、今年もすこやかに育ってくれたお祝いとして、サンタさんが子供にプレゼントを贈る風習は今も続いている。




「サンタさん、今年こそ来てくれないかなぁ……」


 町はずれの児童養護施設で、ハーフエルフの少女が窓の外を見つめて、ため息をついていた。


「うちにサンタさんが来るわけないだろ。くだらないこと言ってないで、お前もさっさと寝ろ」


 年長の少年が他の子供を寝かしつけながら言った。


「でも、ほら……あれって、もしかしてサンタさんじゃない?」


 少女が空からそりに乗って飛来してくる二人組を指差す。


「いやいや、いくら何でも……うそ!? あの帽子と大きな白い袋ってサンタさんじゃん! でも、少し変じゃないか? 赤と白の服じゃなくて緑と白の服着てるし……」



「「メリークリスマース!」」


 児童養護施設の窓から、サンタの格好をした草太とミケケがそりに乗って飛び込んできた。


「うわぁ~ サンタさんだ、本物のサンタさんだ!」


 寝ぼけまなこだった子供たちは、突然のサプライズに飛び上がって喜んだ。


「はっはっは。みんな、よい子にしてたかな? よい子にはクリスマスプレゼントをあげちゃおうかな」


 草太サンタは、担いだ袋から綺麗にラッピングされたプレゼントを取り出して、ハーフエルフの少女に手渡した。


「サンタさん、ありがとう! 開けてもいい?」


 待ちきれないといった感じで勢いよく包装を破ると、中から緑色の箱が出てきた。


「なにこれ?」


「青汁60袋入りのお徳用パックだよ」


「え~……」


 部屋の中に微妙な空気が流れる。ミケケサンタは部屋の隅に草太サンタの腕を引っ張っていった。


「あまりにもストレートすぎるでしょ。相手は子供なんだから、もっと喜ぶようなものをあげないと」


「す、すいません……」



「やっぱりこいつらはニセモノのサンタだ。さっきも言ったみたいに、うちにサンタさんなんか来るわけないんだよ……」


 年長の少年が肩を落としながら言った。


「ちょ、ちょっと待って。今のなし! 今度のが本当のプレゼントだから!」


 ミケケサンタが白い袋の中からプレゼントを取り出すと、ハーフエルフの少女は箱の中から漂ってくる甘い香りに耳をピンと立てた。


「いい匂い……もしかして、クリスマスケーキ!?」


「ピンポーン! さぁ開けてごらん」


 わくわくしながら箱の蓋を取ると、中から緑色のクリスマスケーキが出てきた。


「……なんでこんな色してるの?」


「もちろん青汁入りだからよ。おいしくてヘルシーだから、いくらでも食べられるし……あ、あれ。どうしたのみんな?」


 あからさまにテンションの下がった少女たちを見てミケケサンタがあわてていると、後ろから草太サンタがふふふと笑いながら箱を差し出してきた。


「いくらおいしくても、見た目が良くなければ食べる気が失せてしまいますよ。ここは、俺が作った特製の青汁ケーキにまかせてください」


 草太が蓋を取ると、中から青色のクリスマスケーキが出てきた。


「どうですか。数々の材料を試した結果、見事ネーミングと色の同期に成功。つまり青色の青汁を作ることができるようになったんです。今回はそれを使ってケーキを作ってみました」


 少女たちは赤いイチゴと青いクリームの狂気のコントラストにドン引きしていた。


「うわぁ……さっきのより食べたくないかも……」


「……ふっ、失敗です。ミケケサンタ様」


「あんた、見た目が良くなければダメって自分で言った後、よくそれ出せたわね……」



「ま、まだプレゼントはあります。これからですよ、挽回するのは!」


 草太サンタは袋の中から新たなプレゼントを取り出した。


「飲み物や食べ物はやめにして……さぁ、お人形が好きな子はいるかな?」


 子供たちの手がまばらにあがる。


「あれれ~ 最近はお人形があまり好きじゃない子が多いのかな?」


「好き嫌いというより、私たちに対する期待度の低さの表れじゃない……?」


「ミケケサンタ様、そんなこと言っちゃダメです。はい、貰った子はもうプレゼント開けていいよ~」


 箱の中には青汁仮面の人形が入っていた。しかし、男の子にはそこそこウケが良かったものの、メインターゲットとなる女の子には不評だった。


「この仮面の人だれ? あたし、もっとかわいいお人形がいい」


「それじゃこっちはどうかな。1/6スケールのかわいいオートマタだ。スカートの中はもちろん、腕の変形ギミックや、耳の奥の反物質爆弾のトリガーまで完全再現してるよ」


「わ、わぁ……かわいいかも……ありがとう、サンタさん……」


 ジェノの人形を持って顔を引きつらせる女の子を見て、ミケケサンタは肘で草太サンタをつついた。


「お人形っていうよりフィギュアじゃない。どう見ても、大きい男の子向けのプレゼントでしょ……あんな小さい子に気をつかわせてどうするのよ」



「……分かりました。食べ物もお人形もダメなら、最後にとっておきのこれを出しましょう!」


 草太サンタはひと際大きなプレゼントを取り出すと、一番近くにいた子に渡した。


 その子は自分に向けられるみんなの視線に気づくと、仕方ないといった感じで面倒くさそうに包装を破った。


「『異世界青汁CMゲーム』?」


 箱の中にはマスで区切られた道が描かれた台紙とサイコロやコマといった、ボードゲームに必要な一式が入っていた。

 

「これはサイコロをふってマスの上を進んで、ゴールするまでに一番多く青汁を売った人が勝ちっていうゲームだよ。ルールは簡単だし、ちょっとみんなで遊んでみようか」


 最初は子供たちも半信半疑だったが、マスにかかれた効果の珍妙さに興味をそそられたようだった。




「え~と、『ワガママな女神様にダメ出しされてへこむ。10回休む』!? まだ始まったばかりなのに、そんなのありかよ!」


 男の子が大げさに天を仰ぐと、そのこっけいさにミケケサンタは思わず噴き出した。


「あはは、ひどい女神様ね」


「そうですね、他人事とは思えないんじゃないですか?」


「ちょっと、草太サンタ。何が言いたいわけ?」


「考え過ぎです。ほら、次の目が出ましたよ」




「1、2、3っと……『CMで主演してパンティを脱がされる。3マス戻る』!? え~青汁のCMなのに何でパンティ脱がなきゃならないの?」


「『CM撮影を放棄して山奥で恋人と幸せに暮らしていたが……。スタートに戻ってやりなおす&好感度+1』 うわぁ、バッドエンドっぽいのに何故か好感度が増えたぞ。何が起こったんだ、これ」


 子供たちの笑い声を聞きながら、二人は懐かしむように目を細めた。




「『青汁を使った入浴剤が大ヒット。50億ゲット』 やった、この1マスでいきなりトップだ。勝ちはもらったな!」


 ガッツポーズを取る子供を見た草太サンタが、しみじみと言った。


「あれではじめてザラメルを逆転したんですよね……青汁仮面と出会ったり、奈央子から連絡があったり……そんなに時間が経ってないのに、随分前のことみたいです」




「俺のマスは『アサイースムージーを飲む天使と飛行船の上で戦う。サイコロを振って偶数が出たら勝ち、10マス進む。奇数なら負けて墜落、10マス戻る』か。それっ……え~と6は偶数だから10マス進めるぞ……それにしても、何で天使がアサイースムージーなんか飲んでるんだろう」


「私の止まったマスはハテナマークがついてるけど……このハプニングカードをめくればいいのね。『突然麻雀勝負がはじまり、わけが分からず1回休む』!? 確かにわけが分からないけど、どういうことなの……?」


 首を傾げる少女に向かって、ミケケサンタがフォローを入れた。


「あれは私もやり過ぎだと思ったわ。細かいことは後で説明するから、続けて」


「ははは……さすがにおいてけぼり感があったみたいですね」




 白熱したバトルが夜遅くまで続いたが、最後はハーフエルフの少女が一番にゴールにたどりつき、あざやかに優勝を決めた。

 

「やった! 120億で私がトップよ!」


 飛び跳ねて喜ぶ少女に、草太サンタはにっこりと微笑んだ。


「おめでとう。どうだい、面白かったかい?」


「うん! 今度はサンタさんたちも一緒にやろうよ!」


「そうしたいのはやまやまだけど、他に待っている子供たちにもプレゼントを配らないといけないんだ」


「そっか……ねぇ、他の子にも青汁の箱をプレゼントするの?」


「ああ……確かにウケが悪かったのは認めるけど、いいかい……覚えておくんだ。花やケーキみたいに形に残らないプレゼントも素晴らしい。でも、青汁は明日の幸せと健康を届けてくれるんだよ」


「ほんと……?」


「飲めばわかるよ」


「それはこの私も保証するわ。みんなもだまされたと思って飲んでみたら?」


「うん、わかった!」


 子供たちが次々と青汁のコップに口をつけるのを見ながら、サンタたちは満足そうに去っていった。




 次の日の朝、遊び疲れてぐっすりと寝ていた子供たちは、職員のお姉さんが大慌てで部屋に飛び込んでくる音で目を覚ました。


「みんな大変よ! マー君とミーちゃんの行方不明だった両親が、今朝見つかったって連絡があったの。二人ともお家に帰れるのよ!」


 名前を呼ばれた二人は、みんなの拍手に囲まれながら手を取り合って喜んだ。


「それだけじゃないの。匿名の資産家から連絡があって、みんな奨学金を受けれることが決まったの。来年からは一緒に学校行けるわよ……本当に良かったわね」


 みんなが歓声をあげる中、ハーフエルフの少女は信じられないといった表情で、空になった青汁のコップを見つめていた。


 年長の少年が彼女の肩に手を置いて言った。


「こんなことが起こるなんてな……」


「どうしよう……私、サンタさんにありがとうって言うの忘れちゃった……」


「いけね、俺も忘れてた……だけど、来年また来てくれた時に、今年の分まで言えばいいんじゃないかな」


「そっか……来年も来てくれるかな?」


「来てくれるさ、いい子にしてたらきっとな」




 今までは積雪のない日を『グリーンクリスマス』と呼んでいたが、その年からは緑と白の服を着たサンタがやってくる特別なクリスマスの日を『グリーンクリスマス』と呼ぶようになったそうな。


 めでたし、めでたし。


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