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第1話「青汁 VS 高枝切りバサミ」

「はじめて異世界に来た時は、右も左も分からなくて大変でした」


 冒険家として一か月、異世界を生き抜いた青木草太は遠い目をした。



「言葉はなんとか通じたけど、無一文で着ている服以外何も持っていなくてね。その日の飯や宿にも困る始末でしたよ。色んな店に飛び込みで働かせてくれって頼んだけど、全部断られました。変な格好をした素性のよくわからない男なんか、雇ってくれるはずもないのにね」


 今の彼には、当時の苦労を笑い飛ばせるほど余裕があるということなのだろう。


 それは今の彼の外見が変な格好ではなく、貴族が着るような上等な服装であることからも明らかだ。


「町の中で生活できないのなら、町の外に出ればいいって思うでしょ。現代の日本と違って、町を一歩外に出れば自然がみちあふれているだろうから、サバイバル生活ぐらいはできると思ったんです。そしたら門番の人が、こう言うんですよ」


 草太は額にしわを寄せながら、門番の声真似をした。


『悪いことは言わないから、門の外に出るのはやめときな。今はモンスターがうようよしてるから、丸腰だとあっという間にやられてしまうぞ』



 口調を元に戻した彼は、深いため息をついた。


「あの時は八方ふさがりでしたよ。町の中も外もダメ。このまま路地裏でのたれ死ぬのを覚悟した時、僕を救ってくれたのが……青汁だったんです」


 草太は目を輝かせながら、テーブルの上にあった青汁のボトル瓶を手に持った。


「東通りの酒場の裏手に山のようにこれが積んであったので、西の市場で売ったら何と1本金貨1枚で……」




「はい、カット! カット!!」


 サングラスをかけた若い女性が、メガホンで声を張り上げて撮影をストップさせた。


「それじゃ青汁の効能のアピールじゃなくて、ただの窃盗じゃない。そんなのでみんなが青汁を買いたいと思うわけないでしょ」


「はぁ……でも、僕あまり青汁が好きじゃないから、何がいいかよく分からないんですよ」


「腑抜けたこと言ってるんじゃないわよ」



 若い女性はサングラスを取ると、草太を下からにらみ上げた。


 女神だから美人なのは間違いないが、性格に難ありなのが最大の問題だ。


「いい? あんたが自由の身になるには、青汁を100億円分売らなくちゃならないのよ。そのために深夜CM枠を抑えてあげたんだからね。ここで視聴者の心をわしづかみにしないと、とてもじゃないけどノルマ達成なんか無理よ」



 一か月前、草太は交通事故で死んでしまったのだが、女神の力で甦った。


 その時の条件として、異世界に転移して女神に協力することを約束させられたのだが、まさかこんな深夜の通販番組を作るようなハメになるとは、夢にも思わなかった。



「あの~、ミケケ様。ひとつ質問いいでしょうか」


「なによ」


「死んだ僕を甦らせて異世界につれてくるほどの力を持っているのに、何で青汁を売ってお金を稼ぐ必要があるんですか?」


「これはゲームなの。あのバカとどちらが早く売上目標を達成するか。その結果によって、どちらが天界の覇権を握るかが決まるのよ」


「はぁ……ちなみに相手は何を売るんですか?」


「高枝切りバサミ」


「それなら楽勝じゃないですか。あんな用途が限定的な商品、100億円分も売れないでしょ」


「あたしもそう思ったんだけど、これがバカ売れなのよ。探りを入れてみたら、もう半分は目標を達成したんだって」


「半分というと50億円分を……1か月で!?」


「向こうはカルトな新興宗教とコラボして、お布施代わりに信者に購入させてるみたい。ハサミに貼ってあるシールを集めると徳が積めて極楽へ行けるっていうシステムを採用してるんだけど、ほとんど反則よね」


「確かにそれは反則っぽいですけど、ミケケ様もその方法を使えばよくないですか?」


「あたしにあのバカの真似をしろっていうの? そんなのは女神としてのプライドが許さない」


 女神ミケケは、メガホンを草太に突きつけた。


「明日の撮影までに100億円売る方法を考えておきなさいよ。もし勝負に負けたら、せっかく甦らせてあげたその命、どうなっても知らないからね」


 彼女はそう言い放つと、天界に戻っていってしまった。


 撮影スタッフやセットも同時に消え、草太は元着ていた学生服のまま、ぽつねんと草原に取り残された。



「……くそっ、何だよ。言いたい放題言いやがって。少しは自分でも考えろってんだ」


 彼は悪態をつきながら、宿屋へと続く道を歩いた。


 青汁を売らなければならないのが第一だが、あのムカつく女神の言うままに動く状況も何とかしたい。


 斬新なCM案で、かつ女神に一泡吹かせるうまい手はないものか……。


「そんな簡単に思いついたら苦労しないよなぁ」


 空を仰いでため息をつく草太のアップと画面右下の『つづく』という文字で深夜番組は終わった。その後は『試験電波発射中』の文字とカラーバーの画面が映し出された。


―――


「えっ、この番組何!? 何で草太がアニメになってるの?」


 草太の幼馴染の白部奈央子しらべなおこは、徹夜中の休憩でたまたまつけたTVの画像を見てコーヒーを噴き出した。


 草太は一か月前、交通事故に遭って死んだはずだ。それなのに……なぜ……。


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