体育祭当日 16:03
「せんせぇ~……」
「おいおい……」
無事に(?)体育祭が終了し、会場から一般客が帰路につくのを確認したライヤは会場警備の任から解かれた。
捕まえた人たちの処遇は気になるものの、ライヤが関与できることなど何もない。
知らない方がいいだろう。
一応、残っている生徒がいないかの確認のために会場内に入ったのだが、珍しく泣いているウィルが抱きついてきた。
横にいつものように控えているティムとエウレアも悔しそうにしているところから見るに、勝てなかったのが悔しかったのだろう。
エウレアの表情はほぼ変わっていないが。
「結果は?」
「ウィルたちは2位よ。優勝はC級ね」
「順当と言えば順当だな」
C級は級が7つしかない弊害で唯一1クラスで戦うことになっている。
人数は個人種目はC級の生徒が2回ずつ出て、団体戦はC級の生徒数に合わせることで解決しているのだが、普段から一緒にいる面子ということで点数配分の高い団体競技においてかなり強い傾向がある。
能力的にも魔法能力と身体能力のバランスが良く、作戦に幅があるというのも要因の一つではある。
「だが、惜しかったんだろ?」
「そうね。例年の1年生の中では、接戦だった方だと思うわよ」
1年生は体育祭の重要性というか、規模の大きさをあまり理解していないことが多い。
日本における体育大会などとは少し趣向が違うのだ。
言うなれば、競技の全国大会のようなものだろうか。
軍であったり、各貴族によるスカウトの対象となるのだ。
陣取りなど、戦争を意識した種目が設定されているのはそういった背景もあるからである。
「でもぉ~……」
「ウィル! 必要以上にライヤにくっつかないの! ライヤが困ってるでしょ!?」
「い、いや、俺はそんなに……」
少し本音が出たライヤをキッとにらむアン。
両手を挙げて降参の意思を伝えるライヤ。
9歳児が泣きついていたところでそれほど負担ではないのは確かだ。
問題は、ウィルがアンに宣戦布告を行っているという点である。
ライヤはそれほど重要視していないようだが、アンはわかっていた。
なぜなら、ウィルがアンに対抗することなんて初めてだったのだから。
「それで、そこにいる俺への殺気が半端ないのは……?」
なぜかライヤがその場に来た時から土下座しっぱなしのF級の女の子がいた。
「なぜかこのままなのよねー」
「王妃がいらっしゃるからでは?」
「というか、9歳の女の子の前に王妃と第一王女が現れたらこうなるわよ」
アンの言う事にも一理あるだろう。
普段平民が王女に会うことなどまずない。
ウィルとは同じ学年なため会うこともあるし、もう慣れたのかもしれないが、アンなんて雲の上の存在だ。
普段公の場に出てこない王妃なんてもはやまともに見れないだろう。
「顔を上げないままでも殺気がわかるんだが……」
それもライヤに向いているのが。
「さぁ、それは知らないわ。何かこの子に悪いことした? それならそれで私が直々に手を下すけど……」
スッと握りこぶしを出してくるアンの背後に「ロリコン撃滅」と書いているのが見える。
誤解にも程がある。
「ん……?」
何かぶつぶつと呟いてないか……?
「お姉さまに近づく男は滅ぶべし……」
「……」
これ関わっちゃいけないタイプの奴だ。
恐らくお姉さまとはウィルの事だろうが、どうしてそうなってるんだ。
「頑張って、それでも負けたんだろ? それならまぁ仕方ないだろ。来年また頑張ればいい」
「でも、来年は先生が担任じゃないかもしれないじゃないですか」
真紅の瞳に涙をためたまま抱き着いているウィルが顔を上げる。
「それは、そうかもしれないが……。ほら、来年なら俺も会場で見れるかもしれないし……」
むしろ、そうであってほしいとライヤは願う。
警備に回されて碌なことがなかった。
「うぅ……」
「ほら、もう帰らなきゃだろ? 明日は休みなんだから、しっかりと疲れを癒してくれ。王妃」
「はいはーい。ほら、ウィル、帰るわよ。マオさん、でしたっけ? あなたも親御さんが心配するわよ。早くお帰りなさい」
「は、はい! 失礼します!」
王妃から直々に声をかけられたマオは土下座の体勢のままずりずりと後退していき、姿を消した。
「……」
突っ込まない方がいいんだろうなぁ……。
「いつまでも落ち込んでいられないぞ? 2週間後にはもう期末試験が控えてるからな」
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