人寄せパンダ
「さて、体育祭の詳細が出たからそのことについて話そうか」
一日の最後の授業、体育祭について生徒に説明する時間が設けられた。
「一応、魔法関係ない体力競技もあるわけだが、それはまぁ置いておこう」
対策も何もないしな。
練習自体は授業でやるし。
「今年の1年の競技は陣取り合戦と障害物競走だ」
魔法は生活用のものでもあるが、やはりメインは軍事用である。
生活用の魔法は他の者でも代用できるが、この世界では科学というものが発展していないため魔法以外に軍事利用できるものは少ない。
よって、学園での体育祭でも多少そういった傾向がみられる。
障害物競走はいかなる地形でも行軍できるようにと見据えられたものだし、陣取り合戦は言わずもがなだ。
「ウィル、F級の皆へのコンタクトはどうだ?」
「……上々といったところではないでしょうか。一部の協力は得られていませんが、大半の方は話を聞いてくれたと思います。少々予想していない方向での進み方にはなりましたが……」
珍しく言葉尻がすぼむウィルに怪訝な顔をするライヤ。
ウィルが大手を振って言えないのも無理はない。
同学年の、それも誕生日が自分よりも早い子から姉と慕われているのだ。
アンであれば流せたのかもしれないが、末っ子であるウィルには対処法がわからなかったのだ。
結果として彼女がF級における学級委員長のようなものだったため、多くの生徒がウィルの話に耳を傾けてくれることとなった。
「まぁ、いいんじゃないか? とりあえずは。そんな簡単に協力してもらえるわけないしな」
「先生の時もですか? 同じ平民でしょう?」
「同じ平民だからこそ、何偉そうにしてんだって言われたな。俺は作戦立案をやってただけなんだけどな」
なんにせよ指示されるというのが嫌な年ごろってことだ。
その点では最初から全く文句なく従えていたアンがおかしい。
「ま、そんなわけだから今からF級の教室にお邪魔するか」
「今からですか?」
「そりゃそうだろ。チームの中で7人だけで話し合ってどうすんだよ」
「それはそうかもしれませんが……」
ウィルが視線を向ける先にはゲイルとシャロン。
ゲイルに関しては以前見下すような発言をしていたことに対する負い目のようなものか。
シャロンは今から顔を真っ赤にして震えている。
知らない人大勢の視線を浴びるというだけでそうなっているのか……。
「……わかった。俺もついて行ってやるから。だが、基本は口出ししないぞ? 自分で考えるが大事なんだからな」
「えぇ、それで構いません。シャロンさん、少なくとも先生の後ろに隠れるのはよしたほうが良いかと」
「……?」
「ライヤ先生!?」
「本物!?」
「間違いない! 白ローブにあの黒髪! 眠そうな蒼の入った瞳! 間違いないわ!」
「あんなにけだるそうにしている先生なんて他にいないもの!」
……なんかちょっと侮辱入ってなかったか?
F級の教室に入ると同時に熱烈な歓迎を受けるライヤ。
なんだこの人気は。
「ふふ、話によりますと、元々人気はあったようですよ? 何と言っても唯一のB級の教師ですから。生徒時代は嫉妬からか嫌がらせを受けていたらしいですが、これだけ立場が違えば憧れにもなりますよね」
なるほど、と面倒そうな顔で周りを見るライヤ。
自分がくる方が簡単に協力を得られるだろうと連れてこられたのか、とライヤは悟った。
そしてライヤに視線が集中するためシャロンを放しておいたのだ。
実際、自分に注目が集まっているわけでもないのにシャロンは体の大きなマロンの裏で震えている。
「あー、担任の先生はいるか?」
「「まだ決まっていません、先生!」」
「あ、そうだったか……」
声をそろえて返事をするF級の生徒たちに気圧されるライヤ。
解雇された担任はまだ決まっていなかったのだ。
仮にも王国最高の教育機関。
簡単に代わりの教師は見つからないのだ。
「はい、今日はライヤ先生も見ていて下さるようなので、体育祭に向けて作戦を話し合いたいと思います。よろしいですか?」
「「はい!」」
一部の生徒を除いて元気よく返事をするF級の生徒。
簡単に生徒に使われるライヤであった。
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