プライド
「じゃあー。次は私とやろっかー」
スッとフィオナが視線を向ける先はアン。
「? 珍しいわね?」
「たまにはそういうこともあるよねー」
疑問には思いながらもすぐに乗り気になって回れ右をする。
いつでも好戦的、それがアンである。
「それにしても珍しいな?」
「なんででしょうねー?」
ライヤがウィルの横に腰を下ろしたため、これ幸いとばかりに胡坐をかいたライヤの上に乗る。
そんな彼女はフィオナが言っていたことをライヤには言わないことにした。
言ってしまってもフィオナは気にしないだろうし、ライヤも嬉しく思うことはあるだろうが心配なんて間違ってもしないだろう。
しかし、言えない。
呟いたフィオナが、ちょっと悔しくなるくらい綺麗だったから。
(先を見据える目というのは、格好の良いものですね……)
ウィルにはそんな目標はない。
というより、目標が遠すぎて見据える範疇にないのだ。
「お、始まるぞ」
せめて、遠い二人の姿を見逃さないようにと目を凝らすのがウィルのできる最善のことだった。
(またなんか難しいこと考えてるな……)
ライヤは目の前にある頭をなでながらその少女を愛おしく思う。
ウィルの魅力は、その年齢に似合わない思考力と客観性にあるとライヤは思っている。
外見はもちろん可憐な少女だが、その姿と中身はまた別物。
自分が至らないところは分析し、省みるという大人にも簡単にはできないことができる。
ただ、それを魅力であると感じると同時に、少し寂しいと思ってしまうのはライヤの我がままだろう。
彼女にも年相応に思ったことを思ったままに言い、感情のままに行動してほしいとも思ってしまう。
なぜならウィルは、まぎれもなくライヤの婚約者なのだ。
「ちゃっかりウィルがいちゃいちゃしてるわね……」
「そんなのよりも濃密なひと時を過ごしてるよねー?」
「あれはっ! ライヤが求めてくるからで……!」
「んー? 私はさっきみたいな戦闘における対話のことを言ったんだけどなー? こーのエッチな王女様は何を想像したのかなー?」
「なっ!?」
顔を真っ赤にするアンと、それをにやにや笑うフィオナ。
実力はともかく、普段の生活における力関係はこんなものである。
「……いいわ。その挑発に乗ってあげる」
「そんなこと言っちゃってー。やりたいだけでしょ?」
「その通りよ!」
地面を蹴る鈍い音とともにアンが前へと飛び出る。