――エピローグ――
扉を開けた瞬間、満天の星空が広がる。
どうやら夜になるまでこの館に居続けたらしい。
(そういえば同じ地球なんだから、"セカイ"は変わっても、星空はもとの"セカイ"と全く同じはずなんだよな……)
康大は今更ながら、その事実に気付かされた。
康大と違い、あまりロマンチスト出ない圭阿は、まず夜空ではなく周囲の様子を窺う。
そしてたき火を起こし、その前で暖を取っている人間を見つけると、問答無用で苦無を構えながら一気に距離を詰めた。
「何奴!?」答えを聞く前に、圭阿は相手の首筋に苦無を当てる。
ここが現代日本だったなら、模範的な最悪の対応だ。
圭阿の行動で現実に連れ戻された康大は、念のため仮面をかぶってから慌ててその後を追う。
たき火を起こしていたのは、1人の重そうな鎧を纏ったいかにもな騎士らしき男だった。
短めの金髪に整った顎髭、厳つい顔に鎧の上からでも分かるたくましい体つきと、康大の目には典型的な有能騎士のように見えた。
圭阿も男の顔を確認すると、知り合いなのか苦無を下ろした。
(例の使いの人なのかな)
康大は2人の様子からそう判断した。
実際その予想は間違ってはいなかった。
ただ康大が間違えていたのは、
「何で貴様のような役立たずが来た」
騎士の人物評であった。
今まで誰に対しても「なんちゃって時代劇」的なしゃべり方をしてきた圭阿が、明らかに格下に対するそれで話していたのだ。
(俺やハイアサースでさえあのしゃべり方なのに、この人はどんだけなんだ……)
会ったそばから康大は無礼にも騎士に同情したくなった。
「むむ、そこの男は圭阿卿の下僕ですかな?」
「失礼なことを言うな!」
圭阿が騎士の腹を膝で蹴りあげる。
上手い具合に鎧のつなぎ目に当たったのか、騎士はその場で蹲った。
「この方は御屋形様の御親友であられるふぉっくすばーど殿の御客人、康大殿だ」
「そ、それは、し、失礼をば……」
蹲った騎士は死にそうな顔で康大を見上げながら、そう言った。
「い、いえ、別に気にしてませんから」
「そんなことより、他に使いはいないのか? まさかお前がこの本を送り届けると?」
「は、御当主様が使える者は他にあれど、信頼出来るのは私しかいないと仰せられたので。医学書回収後は圭阿卿と協力し、すぐにでも戻っていこいと」
「その点には異存は無いが……」
圭阿は顎に手を当て、何かを考えているような難しい顔をする。思考を他人に任せている彼女には珍しい表情だった。
そして、とてつもなく嫌な予感がした。
「康大殿――」
「とりあえず落ち着こう圭阿。こういうのは2人が戻ってきてからでも――」
「いえ、もはや時間がありませぬ。無理を押して申し上げます。拙者らと共に、何としてでもインテライト家まで来てい頂けないでしょうか!?」
「ああ、やっぱり……」
簡単だと思ったり、平穏無事を願うと必ずややこしいことになる。
康大は今まで散々フラグの立ち方を学んできたのに、それにも拘わらずフラグを立てまくる自分自身を、心底憎むのだった……。
次回『感染者と死者と幽霊船とその他大勢』(ぶっちゃけ完成しているどころか次の次のも途中まで書いてます)
に続きます




