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第17話

「いや終わってねーし!」


 安心しかけた自分自身に、思わず康大はつっこみを入れる。

 空には未だ腐竜が暴れ狂い、さらに瘴気らしきものまで吐き出している。

 このままでは悪霊を倒したというのに結果が変わらない。


「やれやれ、僕は基本頭脳労働専門なんだけどなあ」

 フォックスバードが不意に手を上げる。その腕には、今まで彼の力を封じていた手枷が消え去っていた。

「まあ彼もあの阿呆に連れてこられた被害者だ。せめて苦しみのないように始末してあげよう」

 そう言うと、フォックスバードは詠唱を始める。

 呪文には全く意味不明な言語が用いられていたが、最後に言った言葉だけは、康大にもしっかり理解することが出来た。


「……滅せよ」


 その言葉と同時に、腐竜の中心に青白い炎が灯る。その炎は身体どころか空間さえも燃やし尽くしながら広がり、腐竜は断末魔を上げる暇さえ与えられずに、空間ごとその姿と瘴気を焼き尽くされた。


 恐ろしい魔法だ。


 これで魔法は得意ではないというのだから、フォックスバードが一目を置く魔法使いがどんなものなのか、想像するだに恐ろしい。

 康大だけでなく、本人以外の誰もがそう思った。


「……さて、と。それじゃあ時間はかかったけど改めて本を捜そうか。まあこっちもちょちょいのちょいと……」

 フォックスバードが操作すると、5つほどの本棚が康大達の前までやってくる。1つの本棚には100冊ほどの本があり、都合500冊程度の本が集まったことになる。


「さあ皆で捜そう」


「ちょっとーー!?」


 思わず康大が突っ込んだ。


「もっと絞れないんですか!?」

「これが分類分け機能の限界さ。インテライト家初代はかなりの筆まめだったから、これでも絞った方だよ。ここからは人力で調べるしかないね」

「あの、拙者と康大殿は異邦人故、そもそも字が読めないのでござるが……」

「ああ、そう言えばそうだったね。となると――」


『・・・・・・』


 全員の視線がハイアサースに集まる。

 ハイアサースは珍しく、その視線を真っ向から受けることなく目を逸らした。


「ハイアサース?」

「……おら、昔からそういう細かいことが苦手で、できれば止めてえなあと……」

「それはお気の毒様」

 止めていいとは言っていない。

 結局ハイアサースは「人の命がかかっているから」と説得され、地味な作業を続けることになった――。


「よし、これだ!」

「やったべか……」

 ゾンビに戻ったのではと思えるほど疲れ切った表情で、ハイアサースは力なく喜んだ。

 その間待っているだけの康大と圭阿は暢気なものだ。

 圭阿はそれでも念には念を入れて周囲を伺っていたが、康大は完全に船を漕ぎながらミーレと「最強のドラゴンはなんだ!?」談義をしていた。

 もしフォックスバードが見つけるのがもう少し遅かったら、康大は熟睡し、最強のドラゴンはミーレが主張していた「李小龍ブルース・リー」で決定していただろう。


「……あ、よかったですね」


 どうしようもないほど他人事のように、寝起き同然の康大は言った。


「お前は本当に楽しやがって……」

 ハイアサースに憎悪の籠もった目で睨まれるが、康大は背伸びをしながら完全に無視した。

「とりあえず2人には先に戻って、これをインテライト家の人間に渡して欲しい」

「フォックスバードさんは未だ出ないんですか?」

「康大君とハイアサース君のゾンビ化を治す本と、僕の本はまだ納めていないからね。しばらくはハイアサース君とここで作業を続けているさ」

「うう、まだ終わらないのか……」

 目に涙を溜めながら、ハイアサースは恨みがましそうに言った。

 康大はこれも聞かなかったことにした。

 婚約者といえど助けられないこともあるし、助けたくないこともある。


「それじゃあ行くよ」

 フォックスバードが指を鳴らすと、突然目の前に扉だけ現れる。

 まるでどこでもドアだなと、康大は思った。

「予定だと、外ではインテライト家の人間が既に待っているはずだ。それからどうするかは、その人間と話し合って決めるといい」


「これからどうするか、か……」


 それを決めるのは、フォックスバード達が本で治し方を見つけてからだろう。普通に考えれば、圭阿ともそこでお別れになるはずだ。

 ただ康大の直感は、この腐れ縁がまだ続くように思えてならなかった。


「まあそれ以上に――」


 康大はこれ以上厄介ごとが起こらず、平和裏に物事が解決してくれる未来を期待しながら、その扉を開けた――。

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