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――プロローグ――

「紹介しよう、マリア・スール・インテライト女史だ」

「お久しぶりですね、皆さん」

 そう言ってあの高貴そうな女性――マリアは笑った。

「え、あ……なんで?」

 康大は服を着るのも忘れ、頭の疑問符に行動が支配される。ハイアサースも突然の彼女の登場に完全に面食らっていた。

「は~師匠の知り合いだったんスね」

 唯一、ダイランドだけが彼女がこの場にいることに、特に疑問を抱かなかった。この男の場合、盗賊稼業が長かったので高貴そうな人間=商品という感覚が抜けず、そもそもあまりこだわりが持てなかっただけだが。

「マリア女史には昔色々と世話になってね」

「今回は私が貴方の世話になりましたけれど、それで全ての貸しが返済できたとは思わないことですね」

「これは相変わらず手厳しい」

 そう言って2人は笑った。

 ただお互いの瞳はあまりに真剣で、康大にはただ談笑しているようには見えなかった。

「さて康大君、目覚めて早々悪いのだが、実はマリア女史も君に用があってね」

「は、はあ……」

「あの時は逼迫した状況故におざなりにしてしまいましたが、この場で改めてお礼申し上げます。命を救って頂き、本当に有り難うございました。この場で改めて心よりの感謝を申しあげます」

 マリアはその場で深々と頭を下げる。

 これには康大とハイアサースの方が恐縮し、2人揃って椅子から立ち上がり、慌てながらそれぞれの恐縮の言葉を言った。

「あ、そういえば圭阿はどうしてますか?」

 話を変えるように康大はマリアに聞く。これ以上感謝されると、逆に居心地が悪い。

「彼女なら外で待たせています。私の身辺は色々と騒がしいので、ここが安全だと分かっていても、どうしても気を使ってしまって……」

「そうですか……」

「まったく、失礼な話さ」

「あら、自分の力不足を棚に上げてよく言うわ」

 2人はそう軽口を飛ばしたが、それが深く問い詰めるべき内容でないことは康大にも理解出来た。

 それから全員が椅子に座り、改めて会話が始まる。

「しかしマリア殿はなぜここに? やはりフォックスバード殿と旧交を温めに来たのですか?」

 フォックスバードとマリアは目を合わせ苦笑する。まるで子供を相手にしている保育士のように。

「残念ですが私と彼はそういう仲でもありません。ここには用があってきたのです。私はその用と今まで仕えていた侍女達を故郷に送り出すために、旅をしておりました。途中で盗賊達に捕まったのは完全な予想外でしたが……」

「そうだったのですか。いや、我らが偶然にも立ち会えて本当に良かった!」

 まるで自分の手柄のようにハイアサースは言った。康大が白けた目で見る一方、マリアは「そうですね」と柔らかい笑みで肯定する。2人の圧倒的な育ちの差が嫌と言うほど分かる光景だ。

「じゃあ俺達はその用事が済むまで席を外してましょうか?」

 話の流れから察するに、マリアの用事が自分達と関係があるとは到底思えない。そもそもマリア達は康大がこの世界に転送される前から、旅をしていたのだ。康大に用などあるわけがないのだ。自分に対する用というのは、さっきの改まった感謝だけだろう。

 ――そう思っていた康大に、マリアは首を横に振った。

「いいえ。確かに当初はア……いえ、フォックスバードに話だけを聞いて、ケイアに全てを頼むつもりでした。ですが、これまでの貴方たちの振るまいをケイアから聞き、どうしてもお願いしたくなりました」

「お願い……ですか」

 康大は眉をひそめる。

 ケイアの身体能力と同等の能力を期待されても、それは過大評価にすぎる。自分は怪力があるだけの運動音痴で、ハイアサースは回復魔法以外全てが駄目だ。マリアのような高貴な人間に買いかぶられると、逆に後が怖い。

「その……こう言っちゃなんですけど、俺もハイアサースも彼女の100分の1も役に立ちませんよ。他を当たった方が……」

「いえ、人と能力というのは、何も身体能力だけで決まるわけではありません。私はケイアが評価していた貴方方を信じます」

「はあ……」

 顔は笑顔だったが、そこには絶対に引かないという強い意志が感じられた。そして残念ながら今の康大に、そういう人間を説得できるほどの人生経験は無かった。

「それにこれは元々貴方方に無関係な話ではないのですよ。ねえフォックスバード?」

「やっぱり気付いていましたか。康大君、ハイアサース君、女史の言う通り、彼女の頼みと君らのゾンビ化治療の話は実は密接に関係していんだよ。それどころか、片方を達成すればもう片方も片手間に出来るかもしれない。これは君達も聞くべき話なんだ、あの"死と智の館"の話を」

「死と智の館……」


 薬草採取から1日とわずかしか立っていないというのに、康大の新たな冒険はこうしてまた幕を開けた――。

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