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第一話

 こうして俺は異世界の王国に転生し、名門ダーレム公爵家の一人っ子として生を受けた。

 この王国、もといた現代の基準から言わせて貰うとはっきり言ってゴミだった。厳しい身分制度をもとに奴隷をこき使って権勢振るう貴族。神を盾に我が物顔で政界を行きかう宗教勢力。貴族達の醜い権力争いの場となり、心ある者から先に死んでいく宮廷。街の中では衛兵に、街から出れば盗賊に物を獲られる治安。中世を思わせる世紀末ッぷりだった。


 上流階級の子供達を集めた勉強の時間が終わり、王宮の中庭に俺と親しいいつものメンバーが集まった。

「そう言えばロランとミアの二人、今日は休みでしょうか」

そう言ったのはエルナ・フェヌマーン。伯爵家のお嬢様で、俺が密かに想いを寄せる相手。もっとも優しく暖かい彼女に惚れ込んだ者は俺だけではない。しかし、きっといつかものにしてみせる。そう決めていた。

「勉強の時間から居ないよね。」

そう言った一見なよっとした感じの少年、バーレンは実はこの国の王子である。開明的な思想の持ち主で、俺とは政治について語り合う仲だが、同時に、恐らく恋敵だ。同じ相手に恋している身だからわかる。だからといってそれで表立ってギクシャクすることはない。ライバルとはこういう奴だろうか。

 「兄妹仲良く風邪でもこじらせてんじゃねーの?」

馬鹿正直な少年、デルムッド・オズモンドも会話に加わり、少し離れたところで本を読んでいた物静かな少女、レイア・デルメもそれを見て輪に入ってきた。

 ここまでは俺達のいつも通りの日常だった。


 友人の一人、キャサリン・オレニアンが文字通り顔色を変えてすっ飛んできた。いつもは明るく、バーレン王子にひっついている奴だが、顔は青くなるどころか土気色をしていた。

「ロランとミアが、二人が!」

「おい。どうしたんだよ。」

「お父さんのハルグレリ侯爵と処刑されるって!」

数秒ほど俺達は固まった。状況を理解するにはもう数秒かかった。

 取り敢えずキャサリンを落ち着かせて事情を聞く。友人のロランとミアの兄妹の父親であるハルグレリ侯爵が反逆罪で捕らえられ、二人もそれに連座して処刑されるという。

 「どう思います殿下。俺は他の貴族に嵌められたと思うのですが。」

「だろうな。くそ真面目で敵も多かったって聞くし。俺は父上に彼の潔白を訴えてみる。」

「頼みました殿下。」

「大丈夫ですよね殿下。きっとロランもミアも助かりますよね。」

キャサリンが王子にすがるように尋ねる。

「・・・ああ。助けるさ。だから安心してくれ。」

王子は優しくキャサリンの手をとり頷いた。


 「くそったれ!」

だが、王子の口添えも敵わずロランとミアはハルグレリ侯に連座して処刑された。金で雇われたと思われる証人がおり、王の疑念を覆すには到らなかった。ハルグレリ侯は自らの嫌疑に対しては弁明を行わなかったが、二人の子供の助命を切に訴えた。しかし、聞き届けられることはなかったという。

 友を失った俺達のショックはひとしおのものではなかった。何故彼らが死ななければならなかったのか。理不尽な問いが俺達の頭を駆け巡る。

 そして俺は決めた。もう友は失わせない。異世界に来て折角手にした友だ。これ以上失ってたまるものか。この国を作り直してやる。誰も理不尽に死ぬことのない世の中を、俺達は作り出してやる。誰にも言わなかったが、皆同じように思っただろう。俺達の思いは一つだった。


 「おい用件があるなら早く言ってくれイリオス。」

ふと名前を呼ばれ我に返る。イリオス・ダーレム。それがここでの俺の名だ

「まったく。報告したいことがあるからといって来たのにぼうっとする奴があるか。」

「申し訳ありません殿下。少々物思いにふけっておりまして。」

 大分昔のことを思い出していたもんだ。まだ俺が王子の秘書官を始める前だから、もう十年は遡るか。

「まあいいさ。お互い疲れているんだろう。父上の崩御に兄上の即位。でかい行事が立て続いているからな。」「殿下。問題はそのことでございます。」

「そのこと?」

「はい。崩御された先王陛下ですが、どうも急病ではなく毒殺された様なのです。」

「毒殺?それは確かなのか?」

王子が途端に身を乗り出して尋ねる。

「はい。公式の死因は内臓の発作との事ですが、近侍の者がいきなり血を吐いて倒れるのを目撃しています。内臓の発作であるはずがありません。恐らく侍医がグルだったのではと。」

「そうか。犯人はわかりそうか。」

「ええ。それが・・・」

「何者だ。」

更に身を乗り出した王子の目をしっかり見据え、一呼吸置いて告げる。


 「王太子殿下と思われます。」

「兄上が?」


 「王太子殿下で十中八九間違いないだろうとの事です。」

困惑を隠せない王子に、ここぞとばかりにたたみかける。

「今しかありません。王太子殿下を捕らえ、正義を示しましょう。さもなければ理不尽に死者が出続けるでしょう。次に犠牲となるのは、殿下。あなたです。」

「・・・勝算はあるのか?」

「王位継承の儀の準備でてんやわんやの王宮に乗り込んで制圧するのは容易でしょう。既にデルムッドが軍を率いて待機しています。さあ、我々でこの国を理不尽から救うのです。殿下、ご決断を。」

 数秒間の沈黙の後、聡明な王子は決を下した。


 「デルムッドに伝えろ。国家の敵を討て!と」


 それは、この国の運命を変えることになった決断だった。



 「バルテロ、事は順調だな。」

「ええ。毒殺されたことは事実なので一から作るよりは楽です。」

 俺は自室の少しだけ壁が薄くなっているところに寄りかかっている。壁の裏側には、裏工作のプロフェッショナル、バルテロがいる。

「王太子以外も巻き込めているだろうな。」

「ええ。後は法廷で突き出すだけです。」

 そう。王太子が国王を毒殺したというのは真っ赤な嘘。毒殺されたことは事実だが、明確な犯人はわかっていない。国王が何者かに毒殺されたのを最大限利用した訳だ。


 これに乗じて、今後邪魔になるであろう大貴族を幾らかまとめて始末する。はっきり言って進んで始末したいかというとそうでもない。だが、輝かしい将来の為の必要な犠牲だと割切ることにしている。理不尽に人を殺す人間は俺が最後でありたい。


 しばらくして、少々の騒ぎの後、即位を控えた王太子他数名の身柄を拘束したと連絡が入った。主だった貴族はみな王位継承の儀の為に王宮に集まっているため、武力蜂起に出られる者は居ないはずだ。趨勢は決まった。これからは俺達の治世だ。しかし、これはまだ序の口に過ぎない。

 俺達の為政に恐れおののけ貴族ども。お前達が権勢を振りかざす時代は、終わるのだ。そして見ててくれロランとミア。お前達の無念は確かに生きている。俺達の中で。

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