プロローグ
虚無の中、俺に誰かが語りかける。
「チャンスが欲しいか少年よ。」
誰かは語り続ける。
「人生をやり直すチャンスが欲しくは無いか。」
俺は尋ねる
「ここは何処なんだ。あんたは誰なんだ。」
誰かが答える。
「そのようなことは今はどうでもいい。私よりもお前だ少年。生き直してみる気は無いか少年。」
「生き直すってどうするのさ。」
「言葉通り二回目の人生を歩んでみる気は無いかということだ。」
ひどく抑揚を欠いた調子で誰かは続ける。
「私はお前の才を惜しんでいるのだ。お前は傑物になれる素質があった。だが周囲はその才の価値に気付かず、お前を異常者呼ばわりし、疎んだ。そしてそれに耐えかねたお前は自ら命を絶たざるを得なかった。なんとも才に似合わない最期だ。私はそう思ったのだ。だからお前の才が必要とされる世にお前を送り出し、今度こそ才に見合った生き方をして貰いたいとそう思うわけだ。」
「何故そんなことを?」
「そこまで深い意味は無い。ただ才気ある若者が好きなだけさ。贔屓ととられればそこまでだが。」
「・・・」
「で、どうだ。やってみるか?」
黙り込んだ俺を急かすかのように誰かが問いかける。
二度目の人生か・・・
誰かの言うとおり、俺はついさっき自殺をした。原因は親の虐待とクラスメイトからのイジメ。いじめられた原因は、スクールカーストの高い奴らと仲が悪かったことと、俺が政治や経済、思想などに興味が強かったことが奇異に映ったからだろう。教師ですら、俺に露骨な嫌悪感を向けてきた。読んでいたマルクスの「資本論」を担任に捨てられた上に殴られたこともある。そっち方面の才能が俺にはあるということなのだろう。
はっきり言って、俺に生きる事への執着は既に無い。しかし、誰かの話を聞くうちに、復讐心にも近いある思いが心の中に宿った。
「お前みたいな役に立たないグズを産むんじゃなかった」と言った親を、「政治とか経済とかまじキモい」と言ったクラスメイトを、「お前みたいな運動家気取りのガキが世の中を悪くしてるんだ」といった教師を、
見返してやりたい。
あいつらが否定したものが必要とされることを証明してやりたい。その結果をあいつらの鼻先に突きつけてやりたい。
不純な思いなのだろうが、強くそう思った。
「やってみます。」
「おお。そう来なくてはなあ。」
俺は決めた。生まれた先がどんなところかはわからない。だが必ずのし上がってやる。地を這い泥を啜ろうと最後には勝者として上に立っていてやる。
「ではいってらっしゃい。頑張るんだよ。」
励ましを受けるとともに俺の意識はすうっと虚空に吸い込まれていった。