03 元に戻ってしまった世界
これで、全ては元通り。
……そうなるはずだったのに、篝が死ななかった事になった世界は翌日には何故か変わっていて、死んでしまった世界になっていた。
翌日学校に登校してきた私達は愕然としてしまう。
確かに篝が過ごしていた証拠……、生き返ってからの篝が作った作品や、篝がやった宿題、使った文房具などは残っているというのに、誰も篝の事を覚えていない。誰かが作った、使ったものだとしか分からない。
他の者達は皆、口をそろえてこういうのだ。「篝は猫を庇って車にひかれて死んだ」……と、そう発言するのだ。
ショックだった。
どうしてこんな事になったのか分からなかったから、というのもある。
けれど、一番ショックだったのは、また篝がいなくなってしまったと言う事。
呆然としていた私だけれど、毬に励まされて気が付いた。
調べなければならない事がある。
どうして一度叶えられた願いが、元に戻ってしまったのか。
その為にさっそく私達は行動する事にした。
「見て、これ。知らなかった。こんな事だったなんて」
「どうしたの?」
毬の弱ったような声に私は自分の作業を止めて、そちらへと駆けつける。
彼女の手の中には、開かれた一冊の書物があった。
「大変なの、願いが叶えられる期間に限りがあるみたいなの」
翌日、私は学校の帰りに毬の家に寄った。
そして毬の両親に頭を下げて、とあることを申し出る。
それは手伝いの名目でする倉の整理だ。
昔の物が置いてある園場所なら、願いの事について詳しく調べられると思ったから。
一度は叶えられたはずの篝がなぜ消えてしまったのか、このまま何も分からないままではいたくなかった。
「叶えられる期間は一週間、たったそれだけなんだって。それに、願いを叶える為には自分の魂を対価に差し出さなくちゃいけない……って」
「そんな……」
篝が生きている日常がずっと続くと思っていたというのに、それがつかの間だけ事だった。
明らかになった事実を前に愕然とする。
どうして私はいつも、全て終わってから後悔しているのだろう。
明日があるから。明後日があるから。そうやって先延ばしにして、大切な事から逃げていたまま。
またいなくなってしまうと知っていたなら、篝にもっと色々してあげたい事も、言いたい事も山ほどあったというのに。
激しい後悔にさいなまれているが、不意に横から不思議そうな毬の声がして、意識を引き戻された。
「でも、おかしいよね」
「え?」
「どうして私達の魂は無事なんだろう」
「あっ」
そう言えばそうだ。
私達は願いを叶えた。
だからその対価に魂を失わなければいけないというのに、未だ無事のままここにいる。
一体なぜなのだろう。
「考えられるのは、私達が二人で願いを言ったから?」
理由があるとすれば、それしかなかった。
けれど、そうだとしてもおかしい。
私はともかく毬は、篝が自分の事を好きになる様にという願いを一人で言ったのだから。
毬の魂が無事な理由が分からなかった。
「どういう事なんだろうね」
毬と視線を合わせながら、それからもああだこうだと推論を並べてみるが、どれも今一つしっくりきそうなものは思い浮かばなかった。
引き続き倉の整理を装って調べてみよう決めたものの、新たな手掛かりは得られなかった。
それから時間が過ぎ去り。
数日が経過して、そのまま一週間が経過した。
その間の天気は晴れだった。
他の事はあまり覚えていないのに、それだけはよく覚えている。
私達の心の中には、いつだって暗く重い雲がかかっていたというのに、どうして世界はそんなにも明るくて平和そうで幸せそうなのか、……八つ当たりの様にそう思っていたから。
けれど私は後に、この間の天気に感謝する事になる。
もし、この期間の間にたった一度でも雨が降っていたのなら、私達に奇跡は起こらなかったのだから。