私たちの会合は今日も始まるのだ
深夜2時にいつも通り腕時計のアラームが微かになる。
ベッドから降り、スルスルとパジャマを脱ぐと白く透き通った肢体が顔を覗かせた。半分程開けていた窓からは静かな風が通っており、揺れるカーテンと彼女の白さは何とも艶かしい光景を生み出していた。
櫛をその黒い髪に通し、いつも通りのショートボブにする。
「寝癖が出来てなくて良かった。例え友達でも見栄を張りたいしね」
クローゼットから、お気に入りのジーンズとジャケットを取り出し素早く着替える。普段なら、母がもっと女の子らしい格好を要求するので着れないものである。
普段通り足音を殺して、部屋から廊下に出る。両親の寝息が聞こえる。本日も安眠なり。基本的に両親は眠りが深いので、まず起きることはないだろう。そのまま家を出る。
残暑が厳しい時期だが、この時間は少し涼しく快適であった。路地を抜けいつもの公園に向かう。家から10分の所にある公園にはいつも通り彼女が先にいた。
「3時30分。時間ぴったしだね」
彼女は、肩まで伸ばしたその茶色の髪を靡かせながら挨拶をした。この公園にある、唯一の遊具らしい遊具であるブランコを揺らしながら彼女は手を振る。とうに見慣れた制服を着た、彼女の左のブランコが私の特等席だ。
私がブランコに座ると、彼女はブランコごと私を引き寄せ唇を奪った。
「よかった。まだ、私から離れてないね」
ここまでもいつもの私たちの恒例行事だ。唇を軽く合わせるだけの軽いキスをした後、彼女はいつもこう言うのだ。深い意味は別に聞いたことないが。
「やっと月の初めだねぇ。君に会えたし、通信制限が解除されて幸せだよ」
彼女は電車で3時間かかる都心の一流私立高校に通っている。黒髪の私より、髪を染めている彼女の方がチャラそうだが彼女の方が頭の出来がよかった。もともと、その高校は私が最初に志望し、
その後彼女が私に合わせ志望したのだが結局受かったのは彼女だけだった。
(そんなこと、別に怒ってなんかないけど。私と同じ高校に行くためだけに頑張った彼女は悪くない)
(そもそも、どちらが悪いとかそういう問題じゃないんだけどね)
「夏休みは、今年もどっか行こーね。来年は大学受験で忙しくなるだろうしね。去年みたく海とか行きたいね」
彼女は話すときに相手の目を見て、離さない。その屈託のない笑顔と、曇りない瞳に世の男は落ちるんだろうな。まぁ、女の私も落ちちゃってるんだけど。
この会合もそういえば、彼女が提案したものであった。
「これからさ、毎月最初の月曜に会おうよ!」
「君の顔を見るだけで1ヶ月の疲れが吹き飛ぶしさ、それからの1ヶ月も頑張れると思うんだよ!」
「私たちはもう愛し合っちゃってるからさ、欠けちゃうと生きにくいんだよ」
「でも毎日会っちゃうと、私は溶けて骨格を保てなくなっちゃうだろうから、ここはあえての我慢だよ。禁欲の日々だね!」
嬉嬉として、語る彼女に無言で賛成したのは覚えている。彼女の瞳はやはり世の人間全てを服従させられるだろう。
鼻につく匂いの煙が漂う。いつの間に出したのか、彼女は煙草を吸っていた。銘柄はいつものラッキーストライク。女子高生が吸うものではない気がする。
「私の前では煙草はやめてっていってるよね」
我慢出来ずに、彼女に言う。
「だって、構ってくれないんだもん」
と言うと、彼女は唇をツンと突きだした。
「キスしてよ」
挑戦的な目つきで、こちらを見上げる。
望みに答えるため、唇を塞ぐ。今度は舌を入れたものだ。これも友好の印。友情の一環である。断じて、恋愛対象として認識しているわけではないのだ。暫くしてから、彼女は満足げに唇を離した。
「ごちそーさま」
「お粗末様でした」
2人でにやにや笑い合う。
「それはそうと、少しヤニ臭かったよ」
「うそ!?ちゃんとケアはしてるのにぃ...」
「気にしてるなら、吸わないのが一番」
「でも、口が寂しいんだよなぁ」
彼女はまた、挑戦的にこちらを見てくるが、今度こそは軽くあしらう。不満そうに、ぶーぶー文句を暫く言い続けたが、それもある程度たつと落ち着いた。それから何も話さない時間が少し続いた。お互い考えていたのだろう。色々と。
「私たちは、いつまでこうできるんだろうねぇ?」
彼女が問いたその言葉には、色んな意味が含まれている気がしたし、現にその通りなのであるのだろうから
「いつかよりよくすれば、問題はないでしょう?」
と、私は嘯いた。
朝がどんどん顔を出してきた。
彼女が乗る電車がそろそろくるだろうと私は何となく考えていた。
百合を書きたい欲求が溜まりすぎて...
失恋物を、書きたいのに書けない!