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ヴァールハイト~希望の光~  作者: 吾妻紗流
3/3

小鳥の想い

朱雀家の選挙トレーラーは今日もノイズ殲滅もとい、選挙活動を行っていた。

湊が朱雀家に加わってから一か月の時が経つ。選挙活動では役に立たない湊は明日香に無理やりトレーラーの中に備えられている整備室に押し込められていた。

 雨宮(あまみや)雷土(いかづち)と呼ばれている褐色の少女からフェニカスの整備方法を教えてもらいつつ、助けられた日の事を思い出していた。


「これは交換条件ではないが、私が君の家を探している間、私の選挙活動に協力してくれないか?」

「そうは言うが、俺に何ができる? それに選挙活動だ? どうしてノイズを殺すことが選挙活動に繋がる?」

「我々、朱雀家は代々この国を守ってきた守護家系と呼ばれている。今、この国で問題になっているのがノイズであり、ノイズを生むのは魔素だと考えている。今度、この国の法を改正する大きな会議が行われるんだ」

 明日香は、着物に刺繍されている翼を広げる鳥の形をした家紋をぎゅっと握りしめながら、覚悟ある目で湊を見つめる。

「そこは多くの戦闘貴族たちが各々、改正案をあげる場でもあるんだ。案は国民たちの投票によって通ることができる。だから、一人でも多くの票を獲得するために、ノイズとの戦闘シーンを撮影して、流し、国民の信用を得ようとしてるんだ」

「君の改正案って?」

「この国を囲む壁を破壊することだ」

「なんだって!」

「何を驚くことがある。あの壁を壊せば、この国に漂う魔素は外へと漏れ出す。そうすると、ノイズたちも一緒に外へと行くじゃないか。そうすれば、もうノイズに殺される人がいなくなるはずだ」

「馬鹿! 何を言ってるんだ君は! そんなことしたら、ジパング以外の国に影響が出るだろう!」

 怒りが混じった声で湊が怒鳴ったが、明日香はきょとんとしていた。

「君こそ何を言っている? この国以外が大変な目に遭っても私たちには関係ないことだろ?」

 そう言い放ち、湊の言葉を聞かないまま、どんどん話を進め始めた。

「君をフェニカスに乗せた時、君の魔力に反応してフェニカスの基本行動力が数段に上がった。君の魔力は金剛機を強くすることができる。君には金剛機に乗って私と一緒にノイズを倒してくれ! 安心してくれ、私のとこには優秀な整備士がいる。あの残骸を元の姿に戻すくらい容易いことだ」

 湊の手を掴み、目を輝かせながら明日香は言うが、湊はじっくりと考える前に首を横に振った。

「ごめん、やはりお前の力になれない。もちろん、何かしらの力にはなりたい。俺の家を探してくれるんだから……。でも、お前の考えには賛同できない」

「な! くっ、そうか……。わかった、君は我が朱雀家で預かる。だが、何もしないでいるなんて、男のすることじゃない。君にはしっかり働いてもらうからな! あとは、雷土に任せる」

 湊の言葉を聞くと先ほどと打って変わって、怒りが混じった声を上げ、湊の前から出て行った。

「ちょっと待てよ、なに怒ってるんだ?」

「怒ってなどいない! 君にはもう何も頼まない! 私達の考えを理解できない奴にはな」

 その言葉を最後に二人はまともに会話することはなくなった。

 

「はあ」

 明日香の事を考えるだけで湊の口からため息がこぼれる。俺が何かしたのだろうか、と考えているが答えは見つからなかった。

「何辛気臭い顔してるの? ほら、姫様の言ってた部分、まだ修復できてないよ。あともう少しだから頑張ろうよ」

「あのさ、俺まだ素人同然なんだから、お前がやれよ」

「それはだめだ。この国に生まれた以上、男子は必要以上に働かないと。そうしないと、姫様に報告して夕餉は無しにしてもらうよ」

「……、頑張る」

 作業に戻ろうかと思うが、これから先、自分はどうなるんだと思うと嫌でも湊は進める手を止めてしまった。

「これから先、俺はどうなるんだ?」

「安心しなよ。姫様はちゃんと湊君の家を探しているさ。ノイズを倒して疲れ切った体で毎日……、どうしてそこまでして、君の助けになろうとしていると思う?」

「わからない、あんなことを言える奴の考えなんかな……。お前、アイツと長い間一緒にいた仲だろ。なにがアイツをそうさせるんだ?」

「姫様はね、この国が好きなんだよ。そして、この国に住むすべての人を愛している。まあ、先代である姫様の父君の影響だけどね」

雷土は作業をしながらひとりでに語り始めた。

「姫様のお父様、()(どり)(つぐみ)様は、数多くいる戦闘貴族の中で一番、姫に尽くしてきたお方でした。でも、だんだん姫が行う令制が国のためで無く、姫という個人のためだけだと判断したんだ。ある日、それを国民全員の前で姫に咎めようとしたが、姫を信用しきった国民に大批判され、反逆罪として死刑になったんだ。それも最もひどい、ノイズに食われるという刑だった」

 たしかにひどいな、と湊は呟きながら、明日香のノイズに対する憎悪を思い出していた。

「でもね、姫様は国の人たちを恨みはしなかったんだ。鶫様が守ろうとしたものを私も守りたい、そう言っていたな。でもね、姫だけは許せない、姫に対する憎悪が強くなった。だから、反逆の意味を込め、あの壁を破壊するって誓ったんだ」

「だけど……」

「君の言いたいことは分かる。だけどね、今の私たちはこの国を守ることで精いっぱいなんだ。だけど――」

 こっちきて、と小さな手で湊の服の袖を握り引っ張り始めた。整備室の奥に続く扉を開け、中に入ると、そこには金色に輝く人型の機械が鎮座している。一目でそれがあのガラクタだと分かった。

「湊君の金剛機、実は完成してるよ。名前は『ヴァールハイト』、希望っていう意味だよ。これを君が乗ってノイズと戦えば、この国だけじゃなく、世界を守ることができる。そう願いを込めて私が作ったんだ。だから、今だけでいい、姫様の力になってあげて。お願い」

「ごめん、アイツの力になれそうにない」

 湊の言葉、決心を聞くと雷土をわかった、と寂しそうに頷くと整備室から出て行った。

「なにが、死んだ親父のようにこの国を救いたいだ。結局、自分たちだけが良ければ他人なんかどうなってもいいんじゃねぇか」

 そう言いながら、雷土に見せられた金剛機、ヴァールハイトへの元に歩く。

「あんな話聞かされたって俺がこいつに乗るわけない」

機体の横に沿なれつけられている梯子を登り、ちょうど機体の胸の位置に足場があった。湊は足場に降り立つと、顔を上に向け、ヴァールハイトの顔を覗いた。初めて会った時とは、姿が全く違い、今の姿は湊には雄々しく見えた。

そういえば、この中に女の子が……

 ふと、ヴァールハイトに触れながら、湊はその時の光景を思い浮かべた。すると、ヴァールハイトの目が光ると激しく揺れ始めた。湊には、何が起きているのか全く分からない。もしかしたら、常に漏れ続けている魔力に反応しているじゃないかと考えた。でも、直ぐに揺れが治まると、機体の胸パーツがパックリと開いた。

 やはり、そこには初めて見た時と同じ、透明なクリスタルの中に女の子がいた。眠るように目を閉じ、両足を抱えた状態だ。でも、一目で美少女だと分かるくらい顔は整っている。

「しかし、よく見ると明日香にそっくりじゃないか? いや、最近美人を見たのがアイツくらいだったから、見間違いだろ」

『この童貞、戦えないなら私に触らないで!』

 どこからともなく女性のような高い声が聞こえてくる。キョロキョロと周りを見るが人の姿はない。だが、わずかにクリスタルの中の女の子が動いているところから、少女が言っていることが分かった。

「誰だお前は! っていうか、可愛い女の子がそんな汚い言葉を使うんじゃありません」

『っ! わ、私を口説く暇があるならお前は明日香と話して来なさい、そして仲良くしろ』

「意味が分からねーよ。なんであいつと仲良くしないといけない。仲良くしたとこで俺に何のメリットがある」

『お前は物事を損得を考えながら人と会話するのか……。わかった、お前が緋鳥明日香と仲良くすると、そのたびに私がお前の記憶を少しづつ教える。それならいいでしょ』

「なんでお前が俺の事を知っているんだ。もったいぶらずに教えてくれ!」

 湊の呼びかけにクリスタルの少女の声が止まった。まるで何かを考えているように思える。

『ごめん、君を助けるには……でも』

「は、なんだ? 何言ってるか聞こえないぞ!」

『とにかく、明日香と仲良くしないと許さないから! あと、私の事は他の人には黙っていなさい、分かったわね』

 吐き捨てるように言うとバタリと開いた胸パーツが閉じた。

「誰かと話していたのか?」

 タイミングが良いのか悪いのか、整備室の壁に備え付けられている小窓から明日香が顔を出して湊に問う。

「いいや、俺一人だが」

「そうか……、まもなく戦闘区域に入る。フェニカスの整備よろしく頼む」

「了解」

 パタリと小窓が閉じ、明日香の気配がなくなった。これでいいか、とヴァールハイトに向け語り掛けると、返事のつもりか両目が一瞬だけ点滅した。

「どう、姫様と仲良くできそう?」

 明日香と入れ替わるように、整備室の扉から雷土が入ってきた。手には、円盤型のディスクを持っている。

 雷土は小さな手を振り、手招くような行動をとった。しょうがないな、と言いながら湊は雷土に近づいた。

「これ、君に見てほしいな」

 整備室にある大型のモニター、そこにはフェニカスに似た金剛機がノイズの軍団と戦っている光景だった。ただ、すでに右腕が壊れ、そこから内部組織がむき出しになっている。はっきり言って、もう戦えないほどの大傷を負っていた。なのに、金剛機は戦うことを止めない。

 武器が、短いナイフ一本で戦っていた。まるで諦めることをしないみたいだ。

『俺は、諦めない。男がここで諦めたら、この国に住む人たちは誰が守るんだぁ!』

 場面が変わると、金剛機の中にいるパイロットの姿がモニターに映る。ヒーローが被るようなフルフェイスのヘルメットのパイロットは、深手を負っている。顔半分は丸見えで、額から血を流していた。

「こ、これは……」

「結構前にジパング全土に放送されていた、ヒーローものの番組だよ。映っている人は前朱雀家当主、姫様の父上様だ」

「それにしたって、リアル過ぎないか」

「うん、本物のノイズを使って撮影していたからね。負けそうになってるシーンなんて、ワザと手を抜いて、一歩間違えたら死ぬんだけど、鶫様はジパングに住む人に勇気を与えていた」

 雄叫びを上げながら、パイロットは操縦桿を押し倒した。金剛機は、一体のノイズの顔にナイフを突き刺した。

「小さい時からこの番組が好きだった。もちろん、自分の父親が出ているのも理由の一つだけど、もう一つ好きなもの、憧れているものがあるんだ。それはね、国を守るという大きな使命なんだ。鶫様に憧れ、鶫様の後を追うように姫様は鶫様がしていたことの延長線で選挙活動をしているんだ。少しでも国民の恐怖心をなくすために」

 映像は未だに流れ続けている。血を流しながら、必死に生を叫ぶ姿は、湊の心に僅かに火を灯してくれた。

「人を守るための強さ、国を愛する心か……。かっこいいな。これをあいつは目指しているんだろ」

 映像を見ながら、自然と手を握りしめていた。心の中で熱く何かがたぎっているのが実感できる。湊はテレビの中のヒーローに思わず見とれてしまっていた。

「うん!」

「そうか……。力になれるか分からんが、俺もアイツの事を手助けしたい!」

「わかった、じゃあ簡単に操縦方法教えるから、君はこれを着て。これは朱雀家だけが着れるいわゆる戦闘服だよ」

 雷土がどこからか取り出した服を渡そうとしたとき、ピピっと機械音が部屋に響く。

「うそ! どういうこと?」

「どうした、この音は何だ?」

「どうやら姫様、勝手に出撃したみたい。湊君、はやく用意して。姫様が私の断りなしに出撃なんて、何かあったに決まってる」

 わかった、と頷き、湊は雷土が持っている服を貰って着替え始めた。


  ☆

 フェニカスの片翼がもがれていた。装甲はほとんど剥がれ落ち、コックピットはむき出し二だった。

「まさか、白虎家が邪魔しに来るなんて……。()(ゆき)、友達だろ! 私に協力してくれないか?」

『なぜですか? 明日香姉さま。私は姫様の命令の下、動いてるだけですよ。姫を裏切る姉さまが悪いんです』

 フェニカスの前にはノイズと共に一機の金剛機がフェニカスに牙を向けていた。真っ白いボディに獣のような姿。頭部から二本の大きな牙がむき出しになっている。

「昔から言ってたよな。おかしくならないように二人で国を変えようて。それなのに、お前は姫の護衛隊に志願したんだ!」

『おかしかったのは鶫様の方だったんですよ。この国は変えずとも、平穏、平和なんです。姫様がそうしてくれるはずです』

 獣の金剛機から漏れ出す声は明日香の言葉を全否定する返答をするだけだった。なぜだ、と考えていても敵の牙が襲ってくる。反応が遅れ、回避行動をとったがフェニカスに牙が突き刺さり、腕が吹き飛んでいった。

『なぜ、やられているのに姉さまは攻撃しようとしないのですか? 私が友達からですか?』

「この国の人だからだ……」

『何それ気に食わない! 鶫様さまだってこの国の人に殺されたんですよ。なのに姉さまは国民を傷つけたくない、か。ふざけるな!』

 叫び声と共に、敵は大きく口を開いた。狙いは、むき出しのコックピットだった。

『明日香ああああああ!』

 牙があと数センチで体を貫く距離まで迫ったとき、目の前に金色の金剛機が立ちふさがった。


  ☆

『ふう、間一髪だったな』

「き、君は。それにその機体は……」

『ああ、雷土に修理してもらった、『ヴァールハイト』だ。今までお前の考えに反対してたけど、お前の父さんに教えてもらった。国を守るっていう熱い気持ち、をな。だから、遅くなったけど、俺はお前が死なないように俺がお前を守る!』

 牙を受け止めていた手で敵の体を持ち上げ、遠くへと投げ飛ばす。そして、ボロボロのフェニカスを守るように背中の後ろに隠した。

「湊くん、ありがとう。本当にありがとう」

 泣きながらお礼を言う明日香に、おう、と返事をした。

『まずは、アイツを倒さないといけないな』

「湊くん、あの子を殺さないでくれ、あの機体だけを壊してくれ」

『わかってる、あの機体に乗ってるやつもジパング国民だ。お前は国民を守りたいんだろ』

「ああ、私はこの国の人を守りたい」

 その言葉が聞きたかった、と雷土から教えてもらった操縦方法を思い出し、操縦悍を倒した。ヴァルハイトの背中から生える黄金の翼。そこから、金色の羽が勢いよく飛び出し、敵機の周りにいるノイズだけに突き刺さった。

 羽が貫通した穴だらけのノイズはその場に力なく倒れていく。

『誰だお前は! 私の邪魔をするな!』

『悪いな、俺はこいつの守護者だ。どんな障害も跳ね返す盾なんだ。だから、お前こそこいつの夢を邪魔するな!』

 ヴァールハイトは敵に向かって、飛んだ。スピードを上げ、拳を突き出した。

 敵はそれを迎えるように口を大きく開け、ヴァールハイトに牙を向けた。

『うおおおおおおおおおお!』

 拳は湊から流れ出す魔力を纏い、黄金色に輝き始めた。そして、拳と牙がぶつかる。

 ガキイン!

 敵の牙は無情にも吹き飛び、敵は武器を失った。そのまま拳は口の中に滑り込み、体内に叩き込んだ。敵機は内部から爆発を起こし、バラバラに吹き飛んでいった。

 その中に、気を失ってぐったりとなっている女の子が飛び出し、ヴァールハイトは地面に落ちないように優しくキャッチした。

 ヴァールハイトは女の子を握ったまま、明日香の元に連れて行った。二機が地面に降り立つと、湊はコックピットのハッチを開け、地面に降りた。

 すると、明日香は鼻水をたらしながら湊の胸の中に納まった。そして、ありがとう、とだけを言いながら大声で泣いた。湊は優しい手つきで明日香の頭を泣き止みまで撫でていた。


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