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2016年/短編まとめ

チョコはあっても、愛はないだろ

作者: 文崎 美生

疲労が溜まった溜息を落としながら、手に持っていたいくつもの紙袋をリビングのテーブルの上へと置いた。

その横の茶の間では、ダラダラとソファーに身を沈めながらテレビを見ているイトコ。


「お帰り」


「ただいま。て言うか、家主のいない家で良くもそんなに寛げるな」


ソファーの前に置かれたローテーブルの上には、無造作に置かれた鍵。

更には俺が普段使っているマグカップもあり、完全に無断使用だ。

マグカップに手を伸ばしながら、幼馴染みだしイトコだし気にならないよ、なんて言い切る馬鹿。


俺達二人は幼馴染みでイトコだが、他にも二人幼馴染みがいて、本当に子供の頃からの付き合いだ。

そのせいか、お互い遠慮らしい遠慮が欠けていて、家でも部屋でも普通に上がり込む。

特に一人暮らしなんてした際には、全員に合鍵を渡すなんて当たり前みたいなもんだ。


「いやいや、先週まではおばさんもおじさんもいたよね?」


「昨日からまた仕事戻ってる」


俺の場合は一人暮らしと言うよりは、父親が仕事の都合で転勤だ何だとなった時に、付いて行かないという選択肢をした結果に、自宅に残されたというものだ。

一軒家だし、長い間放置していたら掃除が大変だから、と母親も宜しく、みたいな軽い感じで俺を置いて父親について行った。


休みに戻って来たり、有給を使って戻って来たり、盆と年末年始は必ず戻って来るので、結構会ってはいる方だろう。

世の中の単身赴任をしている父親に比べれば。


「オミくんは男の子だからね。置いて行っても、問題ないだろ、みたいなねぇ」


あはは、と無邪気な笑い声を漏らしながら、イトコはソファーの横に置いてある袋から可愛らしい色のリボンが付いた紙袋を取り出す。

ガサガサ音を立てて開ければ、甘ったるそうなガトーショコラが出てくる。


バレンタインなんて、女の子同士の女子力の競い合いか何かなんじゃないか。

溶かして固めるだけでは駄目らしい。

そういう女子力だ何だには興味を示さない他の幼馴染みですら、何だか凝ったものを作り出したりする。

性別が違うだけで、こんなにも理解出来ないものなのだろうか。


「でもいいんじゃないかな?男の子だから、そんなに沢山のチョコレートを貰えるんだから」


皿もフォークも出さずに、素手でガトーショコラを頬張るイトコ。

行儀が悪いと言えば、えへへ、と答えにもならない笑い声を漏らした。


もぐもぐと頬袋を膨らますリスみたいに、ガトーショコラを咀嚼するイトコは、女の子同士で交換したチョコレートを既に半分近く消化しているらしい。

女の子は甘いものをいくらでも食べられる、を体現しているようだ。


「俺、甘いの好きじゃないから。残り、食べといて」


紙袋の中から二つだけ取り出して、残りをイトコに押し付ければ、口の周りをチョコレートだらけにしたイトコが、ニヤニヤと笑う。

赤い舌で口元のチョコレートを舐め取りながら「冷蔵庫にまだあるよー」と一言。


あぁ、はいはい。

冷蔵庫の中に鎮座するこれまた可愛らしいラッピングのチョコレート。

中身が何かとかは別に気にならないが、毎年の恒例行事になりつつある。


手作りのチョコレートが三つ、俺の手の中にある。

一つは真っ赤なリボンが付いたもの。

一つは紫がかった青の飾りが付いたもの。

一つは水色のシールの付いたもの。


告白するとか、好きとか、愛してるとか、そういうのとは別方向にあるような感情。

愛だとするなら、それはきっと友愛であり、ある種の家族愛だろう。

それ以外を向けられる、向ける、なんて考えたことないが。


取り敢えず、これだけは消費する。

胸焼けを患う覚悟をしてから、だけれど。

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