序章
「どうしてよッ!?」
決して狭くはない石造りの建物に鋭い怒声が響き渡る。
何だどうしたと口々に騒ぐ猛々しい男達の視線の先で、少女はその瞳を吊り上げていた。
「どうして試験を受けられないの!?」
「で、ですから。十五歳未満は紹介状がないと、試験を受けられない決まりなんですよ」
「あぁ、もうッ!! いいわよッ!!」
沸き起こる怒りを抑えきれず、少女はズカズカと歩を進め、乱暴に扉を開け放つ。建物内から向けられる視線に無視を決め込み、建物を後にした。
歯をギリギリと噛み締めながら、心の中で罵倒の限りを尽くす。
話にならない。どこへ行っても同じ事を言われる。ここで通算三箇所目だ。
曰く、ハンターになる為には登録を行わなければならない。
曰く、登録を行う為には試験を受け、これに合格しなければならない。
曰く、十五歳未満の場合は、現役ハンターの紹介状がなければ試験を受ける事が出来ない。
どこへ行っても同じ説明の繰り返し。例外は認められないの一点張り。
いつまで経っても糸口すら見えない現状に、十四歳になったばかりの少女は辟易していた。
"ハンター"と呼ばれる職業。それが、少女が目指すものだ。
少女には夢があった。
――否。それは夢というよりも、少女にとっては使命とも呼べるもの。
それを成し遂げる為には、どうしてもハンターにならなければならない。
後一年待てと誰もが言う。
何も知らないくせに、と少女は思う。
少女は待った。十分に待った。
学べるものは何でも学んだ。自らを鍛え、力もつけた。
少なくとも、そこいらの三流ハンターになど負けない自負があった。
それでも、まだ待てと言う。
もうこれ以上待つ事など、少女には出来ない。
歩き始めてしまったから。
立ち止まる事なんて出来ない。
決して立ち止まらないと心に誓ったから。
「……ここもダメだとすると……」
懐にしまっていた一枚の紙切れを取り出す。
そこには、いくつもの名前が記されていた。その内の二つを除いて、全てが×印で消されていたが。
空いている手で身に付けたウエストポーチからペンを出し、残る二つの内の一つに×印を加える。
そして、たった一つ残ったその名をじっと見つめる。
「――アルトリア王都……か」
それが少女に残された、唯一の希望だった。