序章
彼女は、何しろ退屈していた。
何に退屈しているのかと問われてもこれと挙げる事はかなわない。
何が変わればそれが改善されるかと問われても具体的には述べられない。
ただ、退屈している事だけは確かだった。
いつもと変わらぬ景色。
いつもと変わらぬ残響。
どれ一つ取ってみても何の代わり映えもしないのだ。
退屈を埋められる何かを探しに行きたいと感じても、それすら叶いはしない。
立場ではない。存在そのもの。
それが彼女自身に壁を造る。
新たな景色を見据えられぬ高き壁。
新たな音を越えさせぬ厚き壁。
その向こう側を垣間見ようと手を伸ばす程に、壁は高く厚く彼女を阻む。
どれ程の時をそうしてきたのだろう。
存在が滅するまでの長い間、きっとそれは変わる事はないと思っていた。
――だと言うのに。
それは、前兆もなく唐突に彼女の前に現れた。
見た事もある。それが何なのかも知っている。
それが目の前に現れようと、大した事でないのは分かっている。
それでも。
いつもとは異なるたった一つの光景に、彼女の心は大きく震えたのだ。
真っ白な布にほんの一滴の絵の具を垂らしたかのように、その光景はあまりにも違っていたから。
――だから。
彼女の目は、どうしようもなくそれに奪われてしまった。
彼女の手が、どうしようもなくそれに触れてみたいと感じてしまった。
――それが何をもたらすのかを知るには、彼女はあまりにも無知だった。
長い事放置してしまいましたが、少しずつ復活致します。




