再会
「ほれ、出来たぞ」
「はいはい、預かるわねー」
依頼を果たし、ギルドへと戻ったセヴィルは、レティシアが笑顔で差し出してきた報告書をさらさらと書き上げた。
自身は何もせずにただ眺めていたから、むしろ正直書きやすかった。見たままを書くだけだから大して難しい話ではない。
「ん、問題なし。お疲れ様、三人共」
言いながらレティシアは報酬の入った袋をカウンターの上に差し出す。
突然の依頼だったから多少色がついているのだろうか。セヴィルが思っていたよりも多少の重みを感じた。
「でも随分とかかったわね?」
「奴等が来るのが遅かったんだ。別にサボってた訳じゃねぇ」
嘘は言っていない。水晶の間に到着してから結構な時間を彼等は待った。かかった時間の半分近くはただひたすら待機の時間だったと言っても過言ではない。
――もっとも、受験者が辿り着いてからもセヴィル自身は特に何もしなかったのだが。
「……あの、セヴィルさん?」
「ん?」
かけられた声に振り向くと、何やらゼノが神妙な面持ちでこちらを見つめている。
面倒な予感がした。
「疲れたか。そんなら今日はこの辺で――」
「あの、聞きたい事があるんですけど」
方向転換は失敗に終わる。最近どうも先手を打たれて逃げ道を塞がれる事が多くなったような気がしてならない。
やれやれと溜め息を吐きながら、疑問の内容を聞いてみた。
「あの受験者の人達……そのまま置いてきちゃいましたけど、大丈夫でしょうか?」
あぁやっぱりな。どうせそんな事だろうと思っていた。
確かに、彼等は水晶の間で戦った受験者達をその場に放置した。
正確には放置してすぐさま踵を返したセヴィルに半ば釣られるようにゼノ達が付き従った形ではあるが、結果としては変わらない。
回答としては、"問題ない"である。
「まぁそうでしょうね」
「……どーゆー事?」
流石にユニは理解している。この辺りが二人の差だなと感じつつ、セヴィルは説明を始めた。
そもそも何故ハンター試験があの洞窟で行われるのか。
洞窟内に魔物が存在するという理由もある。初めて挑む道程を、如何にして踏破し辿り着くのか。その技量を確かめる事も目的の一つだ。
が、一番の理由は、件の"水晶の間"なのである。
「そうなんですか?」
「あぁ。あそこは邪魔が入らねぇからな」
ギルドにとって、"水晶の間"が試験会場として都合が良い一番の理由。それは、水晶の間にはそこをすっぽりと包み込むように結界が張られている事である。
この結界は魔物の存在を否定するものであり、その内側にいる限りは魔物に襲われる心配がない。
かつてハンターの一人が何かの依頼で洞窟に潜った時に、それを発見した。結界は元より自然と張られていたのである。
つまり、洞窟内に魔物がおり、かつそれに邪魔される事なく試験を行う事が出来る空間が存在する訳だ。
ハンター試験の会場に最適だと判断したアルトリアのギルドは水晶の間からギルドへと繋がる通路を作り上げた。
それは洞窟内の様子を確認する為のものであり、また試験で傷付いた受験者を安全に運び出す為でもある。
そしてこの通路、実は洞窟内の至る所に繋がっている。水晶の間のあちこちに隠し通路が備えられ、そこから洞窟内のあちこちに向かえるようになっているのだ。
ハンター試験の受験者には必ず隠れて職員が同行し、問題が起こった際はこの抜け道から水晶の間を抜けてギルドまで連れ帰る事になっていた。
「え、じゃあ僕達の時も……?」
「えぇもちろん」
「ぜ、全然気付かなかった……」
気付かれないように付いて行くのだから当然だろうとセヴィルは付け加えた。
もちろん、今回も例外ではない。受験者の三人は今頃水晶の間で職員に応急処置を施され、このギルドへと運ばれてきている所だろう。
「そんな訳で、彼等も安心なのよー」
「そうなんですか……」
ゼノがくりくりと大きな瞳を輝かせながらレティシアの話に耳を傾けている一方で――何やら浮かない顔を隠そうともしない者が片隅に一人。
他でもない、いつもの騒がしさとは打って変わって、ここまでほとんど口を挟んでいないユニその人である。
出来れば振りたくない、とセヴィルは思った。
このまま話し掛けては面倒な事が増えるだけなのは目に見えているからだ。ようやくゼノの疑問を一つ片付けた所なのに、面倒な時間を過ごすのは可能なら避けたかった。
が。
「……あのさ」
どうしたものかと悩む時間が災いした。少しばかりの躊躇の間に口を開かれたセヴィルは人知れず溜め息を吐く。
それに気付いてか気付かずか、ユニはおもむろにその疑問を口にした。
「あたし達、本当に強くなってるの?」
あぁ、今すぐにここから出て行きたい。面倒な予感が的中した。
こういう質問は非常に厄介だ。そうだと肯定すれば具体的にどこが強くなったのかを聞かれ、そうでもないと否定すれば自分達は一体何の為にとがなりたてる。そんな未来しか見えてこない。
何が面倒かと言えば、セヴィル自身が何の為にこれまでの一週間を過ごさせたのか、それを全て語らなければならない事が何より面倒だ。後進に道筋を示してやるのは先人の務めだとは思うものの、一から十まで伝えてしまっては何の意味も成さないというのがセヴィルの持論だった。
要するに、そんな事は自分で考えろと言いたい。
はてさてどうしたものかと考えていると、ふと脇から助け船が出された。
「そりゃー強くなってるでしょー、あの三人相手にほとんど二人で立ち回ったんなら」
「そうなの?」
「そうなんですか?」
目を皿のように広げた後進達がほぼ同時に聞き返す。
間違いなく期待している。この年頃に限らず、人なんてものは他人からの評価を求めるものだ。自身に実感はなくとも、他人から見て少なからず成長を遂げているのであれば多少は安心出来る。そんな所か。
「あくまでも私から見てだけどあの三人、一人一人が試験受けた時の君達と大体同じくらいの強さだと思うわよ?」
「「え、でも」」
図ったように二人の声が重なる。
まぁ気持ちは分からないでもない。二人にしてみれば多少の実力差を感じたのだろう。だからこそ自分達の成長度合いが実感出来ずにいるのだ。
レティシアの言葉は、的外れなどではない。セヴィルも同意見だった。実際に二人と相対したセヴィルだから、今回の試験をその目で見てはいないレティシアよりも幾分か正確だろう。
あの三人の実力は、一人一人で言えばゼノ達とそれ程大差はなかった。
ゼノはスピードで、ユニは魔法の威力でそれぞれ勝ってはいるものの、単純な力や総合的な体力で言えば明らかに相手の方が優れていた。
では、何故あれ程までに一方的であったのか。
少しばかり思案して、セヴィルはユニに向き直った。
「お前等はどう感じたんだ?」
「どうって?」
「奴等とやり合って何か感じたろ」
そうでなければこんな疑問は出てこないと確信して問うてみる。
質問の主達は腕を組んでしばらく唸り、それからようやく言葉を紡いだ。
「……何か、動きが無駄だらけだなとは思ったわね」
「僕は妙に遅く感じました。わざとゆっくり動かれてるような、でもそんな事ないような……」
――何だ、分かってるじゃないか。
「それが答えだ」
「「へ?」」
だから声を重ねるな、などとは口にしなかった。思っていた以上の結果だった事に少しだけ微笑ましくなったのが表に出るのは好ましくないからだ。
あの受験者達の動きが無駄だらけで遅い。そんな風に感じられたのなら間違いなく成長しているのだ。
それこそ、たかだか一週間前の自分達と比べて明確な技量の差が生まれているという事なのだから。
至極、単純な話なのである。
力仕事をすれば筋力がつく。街中を駆け回れば体力がつく。動きの読みづらい相手を追い詰める方法に見当がつけばその先を捉える事も出来るし、人でごった返している中を何とか進まなければならない場に身を置けば自然と隙間を見つけるのが上手くなる。
確かに、この一週間彼等に剣を振るったり魔法を使ったりする仕事はさせていないし、彼等の鍛練を見てもいない。
だが、常に戦い続けなければ強くなれないのかと言えば、答えはノーだとセヴィルは思う。
目の前の見習い達はそもそも基礎が出来上がっていない。身体も知識もそうだが、この年頃で鍛えるべきは基礎となる経験と応用力であると思うのだ。
彼等が子供であるからこそ、ただ単に戦いだけに身を染めさせたくはない。ハンターを目指すのなら尚の事。
「ねぇ、一体どーゆー事よ!?」
「るっせぇな、テメェ等で考えろそんぐれぇ」
「そんなぁ! ヒントくらい教えてくださいよぉ!」
「すがるような目をすんな。悩んで足掻けよ見習い小僧ども」
「あぁ! 今小僧『ども』って言った!」
「気になったのはそこなの?」
「だってあたしは小僧じゃないもん!」
「小僧じゃなけりゃガキだガキ」
「ガキって言うなーッ!」
セヴィルの言う事がいまいち理解出来ない二人が彼を囲んでわいわいがやがやと騒ぎ立てる。
いつもの事だ。うんざりはするが多少慣れてきた自分がいる。
そういう意味ではセヴィル自身も成長しているのかもしれないと、心の内で苦笑した。
「セヴィルって放任に見えて、意外とそうでもないのよね」
「うるせぇ」
そんな光景を前にレティシアが微笑んで告げてくる。
はてさて。ありきたりな日常の中にどれだけ学ぶべき事があるのか。彼等がそれに気付くのは、はたしていつの事になるやら。
◆
「今日はこっから休みにするか」
「えぇ!?」
そんな驚愕に値する言葉がセヴィルの口から飛び出したのは、ギルドを後にして少ししてからだった。ユニが買いたい物があるからと待っている間の事だ。
先のハンター試験以外に自分達が受けるのに丁度いい依頼がなかった為に、これからどうするのかとゼノが尋ねて返されたのが予想外の返答だったのだ。
「お休み、ですか?」
「何だ、不満か?」
「い、いや、そういう訳じゃないですけど……」
気怠げなセヴィルの問いに思わず言い淀む。
別に不満な訳ではない。ただ、セヴィルから休みにするなどという言葉が出てくるだなんて思ってもいなかったから戸惑っているだけだ。
きっとセヴィルの事だから、時間を無駄にするなとでも言って何かしら指示でもくれると思っていたから。
しかしどうしよう。突然休みと言われても特に予定もない。
いつも通り訓練場を借りるか。それとも、たまには街を散策してみようか。
「やー、待たせたわね男子諸君ー」
空いた時間の使い方をふわふわと考えていると、後ろから呑気な声が沸いた。
どうやらユニが戻ってきたらしい。
「ユニ! ……何それ?」
振り返った先にいた彼女は、顔が隠れる程の紙袋をほくほく顔で抱えていた。何やら妙に上機嫌である。
「んー? んふふー、知りたいー?」
「え、まぁそりゃあ……」
「別にどうでもいいだろんな事」
「あんたには聞いてないわよ!」
「へいへい……」
「ったく……で、知りたい? ねぇ知りたいー?」
セヴィルを一喝してからとゼノに聞き直してくる。
「何かいいものでも買えたの?」
「んふふー、実はねー……」
これ見よがしにもったいつけてくる。やっぱやめとこうかなーとかでもゼノがどうしても聞きたいならーとか悩む素振りが何ともわざとらしい。
聞いて欲しいなら素直に話せばいいのに、と思うのは果たして負けなのだろうか。
「じゃっじゃーん!」
「おぉッ!?」
ようやくユニが差し出した紙袋の中身を眺めて思わず目を見開いた。
所々ほんのり焼き跡のついた紫色の衣。紙袋の縁から覗くそれは力強さを感じる程に太く長く。開け放たれた袋から広がる匂いはとても香ばしい。
「焼き芋かぁ!」
「さっきあっちの出店で売ってたの。何かもう抑えきれなくってさー!」
嬉々として語るユニの顔が綻ぶ。ゼノにはその気持ちがよく分かる。
彼の住んでいたリーシャ村でも芋を育てていた。薪に火をつけて炙るように焼き色をつけたそれはゼノの好物の一つでもあった。
「はぐッ……んーッ! おーいしー!」
「そ、そんなに美味しいの?」
「もちろんよ。この程よく炙られてパリッとした歯ごたえの皮は決して渋すぎない苦味を奏でているのよ。その向こう側にぎっしりと詰まった中身はまるで雲のようにふわっと口の中に蕩けて柔らかぁく広がって、ぎゅっと凝縮されてた甘味が文字通り空間を支配していくの。皮の優しい苦味がその甘味をさらに際立たせて全てが満たされていくのよ……もうか・ん・ぺ・き♪」
何とまぁ饒舌な事か。昨日の酒場での仕事中にも思ったが、どうも彼女には食べ物の味や見た目を妙に詩的に表現する癖があるらしい。
しかし――
「ね、ねぇ、ユニ?」
「なぁーにぃー?」
――本当に、美味しそうだ。
漂ってくる匂いだけでもとても絶妙な焼き加減である事が伝わってくる。これが何ともゼノの食欲をくすぐるのである。
その上で目の前でこんな風に堪能され、さらには味まで説明されれば。
食べてみたくなるのは至極自然な反応のはずだ。
「あのさ、僕にもひと「ヤだ」つちょーだって早くない!?」
最後まで言い切る前に凄まじいスピードで拒否された。もはや反応ですらなく、反射の域である。
「何であんたにあげなくちゃなんないの。これはあたしが買ったんだもん、全部あたしのに決まってるでしょ」
「いいじゃないか一つくらいくれたって」
「絶対にヤ」
「レベルアップしちゃったよ!? そ、そんなに山のようにあるんだからさぁ……」
「この宝の山はぜーんぶあたしのもの」
「たかが焼き芋が偉い高尚なもんになったな」
「何か言った?」
「何でもねぇ」
ユニは全く聞く耳を持たない。両手で抱える程の量なのだ、一つくらい分けてくれてもいいのに。
この間にも彼女は何度も焼き芋を口へと運んでは顔を綻ばせ、断面からは甘い匂いも広がっている。村で当たり前のように食べていたもののはずなのに、無性にかぶり付きたくて仕方がない。
「ねぇ、一口でいいからさー!」
「ヤーよ、欲しければ自分で買ってきたらいいでしょー!」
堪らず紙袋に伸ばした手をひらりとかわし、ユニは歩道へと躍り出る。追いすがるゼノをものともせずに身を翻す彼女はそのまま角へと至り――
「おい、走んなら前向い――」
「「あだッ!?」」
「――て走れって最後まで言わせろよ」
――盛大に跳ね返された。
ゼノまで巻き込んで倒れる中、手にした紙袋を死守した彼女の執念は驚くべきものがあった。
「いつつつ……ご、ごめんなさい」
少しばかり歩道に擦った肘をさすりつつ、ブツかった対象に謝罪する。目視はしなかったが当たった感触が人のそれであったから。
と、ここで。
ふと同じ事が前にもあったような既視感を覚えた。それも、過去などという程の昔ではないつい最近の出来事であったような。
そんな事をふわふわと考えるゼノの視界の片隅で、ブツかった人影がむくりと身体を起こす。
「く……どこを見て歩いて――」
人影はゼノの姿を見やり、そして。
「――またお前達か」
「達ってこたぁねぇだろ」
「間違ってはいないと思うが」
「そうかよ」
あ。と思わずゼノは声を挙げた。目の前に立ち上がった青年に見覚えがあった。
遡る事一週間前。アルトリアの街に到着したばかりの時にギルドへ向かうゼノが同じようにブツかった。
「"俺は坊主じゃない男"さん!」
「知ってるの、この人?」
「うん」
青年との出合いを説明すると、ユニは大きく溜め息を吐く。どれだけ人とブツかれば気がすむのと言われて申し訳ない気持ちで一杯になった。
「……どんな覚え方をしているんだ」
いやだって名前とか知らないし、などと言ってはいけない空気である事くらいはゼノにも容易に見てとれる。
「仕方ねぇだろ、お前の名前知らねぇんだから」
あ、言っちゃった。
気持ちを代弁されたゼノは思わず肩を強ばらせたが、しかし青年の反応は予想とは違った。
「……それもそうか」
納得して良いのかと心の中で呟いた自分はたぶんおかしくないと思う。
「お前だって俺達の事知らねぇだろう?」
「知らない? 何をバカな事を……"鬼人"セヴィル・バスクード」
「知ってるのか」
「あんたは有名だからな」
セヴィルが有名なのはどうやら本当の事らしい。
彼の名を聞いた時のユニもやたらと騒いでいたなぁなどと思い出したが、何しろゼノにはその実感がない。旅立つ前には、村の外の事は何も知らなかったのだから。
"鬼人"――セヴィル自身は単なる尾ひれだと言い続けているが――そんな異名が出回る程に彼は有名なのだそうだ。
何も知らない時に出逢ったが為、妙な違和感が拭えないゼノだった。
「で、お前の名前は?」
無意識に向けられたゼノの羨望の眼差しを払うように手をひらひらさせながら、セヴィルは改めて青年に尋ねた。
そんな聞き方をしたらまたお前なんて名前じゃないとでも言われるんじゃなかろうかと思うゼノだったが。
「……ケヴィン・ラザフォードだ」
意外にあっさりと青年――ケヴィンは名乗った。下手に食い下がるといつまでも坊主じゃない男と認識されてしまうとでも思ったのかもしれない。
改めて、ケヴィンと名乗った青年を眺める。
力強さを感じる、短く切り揃えられた黒髪。しかし遠目から見ると女性にも見紛いそうな整った顔立ち。体つきは羽織られた外套のせいではっきりとはしないが、実際にブツかってみた感じでは細く引き締められていた。少し大きなずだ袋を背負った姿が何ともしっくりくる。
ゼノにしてみれば"お兄さん"と呼ぶのが一番適している。年齢的にそこまで大きく離れてはいない気がした。少なくともセヴィル程の年齢ではないだろう。
何をされるか分かったものではないので口には出さないが。
「おい」
「はい?」
「お前の名は?」
あぁそうか。そういえば名乗っていなかった。
「ゼノです。ゼノ・シーリエ」
「そんなに聞きたいなら教えてあげるわ! 稀代の天才大魔法師ユニ・プラムスとは誰あろうあたしの――」
「ゼノだな」
「――事って聞けやぁッ!!」
そんな言い方をしたら誰も聞かないと思う。
「そろそろ時間だ。俺は行く。歩こうが走ろうが好きにすればいいが、次からは前を向いて歩け」
「は、はい、ごめんなさい」
改めて一例をし、顔を上げた時にはもうケヴィンは歩き去っていた。
「ったく……あんたのせいだからね」
「何で僕のせいなんだってあぁッ!?」
「な、何よ!? いきなり大声出さないでよ!」
「あぁ……」
思わずゼノが手を伸ばしたその先には。
山盛りになっていたはずの焼き芋が影も形もなくなっていた。
「いつの間に……」
「あんた達が話してる間」
やけに静かだったはずである。油断も隙もない。
「はぁぁぁぁ……」
しばらくの間空っぽになった紙袋を怨めしげに眺めた後、やがて諦めてとぼとぼと元来た道を戻り始めるのだった。




