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初恋物語

作者: 高梨いつき
掲載日:2014/06/02

ある日――俺は恋をした


普段なら絶対入らない人気のない駅の売店でハニカミながら笑うあの子を一目見て、心臓を鷲掴みされたようなとてつもなく苦しい、でも嫌じゃない不思議な感覚。


それからは、あの子に会えるのがとても楽しみで…


一週間に一度会えるかどうかなのだけれど、それでもあの子をどんどん好きになっていく。




ある日――俺はとてつもなく、心が荒れていた


14歳っていう多感な時期だからね、親とも上手く付き合えなくて唯一の誇りだった部活のエースも降ろされた。


自分には何もないなぁと、ぼやっとしていた時も救ってくれたのはあの子だった。




何もできなくてもいい、心が何度折れてもいい…最後に元気に歩き出してくれれば!それまでは、あたしはずっとそばにいるからっ!



夕焼けを後ろに、どちらが夕焼けかわからないくらい真っ赤な顔でさ、思わず笑ってしまって…


でもその言葉にさ…救われたんだ。もちろん言葉を聞いたくらいじゃ、現状打破はできなかったけど…だけどそれで最悪の間違いはしなかった。


その内に時間が解決してくれるものもあってさ…自分の思い描いていた『普通』に戻ることができたよ。




ある日――あの子は病に倒れた。



それを友達から聞いたとき、嘘だろって友達に掴み掛りたかった。

たしかに持病があるということは知っていたけど、まさか…そんなに悪くなるなんて…



学校が終わって急いであの子に会いに走った。

そうしたら、あの子は病院のベッドで健気に笑っているんだ。青白い顔で。


そんなに無理をしないで。お願いだから、無理を…しないで。




その夜、ケータイの画像であの子が笑っている顔を見て、何度も泣いたんだ。

悔しいけど、俺は何もできないんだ。



世界を作っている、神様に何度も手紙を書いてお願いをしたよ。


『あの子の病気を治してください。お願いだから殺さないでください』その手紙を毎週のように出しても、当然の如く神様からは返事は来ない。


当たり前だよね、こんな人間のちっぽけな願いに神様は構ってられない。





週一度しか会えない大切な時間―…


学校が終わって急いであの子に会いに行った。









そんな…

ある日――あの子は男と抱き合っていた。




なんでっ!どうしてっ!?込み上げてくる感情を抑えて俺は必死に状況を整理した。

あの子は、この男が元々好きだった。


そして男はあの子が倒れてから自分がいかにあの子が好きだったかをやっと思い知ったらしい。



俺は、それから家にすぐさま帰って…布団に包まって泣いた。もう卒業を間近にした学生が恥ずかしいくらいに。


日付を跨いだ頃、やっと涙が落ち着いた頃に芽生えたのはどうしようもなく醜い感情だった。



感情に任せて、あの子が写っているモノを全て引き裂いて引き裂いて…

部屋はぐちゃぐちゃになってしまってね…、夢だったらよかったのにって何度も思った。


そして来週からあの子に会うか迷ったよ。



それでもさ、やっぱり好きだったからさ…足が勝手に動いてしまうんだよね。




そしてあの子に会ったとき変わらない笑顔を向けてくれるんだ。


その笑顔を見て…なんか…もう…いいやって思った。それまでの汚い感情が消えていって…


あの子にとっては俺は何でもない存在だけれど、少なくとも俺にとってはあの子は大切な存在だから。

だから、あの男は腹立たしいけど、見守ることにした。



病気も治ってしばらくたった…



ある日――あの子は結婚した。





そのまま、男とゴールインってやつ。


腹立たしいけど、素直におめでとうって思ったよ。

だってさ、あの子のこと好きだって気づいたあの男のそれからの行動は間違いなく俺がするだろう選択でさ…

もう、文句なんて言えないじゃん?


そんな立派にあの子を守れるんだから…。




幸せになれよ―…そう思いながら、二人と別れた…




それ以来はもうあの二人の顔は見ていない。




顔を見て、また嫉妬なんてしてしまったら…かっこ悪いじゃないか…

いつも支えてくれたあの子を困らせたくないし…。 


なんかこう考えるとさ…あそこまで執着するように好きなったってことはあの子は俺にとって――…











「…初恋だったのかも」





一人、真剣に悩む俺を横目でちらっと見て、妻は適当に相槌を打った。



その後にどうでもいいような口ぶりで切り返してくる。



「まぁね、そこまで悩むのならそれは貴方にとっての大切な恋だったんじゃないの?初恋はどうかは私にはわからないけど。」



妻は自分の少女漫画を適当な袋に詰めて、玄関の扉の前に持っていき、パタパタと急ぎ足で戻ってきた。




「貴方の初恋もいいけどさ、今の恋も大事にして!妻にばっかり負担を掛けさせないで。自分の物は自分で整理してよ。残りの荷物少ないんだから!もう引っ越し間近だよ!」



ずいっと、口を曲げながらバケツと雑巾を乱暴に渡してくる。


仕方ないじゃないか、掃除は苦手なんだ。




「私、ちょっと古本屋にいってマンガ売ってくるから。残っている棚や押入れの中のの欲しい物は、段ボールに!要らないものは赤、青、緑のカラーボックスにいれてといて!あとで私が中古ショップにでも売ってくるから」



どうせ面倒くさがって分けてくれないから。3種類くらいには分けてよねと妻は嫌な視線を送りながら俺に訴えかける。



「手間だからマンガも中古ショップに売ればいいだろ。なんでわざわざ古本屋に?」



話題を逸らすように、俺は疑問を口にした。



「この辺だったら本はあの古本屋が一番買取値がいいからね。少しでも高い方がいいでしょ。そのための努力は惜しみません。」

それにせっかくのマイホームだもの。必要なもの以外は新しい物でスタートしたいの!」



「…そうだな。どうせまた…お前の少女マンガやらぬいぐるみで埋め尽くされるだろうけど。」


妻の眉毛がピクリと動いたが、あえて気に留めず、自室に戻り掃除を始める…








棚や押入れの掃除を始めると結構色んな物が出てきた。


押入れの古い物だと、幼いころによく遊んでいたふにゃふにゃの野球ボール、棚の新しい物だと陶芸品なんか。


陶芸品を集めていると自分と同い年の癖に老けていると何度笑われたことか。いいじゃないか、自分の趣味だ。

唯一妻だけは、さっぱりと趣味だからいいじゃないと許容してくれた人物だ。

…本当に色んな物が出てきて、懐かしんだりしながら確実に掃除は進んでいった。





そして、不意にでてきた、ソレは――…

ただ懐かしい思い出をくれるだけ。



「じゃあ、マンガ売ってくるから。掃除ちゃんと帰ってくるまでには終わらせてね。」


妻が、化粧をばっちり決め込んで出掛ける挨拶をしにきた。


ちょうどいいな。

俺は気を付けて行って来いと軽く挨拶をして、ついでにこれも売ってきてほしいと妻に頼んでみた。



「なに?週刊雑誌?しかもこの女の子…たしか…人気漫画のでしょ?たしか私たちが中学生の時の連載だから、10年以上前の?…こんなの引き取ってもらえるかもわかんないけど…。それに引き取られても1円とか5円じゃない?」




妻がまじまじとその雑誌を見つめる。


「いや…どんなに値段が低くてもいいんだ。ただ、人目に付く場所に置いてもらえれば」




そう言って半ば無理やり妻に雑誌を持たせて、送り出した。


どうしても、あれだけは捨てられなかったんだよな。

あれは、俺を支えてくれた笑顔であの子を好きになった瞬間だから。


でももう、持っていてはダメなんだ。いらないんだ。

今の俺を支えてくれているのはあの子じゃない。


「初恋かぁ…」


そういった感情を持つことはたとえ何であってもおかしいとは俺は思わない。


それが人生にいい意味でも悪い意味でも、強烈な色を付けてくれるだろうから。

だから、偶然の出会いでも誰かの人生に色がつくのなら―……


「さて、掃除しないと…」


きっと買取金額に不満を持つ顔をしながら帰ってくる妻をどうやって宥めるかを考えながら俺は掃除を再開した。


恋はどんなものであれ、素敵だと思います。

偶然に偶然が重なってその人の心に色がつくのならとても美しいことかと。

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