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スペードの世界 -1

~スペードの世界~


トランプのカード。クローバー、ハート、ダイア、そしてスペード。

スペードだけは意味を知っていた。

確か『騎士』だったはず。だから私はこの世界は中世のヨーロッパで、騎士がいっぱい出てくるのかと思っていた。理由はわからない。けれど、そんなイメージを持っていた。ひょっとしたら屈強な騎士と戦わないといけないのかも知れない。そんなイメージを持っていた。

けれど扉の向こうに待っていたのは、石畳の町並みだった。ただ、誰一人街にいなかった。

石畳の横にはレンガで造られた家が並んでいる。家の中は明かりがともっているし、人がいる気配がある。けれど、誰も街にいない。しかも、この街には店も露天売りもない。

いや、元々は店だったのかも知れない場所はある。けれど、そこは閉じられていた。そう、家の中から人の気配がする。けれど、人が生活する音が聞こえないんだ。耳を澄ましてみる。かすかに音が聞こえる。カタカタカタカタ。何かを書いている音だ。ペンがこすれる音が聞こえる。どこからともなく、聞こえてくる。私は近くにあった家のチャイムをならした。


「どうぞお入りください」


奥から声が聞こえてきた。私は部屋の奥に入っていった。部屋のおくには書斎があって、そこにテーブルに向かって何かを書いている女性がいた。女性は少し明るい茶色の髪。肩ぐらいの長さ。ボブ。大き目の目は少し猫みたいでかわいい感じ。左小指の王冠をイメージした指輪をしている女性がそこにいた。変わったペンをもっていた。ペンには甲冑をきた騎士が飾られていた。近くには猫がいた。彼女は猫が来るのを待っていて、なでていた。三毛猫。かわいい感じ。私はなんだか優しいその景色を見ていた。ボブの髪形の彼女が話しかけてきた。


「はじめまして、私は***です。あなたは?」


やはり、名前は音にもならず消えていった。私はこの消えていく音に慣れてきてしまった。

そして、このボブの髪型の女の子を見てびっくりした。そう、足が1本の木になっていたからだ。床にしっかりと根となっている。よく見たら足だけじゃない。腰あたりからすでに木になっているのがわかった。そう、下半身が木となって、根付いているんだ。この机の前で。

だから動けなかったんだ。私はその足を見ながら話した。


「私の名は、今は『アリス』よ。あなたの足はどうしたの?」


私は聞いてはいけなかったのかも知れないけれど、聞いてしまった。

だって、聞かずにはいられなかったから。でも、このボブの髪型の彼女が話したことはこの世界、スペードの世界を物語っていた。


「私の足は代償なの。ここはスペードの世界。騎士が治めている世界だったの。

 でも、誰かがある日こう言ったの。

『ペンは剣よりも強いんだって』

 そう、この言葉ですべてが変わってしまった。それまでこの世界を治めていた騎士はペンに負けたんだ。だから騎士はペンになったんだ。ほら、私の持っているペンも騎士がついているでしょ。そう、すべての騎士はペンに変えられて、このスペードの世界から剣がなくなったの。そして、このペンでこの不思議なノートに書いた内容はすべて現実のものになるの。そのかわり、この世界のルールとしてこノート紙に一回でも何かを書きこんだ人はその瞬間から木に束縛されてしまうの。ほら、私の下半身みたいに木になってしまうの。はじめは誰もこんな怪しい紙に何も書くなんてしなかった。そう、どれだけ書いても、書いてもこのなくならないノートは魅力的だったの。私はつい書いてしまった。このノートに。でも、意外と難しいのよ。たとえばおなかがすいたからカレーを食べたいとするじゃない。でも、そのカレーがどんなカレーなのかをきちんと説明をしないとそれはこのノートから出てくるカレーはただカレーっぽいものでしかないの。だから、ほとんどレシピなくらいかかないとおいしいものは食べられないの。でも、このペンを手にした人はこの自分で表現することが実現できることに魅入られていったの。だって、自分の表現がこのノートにわかりやすく伝わればそれはどんなリアルよりリアルなの。目を閉じたらどこにでもいける。それに私が書いた小説だって、リアルにキャラが動き出すのよ。それが何よりも楽しくて仕方がなかった。ねえ、アリスは何か書きたいと思わないの?」


私はこのボブの髪型の彼女の話しを聞きながら思っていた。確かにそそられる世界でもある。

自分が書く世界がそのまま現実になるなんて。でも、それって本当に幸せなんだろうか。

自分の望む世界、自分が書き表す世界。その世界ではすべてが自分の思うがまま、そう自分だけの世界だからだ。なんだかそんな世界飽きてしまいそう。私はボブの髪型の彼女に聞いてみた。


「その世界で退屈っておもったことはないの?」


ボブの髪型の彼女はこう言ってきた。


「ぜんぜん退屈じゃないわよ。だって、自分が書いたキャラが動き出すのよ。私の書いている小説で、***ってキャラがいるの。絶世の美女なんだけれど、ものすごく無愛想なの。誰にも心を開かないって感じなのね。んでも、すごい魔法使いなの。魔物は一撃で倒せちゃうの。でも、魔物しか倒せないのね。しかもこの***は男性でも女性でもないの。キレイな顔立ちをしているけれどね。んな***に一目ぼれをして旅についていくのが***なの。勇者っていわれて剣で魔物を戦っていく。そういう物語よ。

 今まで文字で書いていて、自分でもほかの人にもキャラを書いてもらったけれど、やっぱり書いた世界がそのまま動き出して、私はものすごく近くでその世界を見ている。退屈ってなったらそのキャラをいじめたりするの。心をなかなか開かない***に気持ちを言わせるようなことをさせたりとかね。また、会話に私が現れてみたり。全然退屈なんてしないわ。もう、このペンのおかげよ。でも、ペンもノートも私の分しかないからあげられないの。もし、興味があるのならば、私の家を出てまっすぐに行くと大きな館があるから。そこに騎士をペンにした名前はわからないけれど、人がいるから。私たちはその人を『スペードのエース』と言っているけれどね。エースにいうとペンはもらえるよ。ただし、エースはあなたを試すかも知れないけれどね。あなたが本当に私たちと同じ世界を望むのならば会いにいくといいよ」


そうボブの髪型をした彼女は言って、ノートに何かを書き始めた。もう、彼女の意識はここにはなかった。私はこの状況に似たのを「ハート」の世界で見てきていたから。体はここにあるけれど、心はすでに違うところにある。私はこの部屋を、この家を出た。家を出て左右を見たら、どちらの先にも大きな館があった。一体どっちに『エース』はいるんだろう。私は右側の大きな館に向かって歩いていった。


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