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クラブの世界 -2


目を覚ますとそこは森だった。私は一瞬何が起こったのかわからなかった。差し込む光が優しいことだけはわかった。どこからか声がする。


「**先生、人が倒れているよ」


子供の声がする。またあのにんじんを頑張って食べた男の子だ。ループする世界に戻ってしまったんだ。チェシャは言っていた。私にしか出来ないこと。私は考えていた。私に何が出来るっていうんだ。アリスと名をつけられたって私に出来ることなんて重いも付かない。私は考えていた。少しパーマがかかったショートヘアの可愛らしい女性がやってきた。優しい感じがする人。いや、良く見ると少し悲しい表情をしている。笑顔だけれど何かが引っかかっている。


「大丈夫ですか?あれ、***さんですよね?」


また、このセリフだ。まるで映画かゲームの世界みたいだ。同じセリフをいうように決められている。


「**先生、この人も一緒にご飯食べり?」


そう、このセリフも一緒だ。同じループする世界。

一体どうやったらこの世界が変えられるんだろう。私が何かをしてもしなくても同じように進んでいく。同じように。なら、まったく違うことをしてみたらどうなるんだろう。だって、私だけが違うことがこのループする世界で出来るんだから。


「その子の面倒御願いしてもいいかしら?」


そう、ピンクのエプロンの彼女に言われた。やっぱり彼女の表情が曇ってみえた。多分何かどこかで彼女もこの男の子も思っているだ。やってみよう。違うことになるように。でも、どこのタイミングでしたらいいんだろう。私は考えていた。男の子と手を繋ぎあのピンク色で出来た小屋に向かって歩いた。


「はい、みんな。今日のご飯はクリームシチューだよ」


ピンクのエプロンの彼女がそう言ってくる。


「ボク、今日にんじん食べたからもう、食べなくていい?」


男の子がそういった。そうだ、このこのシチューを見て私はこの子のシチューから先ににんじんを食べた。


「あ~いけないんだよ。他人の食べちゃ」


男の子がそう言った。前に言っていないセリフだ。ループしてない。私は少し笑顔になった。不思議とこの男の子も笑顔になったように見えた。その笑顔を見てなんだか私の中で思った。

私が昔見たアニメのキャラに似ているんだ。この笑顔が。でも、名前が思い出せない。私はうろ覚えで、声に出してみた。名前は声になるかどうかわからないから。

そっと、「キト」って読んでみた。

音になった。私がびっくりしているけれど、男の子はきょとんとしている。そしてこう言って来た。

「僕の名前は***だよ。お姉ちゃんは?」


そっか、そりゃ名前があるものね。でも、やっぱり男の子の名前は私には音にもなってくれなかった。私は貰った名前を言った。


「私は『アリス』よ。宜しくね」


私のそのセリフを聞いて、男の子は笑顔になった。そして言って来た。


「さっきの『キト』って『アリス』がつけてくれた名前なの?」


私はその男の子の笑顔に見てう頷いた。だって、満面の笑みだったから。その時、ピンクのエプロンの彼女は手をたたきながらこう言ってきた。


「はい、ケーキは明日食べるから、もうみんな寝ましょうね~」


確実にあのループから少しだけ変わった。男の子がこう言って来た。


「やっと僕はケーキが食べられるよ」


私はその言葉に笑い返した。少しだけ希望が見えたから。明かりが消えると猛烈にねむくなってきた。私はすぐにチェシャを呼んだ。ピンクのチャイナ服、猫耳のカッコで出てきた。

唯一違ったのは頭にリボンをつけていたことだった。ピンクのリボンだった。チェシャは笑いながらこう言って来た。


「世界をすくう手が見つかったんだね」


その笑顔を見て、私は間違っていなかったんだって思った。そして扉の方を向いた。そうそこにある闇が一つに固まって、黒いフードをかぶった死神が現れるからだ。


「チェシャ、力を貸して」


私は死神が現れる前にナイフを投げつけようと思った。チェシャの体はぐにゃってまがってナイフになった。今回は2本になった。


「アリスが頑張ったからだよ」


頭に直接チェシャが語りかけてくれる。私はあの死神が現れる場所に先にナイフを投げた。死神は形になる前に消えていった。


「やったね」


私は嬉しくてガッツポーズをした。その時チェシャが大きな意思で私に語りかけてきた。


「アリス、危ない」


私は風に吹き飛ばされた。そういえば、昨日もこの風で気絶したんだ。私は薄れ行く意識の中で風が来た方向を見た。そこにいたのは見たことある人だった。でも、思い出せない。チェシャが頭の中に話しかけてくる。


「ジョーカーの***だ」


私はその言葉だけを聞いて気を失った。目を覚ますとそこは森だった。ジョーカー。クラブ、ダイヤ、ハート、スペード。トランプの世界だとするのならば、ジョーカーはどこにでも現れることが出来る。私はこの森で呼ばれるのを待っていた。


「大丈夫ですか?あれ、***さんですよね?」


ピンクのエプロンの彼女が声をかけてきた。周りを見るとキトがいなかった。ああ、キトはこのループから抜け出したんだ。ということは一人でいるのかしら。私は不安になった。


「大丈夫ですか?***さん」


ピンクのエプロンの彼女が確認してくる。私は彼女に向かってこういった。


「私は『アリス』です。一緒に連れて行ってくれませんか?」


私はそう言って道中で子供にみんな名前をつけていった。みんな名前をつけられて笑顔になっていた。私はピンクのエプロンの彼女は引率をしていたから、話せなかった。

あのピンク色で出来た小屋について、クリームシチューをよそっている時に、ピンクのエプロンの彼女に近づいた。もう、彼女につける名前は決めている。私はつける名前で彼女を呼んだ。


「リリィさん、いいですか?」


ピンクのエプロンの彼女につける名前はこれしかないと思っていた。リリィはこっちを向いた。笑顔だった。


「ありがとう、アリス。私に名前をくれて」


リリィは笑顔になった。そして、私に向かってこう話してきた。


「私、今日しなきゃいけないことも明日に伸ばしてきたのかも。明日でもいいやって思いがあったのかもね。こんな風になって初めてわかった。ねぇ、アリスもあるの?今日しなきゃ、今しなきゃいけないのに、なんだか理由をつけて、するのを先延ばしにすることって」


私は耳が痛かった。そういうこといっぱいしてきていたかも。仕事でもプライベートでも。

そういうタイミングをつかめていなかったのかも知れない。私が答えなかったからリリィはこう言って来た。


「私たちのアリスですものね。そんなの解っているものね」


そう言ってリリィは立ち上がってこう言って来た。


「先に待っているから。また会いましょう。次は一緒にケーキが食べたいな」


そういうと、リリィもここにいた子供たち全員が一瞬で消えた。かわりにチェシャが出てきた。ピンクのチャイナ服にリボン。そして、真っ赤な傘と白い羽で出来た扇を持っていた。なんか現れるたびにいつもかわいいカッコでチェシャは出てくる。でも、それも嬉しかった。

きりっとした表情のチェシャがこう言って来た。


「アリス、ここからが本番だよ」


そうだ、これからジョーカーが出てくるからだ。


「チェシャ、お願い。力を貸して」


私はそういってチェシャに手を伸ばした。チェシャはゆっくり私の手を取って笑った。


「僕らのアリスが望むのなら、剣になり戦い、盾となってまもるよ」


そうチェシャは言ってナイフではなく、剣になった。


「これは?」


チェシャが頭に語りかけてくる。


「アリスがこのクラブの世界を開放したからだよ」


部屋の片隅に黒い闇が渦を巻いてきた。私は剣を一振りして闇を切り裂いた。

闇は瞬く間に消えていく。

びゅんって音がどこからかした。あの風が来る。私は身構えようとした。チェシャの声がする。


「僕を風に向けて」


私は言われるとおり剣を風が来るほうにむけた。その瞬間、剣は盾に変わって、風は私をよけていく。

剣になり、盾となる。

チェシャは本当に言ったとおりに守ってくれた。ジョーカーがこっちを向く。顔は仮面で隠れている。真っ白な仮面。口が上に向いて笑っている。それ以外は真っ黒だった。形すらきちんと成されていない。黒い塊の体に真っ白な仮面がそこにいた。

クスクスクス。

声が聞こえる。


「クラブの世界はアリスのものだ。すでにアリスの刻印が押されていては面白くない。私は別の世界に行くとするよ」


そういって、ジョーカーは消えていった。盾が消えてチェシャが出てきた。


「アリス、お疲れ様。これはアリスが頑張った証だよ」


そう言ってチェシャは真っ赤な靴を私にくれた。そういえば、チェシャとあったときから私ははだしだった。チェシャは私の足をキレイにふいて、靴を履かせてくれた。そのしぐさにドキッとした。まるで体全てが心臓になったみたいにドキドキしている。チェシャは私も見てにこっと笑った。


「さあ、アリス。クラブの世界の扉を開けておくれ」


そう言って、チェシャは扉の前にたった。このピンクの小屋の出口だ。私は、扉を力いっぱいあけた。


柔らかい風が吹く。世界は優しい黄金色になっていた。麦、稲色んな作物が育っている。

そういう野原が広がっていた。その横にリリィと子供たち、キトもいた。


「アリス、ありがとう。このクラブの世界を元に戻してくれて」


リリィが話してくれる。この優しい世界が好き。包まれるようで、母なる大地に感謝を込める世界が。


「アリス、また会いましょう。今度はゆっくりお茶とケーキを食べながらね」


リリィがそう言ってきた。私にはまだいかないといけない所がある。それに、私は呼ばれているからだ。キングにもクイーンにもジャックにも。そして、あの私をここに連れてきたシロウサギにも会わないといけない。それが解っている。なぜか解らないけれど、ここには留まれないって解ってしまっていた。


「チェシャ、行きましょう。扉を」


私はそう言った。今まで何もなかったところに扉が3つ現れた。


「じゃあ、また会おうね。みんな」


私はみんなに振り返って大きく手を振った。そして扉を選んだ。私はそう「ハート」の扉を開いたのだった。



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