19話 復讐
今回はアキラを刺した少年の話です。
彼はどうしてアキラを刺したのか?
カタキとはどういう事なのか?
僕の名前はジーク十歳、冒険者をやっている父さんがつけてくれた名前だ。
父さんの名前はトーレ、ギルドランクはC、剣が得意で仲間もいる。
父さんのパーティーは4人、剣士の父さん、斧使いでドワーフのギントさん、双剣と弓を使う獣人のケニーさん、パーティーメンバー唯一の女性で魔法使いのレレムさん、みんな良い人だ、お仕事が終われば僕達家族の家に来て遊んでくれたり、冒険の失敗の話とか父さんの恥ずかしい過去も話してくれる。
父さんは顔を真っ赤にして怒ったり恥ずかしがったりするけど、最後はみんなで笑っていた。
お母さんもそんなみんなの話を聞いて笑ったり、お酒をついだり、みんなが取ってきた獣の肉や魚を料理しながら楽しんでいた。
僕はこんな毎日がいつまでも続くと思っていた。
ある日の夕方、左腕と左目を無くしたケニーさんが一人で家の前に立っていた。
それを見たお母さんは、『ウソ!ウソよ!』と顔を手でおおい、その場で泣き声をあげ座ってしまった。
ケニーさんはただ『すまない』と言う言葉をずっと繰り返していた。
父さんは?ギントさんレレムさんは?僕はケニーさんに聞いた、だけどケニーさんは残った右目から涙を無くした左目からは血を流しながら、
「俺以外の仲間は死んじまった。すまないジーク、すまないイリーナ、本当にすまない」
僕は・・・なにも言えなかった。
泣きくずれている母さんを、ケニーさんと部屋に運びベットに寝かせ僕達はみんながいつも食事をとる部屋に二人で座っていた。
いつもは僕を含めた6人で食事をするテーブルとイス、せまいなぁっと思っていた場所が今は物凄く広く感じる。
ケニーさんは下を向いたまま黙っている。
いつもにぎやかなケニーさんが何も言わない、僕も聞くのが恐くて声をかけられない、そんな沈黙を中ケニーさんの小さな声が聞こえてきた。
「あの男は化け物だ」
あの男?誰の事だろう?父さん達は近くの村に出る盗賊の討伐に行ったはずなのに?
ケニーさんに聞こうと思ったけど何も教えてくれなかった。
その日はそのまま何も教えて貰えず、次の日の朝、ケニーさんはいなくなっていた。
テーブルの上にはお金がたくさん入った皮袋と、父さんがいつも腰に指していたナイフが置いてあった
その日から僕はギルドに顔を出していた。
父さんやギントさんレレムさんの仇を打つために、いつも父さんと話をしている受付のお姉さん、ローザに話を聞こうと思ったのに何も教えてはくれなかった、2週間ギルドに通ってわかったのは、父さん達は盗賊の討伐を終えた帰り際に襲われたこと、襲ったのは男で魔法使いだったこと、この二つだ。
それ以外何もわからなかった。
わからないまま日が過ぎていくなか、ギルドから家へ帰る僕の横を豪華な馬車が通りすぎる。普段みる商人の馬車より豪華、きっと貴族様の馬車だろうと無視をするとその馬車が急に止まった。
馬車の扉が開き、執事のおじいさんが降りてきた。
そのまま僕の前に来て、
「失礼、トーレ殿のご子息、ジーク様でいらっしゃいますか?」
頭を下げながら聞いてきた。
僕は何がおきているのかわからず頷く事しかできなかった。
「我が主、アムレート・フー・ブルホ伯爵様が貴方を探しておいでです。御一緒に来ていただけませんか?」
「伯爵様が僕に何の御用でしょうか?」
僕は何とか聞く事ができた。
「貴方の御父様が、此度の依頼で亡くなった事に関わることにございます。」
執事のおじいさんが言った言葉に、僕は頭が混乱する。
混乱している僕は手を引かれ馬車に乗り込む、
馬車は走りだし、伯爵が住む屋敷への道を走るその間、僕は下を向いたまま何も喋れず黙っていた。
馬車が一つの屋敷の前に止まる。
執事に手を引かれるまま馬車を降りる僕を迎えたのは、馬車から玄関への道の両脇に並ぶメイドとその先の玄関にいる豪華な服を着た貴族のおじさんだった。
「おぉ!そなたがトーレ殿の息子のジーク君か、良く来てくれた。私がアムレート・フー・ブルホ伯爵だ、さあ入ってくれ!」
迎えてくれた貴族の人は僕の手を取り、屋敷の中へ引っ張っていく。
屋敷の中は夢の世界だった。
綺麗な絨毯に僕が寝ても余裕なソファー、ベットなんか僕の家の五倍はある。
そんな部屋を通りすぎ、着いたのは本が一杯並んだ本棚と真ん中に大きな机があり、その机の前にはテーブルを真ん中にソファーが挟むように置いてある。
アムレート・フー・ブルホ伯爵と名乗った貴族の人はその片方に僕を座らせもう一つの方に腰をかけた。
「トーレ殿の事は聞いている、すまなかった私が悪いのだ」
アムレート様は僕に頭を下げた。貴族が平民の僕に頭を下げた。
「トーレ殿の息子の君には話しておかねばならないと思い今日お越しいただいた」
アムレートが手を叩くとメイドがワゴンに紅茶とお菓子を載せ運んできて僕の前に並べた。
「混乱していると思うが、落ち着いて聞いて欲しい」
アムレート伯爵の話の内容はこうだった。
今回の父さん達の本当の依頼は、盗賊の討伐では無く、賞金首の捕縛だった。
依頼を出したのは目の前にいるアムレート伯爵、数年前、領地に住む兄が何者かに殺された。アムレート伯爵は殺した男を探していて先日ついにその男は見つかり私兵を捕縛に10人行かせたが返り討ちにあってしまった。生き残った者の話によればその男は雷の魔法を自分たちに放ってきたらしい。
「我が兄を殺した男は姿を変えていろんな国を放浪するらしい、そして今はこの王都にいる。」
「王都にいる。」その言葉に僕のお腹の辺りで何かが荒れ狂う。
「その男は今どこですか?教えて下さい。僕は父さん達の仇をとらなきゃいけないんです」
僕はテーブルの上の物をひっくり返す勢いで伯爵に向かい身を乗り出した。
そんな僕を見た伯爵は頭を降り、
「君には無理だ、相手は君の父親や仲間、私の私兵を殺せるレベルの男だぞ」
「死んでもかまいません、僕は絶対に父さん達の仇をとるんだ!」
伯爵はそんな僕を見てまた手を叩く、すると先程僕をこの屋敷に連れてきた執事を呼び出した。
「セバスチャン、ジーク殿の為にあれを持ってこい『しかし!』今すぐだ、口答えは許さん」
セバスチャンと呼ばれた執事は頭をさげ一度部屋を出て数分後、部屋に戻ったセバスチャンの手に黒いフードつきの外套と同じく黒い指輪があった。
「ジーク君、いやジーク殿この外套は陰者外套と言う魔具で気配を絶つ効力を持つ、誰かに触れない限りは気がつかれる事は無い」
ジークの前に陰者の外套が置かれる、次に伯爵の手の上に指輪があり、
「これは秘匿の指輪、姿を消す魔具で外套と同じく他人に接触しない限りジーク殿の姿が見える事は無い」
指輪を渡されはめるが僕の指には大きすぎた。
「指輪は指にはめ握ってみなさい、そうすれば効力を発揮するはだ!」
言われた通りに試すと、ジークの姿が伯爵達の前から消える。
伯爵はジークのいた場所をジッとみるがセバスチャンはジーク探してキョロキョロする。
「これはすごいです!これなら父さん達の仇を取れます・・・だけど良いのですか?」
ジークはこんなすごい物を貰って良いのかわからなかったが伯爵は、
「もう一着ある、ジーク殿は父上とその仲間の仇を、私は兄の仇を、同じく仇を撃とうとする同士ではないか、協力は惜しまん。」
伯爵の言葉に涙を流し頭を下げる。
「男のいる所を掴むにはもう少しかかる、わかったらジーク殿の家に伝える、それまで待っていてくれ」
伯爵の言葉に、
「わかりました。」
ジークの返事に笑顔で頷き『部屋を用意させるので泊まっていきなさい』と言ったがジークは母さんが心配なのでと帰る事にした。
「ではジーク殿、お気をつけて」
玄関でセバスチャンに見送られ用意された馬車に乗り家路につくジーク。
ジークを見送ったセバスチャンは伯爵の元へ行き、
「あの用な子供にやらせて大丈夫でしょうか?」
伯爵に聞く、聞かれた伯爵は笑顔になり、
「子供だから良いのだ、あの小僧も油断するであろうし失敗しても直ぐに始末すればよい。」
さっきまでとは全く違う雰囲気の伯爵にセバスチャンは頭をさげ、
「ではその用に準備を整えます。」
部屋を出て行くセバスチャン、
「あの小僧・・・アキラと言ったか?貴様にダークエルフの奴隷など勿体ない、ワシが使ってやるからさっさと死んでくれ」
この男、アムレート・フー・ブルホの真の狙いはアキラの命では無く側にいるアルメア達だった。
領地から王都の屋敷へ向かう途中、奴隷の首輪を着けたアルメア達がアキラの後ろを着いていくのを見てセバスチャンに調べさせた。
そしてアルメア達が奴隷とわかると何としてもてに入れたくなりその方法考え情報を集めていた時、父親を殺されその情報を得ようとギルドに出入りする少年ジークの事を知る。
そしてジークを呼び出し話をでっち上げアキラを仇と思わせ殺させる。
成功しても失敗しても少年を回収し殺してしまえば問題無い、それを今正に実行に移すとき。アムレート伯爵の頭の中はてに入れたアルメア達をどうするか?という邪な思考が埋め尽くしていた。
数日後、ジークのところに伯爵から使いの者が来た。
表向きはトーレに対する報酬の支払いに、実際は情報をジークに伝えるためだ。
使いの者はジークの家に入ると、
「ジーク様、伯爵からの伝言をお伝えいたします」
伯爵からの情報は、
ジークの父親と伯爵の兄を殺した男は、今の名前をアキラと名乗っている事。
現在はギルドに登録し、Sランクの冒険者であること。
ダークエルフの奴隷を4人つれ、魔獣フェンリルを2匹使役している事。
今日、ギルドに顔を出すこと。
その4つが伝えられた。
「伯爵様にお伝え下さい・・・必ず仇を撃つと」
使いの者は、ジークに頭をさげ、
「ジーク様、御武運を」
家を出ていった。
ジークは伯爵から貰った外套と指輪、父親の形見となったナイフを持ち、ギルドに急いだ。
ギルドの隣の建物の影に入り、外套を纏い指輪を握り姿を消してアキラを待つ。
そして伯爵の情報にあった4人のダークエルフの奴隷と2匹の魔獣をつれた男がギルドに入っていく。
「見つけた!」
父親やギント・レレムの事を思いだし、協力してくれた伯爵の殺された兄の話を思いだし怒りにうち震えるジーク。
しばらくしてアキラがギルドから出てくる。
その瞬間、建物の影からアキラに向かい走りだし父親のナイフを両手でしっかりと握りしめつき出す。
次の瞬間、ナイフが刺さる感触とともにナイフを握っていた自分の両手がアキラの血に染まる。
ナイフを抜き、血に染まるアキラが倒れたのを見て自分が目的を果たした事を知る。
そして、伯爵から伝えられたこの男の二つ名を言いながら、
「父さんのカタキだ・・・死ね『雷神』」
倒れているアキラを見下ろし、目的を果たした筈のジークに満足感は全く無い、目から頬を伝い顎から落ちる涙だけがジークの感情をわかっていた。




