17話 どうしてこうなった?
アルメア達の誓いの神言を受けてから二週間、俺は地道に依頼を受け、ギルドのランクを上げていた。
皆様こんにちは、アキラです。
すいませんが、今大変忙しいのでこの辺で・・・何故って?今、俺達の目の前には、涎を大量に垂らしたドラゴンがいるからであります。
「何でこの森にフリーズドラコンが!アキラ様、ゆっくりとさがってください」
アルメアの緊張した声が聞こえる。
俺達の目の前に現れたのは、ドラゴン、大きさは15メートル位か?蒼い鱗、人を簡単に噛み砕けそうな牙、手には人など簡単に引き裂けそうな鋭い爪、背中には翼があり逃げても直ぐに追い付かれそうだ。西洋タイプのドラゴンが涎をダラダラ垂らして俺達を見ている。
どうしてこうなった?
今日の行動をおさらいしてみよう。
朝起きて、食堂でジーナさんやアルメア達と話ながら朝食を食べる。
朝食が終わったので、ギルドで依頼を受ける為準備をして森のサムソン亭を出る。
ギルドについてローザさんがいたのでランクをアップするための依頼を受ける。
最初の五日間でGからFへランクを上げた、Gクラスの依頼は街中での雑用がほとんどだったから直ぐに上がった。
Fランクは採取・低ランク魔獣の討伐だったので、これも終わらせた。
今日はFランクからEランクへのランクアップの依頼を受けに来ていた。
「はい、アキラ君のEランクへのランクアップの依頼は・・・これね『コトス森でゴブリンの討伐と薬草採取』報酬は銀貨二枚」
街から西にあるコトス森、薬草や毒草、低ランク魔獣がいる正に初心者の森。そこでの討伐と採取っていう簡単な依頼だったはずなのに。
「アキラ様、このドラゴンは『フリーズドラコン』S級の魔獣です」
ゆっくりと下がりながらアルメアは説明してくれたけど、
「逃げる事は可能か?」
「誰かが囮になれば可能かと」
囮になればか、却下だな・・・しょうがない、殺るか、
「誰かが囮になる策は却下な、俺が殺るからアルメア達は下がれ」
俺の言葉に驚くアルメア達、
「一人では無理です!全員で戦えば『下がれ!』・・・嫌です」
えっ?ここは言うこと聞いて下がるところじゃないのか?
アルメアの返答に驚く俺を見て、
「私達はあの夜誓いの神言を立てました。如何なる時も、私達はアキラ様と一緒にいます。」
後ろにいた3人も頷く、
シリアスな場面なのだが、アキラはアルメア達とは違う思考の中にいた。
「あのな、全力で魔力使うから巻き込まれないように下がって欲しいんだけど?」
アキラの返事にえっ?っと言う顔をする4人、
「あの・・・『俺が決死の覚悟で戦うから、お前らはその間に逃げろ』という事では?」
「全然無いな、初めて強い魔力使うから巻き込まない自信がないっと言う意味だったんだけど」
お互いの思考の違いに頭に?を浮かべている。
「あの、アキラ様はコレに勝てるのですか?」
「それをこれから試すんだよ、だから下がって欲しいんだけど?」
ドラゴンの前で変な雰囲気になる一同、アルメアは少し考えた後、
「とりあえず、わかりました。お気をつけて」
何かを思い出し、理解したようだ。
「おう!4人とも巻き込まれるなよ」
アキラは一歩前に出る。
フリーズドラコンは、自分が食べようと近づいた小さな物が、恐怖で固まるのではなく、向かって来ようとする事に少し不思議がるも、空腹の為食べようと襲いかかる。
「メイ、メル、メラ、とりあえず離れるわよ、ついてきなさい」
アルメアはアキラに背中を向け走り出す。
三姉妹は一度アキラを見るが、アルメアについて走り出した。
「さて、とりあえず5割の魔力解放で行ってみるかな!」
アキラは体内の魔力を体に循環させ、5割の魔力を解放する。
「GYAOOOOOOOOOOOOON!」
ドラコンの咆哮が森にこだまし、声を聞いたゴブリンや動物が一目散に逃げ出すが、アキラは全く微動だにしていない、
「うるさい!・・・《穿て・・・炎の矢》」
アキラは右手をドラゴンに向け、火の魔法で造った矢を十本ドラコンの顔に向かって放った。
十本の炎の矢はフリーズドラゴン当たるが鱗に小さな傷をつけただけで弾かれてしまう。
「マジ!5割の魔力ではダメか」
フリーズドラゴンは、炎の矢を放ってきたアキラを玩具を与えられた子供のように見ていた。
「何だコイツ?」
アキラに向かい口を大きく開け、お返しとばかりに氷の塊を打ち出す。
「うぉ!あぶな・・・このトカゲめ笑ってやがる」
氷の塊をアキラに打ち出したフリーズドラゴンは、『どうだ!』とばかりに口の端をあげる。
「舐めやがって・・・なら8割だ!」
アキラは更に魔力を解放する。
「これならどうだ!《集え雷・・・雷槍》」
アキラは右手に雷の槍を作り出しフリーズドラゴンに投げる。
フリーズドラゴンはアキラの投げようとしている雷の槍を危険と判断したのか、口を開け先程の氷の塊より大きな塊を作りだす。
「上等だ!俺の雷槍とお前の氷、どちらが強いか勝負だ!」
アキラはハイテンションになり、8割の魔力を込めた槍が更に大きく荒々しく放電をはじめる。
そして、アキラの雷槍とフリーズドラゴンの氷の塊が同時に放たれた。
結果・・・アキラの雷槍はフリーズドラゴンの氷の塊を貫き、氷の塊を破壊した雷槍はフリーズドラゴンの胸を貫き絶命・・・してなかった。
アキラの雷槍は、フリーズドラゴンの前に現れた分厚い水と氷の壁に阻まれていた
「アキラ、その子を殺しちゃダメよ!」
声のする方を見ると、ナルとルカがいた。
「イーサ、起きる!」
アキラの雷槍を阻んだ水を操り、フリーズドラゴンにぶっかけるルカ、
「ブワァ~!何するのルカちゃん・・・あれ?ここどこ?何でナルちゃんとルカちゃんがいるの?」
ルカに水をかけられたフリーズドラゴンは顔をふり、水をはらう・・・今、喋ったよね?
「私、何でここにいるの?夢の中で森に行って、御飯を食べてて、行きなり現れた強い人間と楽しく戦ってたのに起こす何て、ルカちゃん酷い!」
ルカに文句を言い出すフリーズドラゴン、今夢と言いましたか?
「イーサ、それは夢じゃない、ここはイーサの家じゃない、それに強い人間は夢じゃなくて本物」
ルカに言われ回りを再確認するフリーズドラゴン、
「本当だ!じゃあさっきの雷を使った人間は?」
回りをキョロキョロしてるよ。
「もう、シャキッとしなさい!目の前にいるでしょうが」
今度は頭にナルの氷を落とされる。
「ナルちゃんまで酷いよ、地味に痛いんだからね。」
少し涙ぐむが、氷を頭に落とされ目線が下がり俺を認識したようだ。
「さっきの強い人間だ!」
(やっとかよ!)
俺は心の中で叫びつつ、冷静に声をかける。
「えっと、ナルとルカの友達って事で良いのか?」
俺に頭を下げるフリーズドラゴン、
「こんにちは、フリーズドラゴンのイーサです。ナルちゃんとルカちゃんとは幼なじみです」
「そうか、よろしくなイーサさん俺はアキラだ」
挨拶をされたので返しながらナルとルカの方を見ると、
「この子昔からこうなの」
ナルが言えば、
「イーサは寝起きが悪い、いつも起こすのは私」
ルカは溜め息をついていた。
そっかぁ、寝起きが悪いのかぁ、それじゃあしょうがないよね・・・じゃねぇ~~~~~~~~~~!?
寝起きが悪いってどんだけだよ、俺は寝起きイーサと戦ったてたのか。
ナルとルカに聞けば、イーサは北の山脈にあるドラゴン達の隠れ谷に住んでいる。ナルとルカの母親ルーティンが隠れ谷の長と親交があり、小さい頃はよく遊びに行ってたらしく、イーサとの出合いもその時らしい。
「でも最近二人とも遊びに来てくれないから、もう暇で暇で寝てばかりだよ。」
イーサの言ったことに、
「「昔から寝てばかりでしょ!」」
ナルとルカに突っ込まれたが、テヘっと舌を出し誤魔化した。
「あんた昔から寝てばかりで、起きたと思ったらどっかへフラフラ飛んで行って、なかなか帰らないから毎回探しに行って連れ戻してたのは誰だと思ってるのかな?」
ナルが怒りをあらわにすれば、
「うん、ドラゴンの隠れ谷の思いではイーサの追跡の歴史・・・大変だった」
ルカは何を思い出したのか遠い目をしてる。
「エ~~~ン!二人とも許して」
泣きながら許しをこうイーサ、
「「その台詞も何度めかな?」」
更に詰め寄られナルとルカの説教を受けるイーサ、そんな3人、3頭?を後ろから見ていると、
「アキラ様、この状況はいったい?」
アルメア達が戻ってきた。
大きな魔力のぶつかり合いが消えたので、アキラの無事を確認するため戻ってきたらしい。
「どうやらあのドラゴンは、ナルとルカの友達だったみたいだ」
俺の側により怪我を確認するアルメア、神獣フェンリルとフリーズドラゴンの会話、今はお説教が珍しいのか、三姉妹は俺の怪我を気にしながらも聞き耳を立てている。
・・・30分後・・・
イーサにたっぷりお説教をしたナルとルカが、スッキリした顔でこちらに歩いてきた。
「お待たせ、イーサは隠れ谷に帰すわ」
スッキリ顔のナルがイーサを谷に帰すと言うと、
「うん、イーサは谷に戻るべき」
同じくスッキリ顔のルカが肯定する。
その後ろから、
「この度はグス、アキラさんに迷惑をかけてグス、本当すいませんグス」
ナルとルカの説教が相当に答えたのか涙を流し鼻を啜りながら謝ってきた。
「気にしないでくれ、それよりも気をつけて帰れよ」
俺の返答に再度頭を下げ、翼を大きく広げ飛び立った。
俺達はその姿が見えなくなるまで見送った。
「さて、街に帰るか」
アキラの一言に『はい!』っと返事をする皆を見て無事で何より、っと安心し街に向かい歩き出したがアルメアが何かに気がついた。
「あのアキラ様、ランクアップの依頼はどうしますか?」
固まる俺、
「忘れてたぁ~~~~~~~~~~!」
その後急いでゴブリンを探すがイーサの最初の咆哮を聞き、森の中にはゴブリンは既に逃げ出した後、もちろん見つかるわけはない。
そして俺は、依頼失敗・ランクアップは無し
俺は依頼失敗ランクアップ失敗の二つを引きずり部屋の中にこもった。
後日、森のサムソン亭の2階廊下には、
「イーサが悪いんだ、イーサが悪いんだ・・・」
そんな呪いのような言葉が夜な夜な2階廊下に響いていた