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奇譚類聚

瓢箪の牛

作者: 傘竹掛手

 軒先に吊るしてゐる瓢箪の口から牛の首がによつきりと生えてゐる。私は(おし)のように口をぼんやりと開け床の中からそれを見上げてゐる。瓢箪のとなりに吊るしてある風鈴が風に煽られ涼やかな音を立てる。風鈴が鳴ると牛はモウと云ふ。何処かとおくからぽつぺんを鳴らす音が聞こえる。牛はまたモウと云ふ。あんまり煩ひので瓢箪を軒先から外す。庭に埋めてさて此れで静かになつたらうと軒先を見るとまた瓢箪が下がつてゐる。牛はモウと云ふ。また外す。埋める。見上げる。下がってゐる。モウと云ふ。外す。埋める。チリン。モウ。私は諦めて床に入り直す。暫く微睡む。  …大根。卸売の訛声(だみごえ)で目が覚める。軒先には瓢箪が相も変わらず下がってゐる。牛は啼かない。…大根だよ。卸売が門の前で呼ぶ。入り用で無いかね。今日なら人参も在る。売切れ御免、買うなら今日だ…。私はじつと目を瞑って床から動かない。大根だよ。卸売りがまた呼ぶ。大根を二本下さらない。それと人参を一本。門の向こうで女の声がする。毎度有。卸売りの声が遠去かっていく。風鈴が鳴る。牛はモウと云ふ。チリン。モウ。チリン。モウ。ぽつぺん。モウ。二輪馬車の轍音。モウ。チリン。モウ。嗚呼鬱陶しい。私は布団を撥ね上げると軒先に揺れる瓢箪を掴み、縁側から庭へと投げ捨てた。瓢箪は岩に当たり乾ひた音を立てて割れる。もう軒先には戻つて来れまい。私は満足して床に入る。目を瞑って布団を被り………不意に異の腑が捩れたかと思うと咽喉の奥から何か巨大なものが飛び出した。私の手は水差を探し畳を彷徨う。不意に風鈴が鳴る。私の臓腑を裏返し飛び出した「其れ」は、満足気にモウ、と啼いた。





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