理解はしていない
8/11内容を微修正、大筋は変更なし。
「なんであんな小僧がいきなり三つ星に上がるんだよ!
おかしいじゃねぇか!」
王都冒険者組合の窓口で、そう受付嬢に食って掛かるこの男は、
一つ星で下級冒険者のナーボ。十九歳の手槍使いである。
苛立つ心情は理解出来なくもない。ナーボの前に並んでいた少年は、
ほんのさっきまで冒険者見習いだったのだ。しかもまだ九歳。
十も年下の子供が、あっさり自分を追い越し中級冒険者になったのだ。
自分は一つ星で足踏みしているというのに。
受付嬢は冷静に返す。
「ロドさんは見習い時代に数多くの実績がありました。
採集だけでも百件は完了で、充分二つ星相当の実績をお持ちですが、
偶発遭遇で駆除した害獣や魔獣も既に三十件以上です。
ゴブリンの集団やバイコーンの群れなども単独駆除の実績があります。
貢献度を踏まえれば、もう五つ星でもおかしくありませんが、
危険な依頼受注は十二歳以上から、の原則で三つ星に留まります」
説明を聞いたところで、この苛立ちは収まらない。
ナーボは、既に手続きも終えて冒険者組合を去った少年を思い返す。
黒髪黒目で目立ったところのない、全く強そうには見えない奴だった。
体格だって九歳相当だろう。腕も足も細っこい。正直信じられない。
貢献度なら五つ星だと?中級どころか上級冒険者じゃねぇか!
ドワーフなら小さくてもまあ分かる。だけどあいつは人間だろうに。
絶対あの小僧は、何かせこい手を使っているに違いない。
例えば、他人が倒した獲物をズルして横取りしていた、とか。
◆
次に顔を見たら、あのロドとか言う小僧を問い詰めてやろう、と、
ナーボは彼にしては珍しく連日のように冒険者組合へ顔を出していた。
仮に問い詰めても何か変わる訳はないのだが、そう思い込んでいた。
そもそもナーボは、怠け癖もあって期限ギリギリにしか仕事をしない。
一か月に一度、それも仕事振りはあちこち粗の目立つものだったから、
冒険者組合からも依頼主からも、決して評判が高いものではなかった。
それでも冒険者資格を失効していないのは、ただの幸運でしかない。
実家が人気の食堂だったせいで、衣食住は何とかなっていたのである。
ナーボは冒険者資格の失効期限を碌に覚えていなかった。
上位になればなるほど、期限は伸びていくのである。三つ星なら半年。
一つ星の自分は期限一か月なので、まだかまだかと待ち構えていたが、
見かけた頃から早いものでもうすぐ一か月過ぎようとしていた。
もはや自分の期限が危うい。依頼を受けないと。
◆
少し迷った挙句、ナーボは冒険者組合で獲物解体の依頼を受けた。
かつて嫌々ながら実家で獣肉の捌き方は叩き込まれていたため、
本人にとっては楽と思える仕事なのである。処理は雑であったが。
組合裏に回り、運び込まれた獲物を捌く。
多くはシカやらオオカミやらだが、時にはかなりの大物が混ざる。
今回は、ナーボも初めて目にしたオーガだった。全部で四頭。
四頭とも、首を一撃で刎ねられている。それ以外は全部古傷だ。
つまりこいつらは、まともに相手と戦う間もなく倒されたという事。
人間よりも倍近く大きい、オーガの首をどうすれば刎ねられるのか。
余程の大剣や大斧の達人か、あるいは名のある魔術師か。
すごい奴がいるな、などと考えながら数人がかりでオーガを捌く。
オーガは肉こそ使えないが、骨も皮も内臓も使いみちが多い。
倒した奴は、一頭だけでもひと財産の収入があるだろう。
羨ましいもんだ。
◆
獲物の解体は、神経を使う上に肉体労働なので、かなり疲労する。
ナーボも初めてのオーガの解体に、完了後は疲れ果てていた。
獲物が獲物なだけに数人がかりでナーボも手は抜けなかったため、
報酬を受け取ったらさっさと引き上げ、とにかく休みたかった。
「偶発遭遇での駆除報酬として、オーガ四頭大金貨八枚です。
素材は骨以外売却との事でしたので、そちらは大金貨四十枚。
合計で大金貨四十八枚がロドさんの口座に振り込まれます」
なんだと!あの小僧が仕留めた?嘘だ!どうやって?
窓口から聞こえた受付嬢の言葉に、ナーボは耳を疑った。
それまでナーボは腕さえ上がりそうにないぐらい疲れていたが、
思わず受付の方に目を向ける。壁板に隔てられて見えないが。
「ありがとうございます」
あの小僧の声だ。一度しか聞いていないが間違いない。
どんなイカサマをやりやがった!と怒鳴り声をあげそうになるが、
そこでふとナーボは気づいた。
オーガ四頭、どうやって持ってきた…?急速に興奮が冷めていく。
あの巨体ゆえ、オーガはクマなどよりかなり重たい。それが四頭。
どう考えたってイカサマでどうにか出来る重量じゃあない。
何人も仲間がいたのなら、そいつらにも報酬は分配されるだろう。
あの重量、持って帰るなら最低でも一頭で十人位は必要なはず。
だが報酬があの小僧の口座に全額振り込まれるらしいって事は、
たった一人で倒して運んだことになる。そんな事がありえるのか?
「上手く仕掛けた罠が作動してくれたようです。
あと何か所か別の場所にも仕掛けてありますから、
かかったらまたよろしくお願いしますね」
罠…?そうか!オーガは罠で仕留めたのか!
どんな罠かは分からないが、ナーボもそれなら理解が出来た。
正面切って戦ったんじゃないなら、そりゃ小僧でも倒せるわな。
せこいっちゃあせこいが、横取りとかじゃあないのか。
ナーボの苛立ちはやや落ち着いた。
そうだ、オレも罠を仕掛ければ楽して大儲け出来るんじゃないか?
帰宅して落ち着いた後に、ナーボはそう考える。
ナーボはこの時点でまだ理解をしていない。
シカやイノシシ相手程度の罠で、オーガなど仕留められない事を。
オーガ四頭をどうやって運んだのか、未だ分かっていない事を。
ちなみに大型生物の丈夫な骨を加工した特殊断頭器を使用。ゴブリン用から大幅強化済み。
運搬方法は《障壁》を担架代わりに横にして運んでいます。




