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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ここはなにかが欠けている

理解はしていない

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/10

8/11内容を微修正、大筋は変更なし。

「なんであんな小僧がいきなり三つ星に上がるんだよ!

 おかしいじゃねぇか!」


王都冒険者組合の窓口で、そう受付嬢に食って掛かるこの男は、

一つ星で下級冒険者のナーボ。十九歳の手槍使いである。


苛立つ心情は理解出来なくもない。ナーボの前に並んでいた少年は、

ほんのさっきまで冒険者見習いだったのだ。しかもまだ九歳。

十も年下の子供が、あっさり自分を追い越し中級冒険者になったのだ。

自分は一つ星で足踏みしているというのに。


受付嬢は冷静に返す。


「ロドさんは見習い時代に数多くの実績がありました。


 採集だけでも百件は完了で、充分二つ星相当の実績をお持ちですが、

 偶発遭遇で駆除した害獣や魔獣も既に三十件以上です。

 ゴブリンの集団やバイコーンの群れなども単独駆除の実績があります。


 貢献度を踏まえれば、もう五つ星でもおかしくありませんが、

 危険な依頼受注は十二歳以上から、の原則で三つ星に留まります」


説明を聞いたところで、この苛立ちは収まらない。

ナーボは、既に手続きも終えて冒険者組合を去った少年を思い返す。

黒髪黒目で目立ったところのない、全く強そうには見えない奴だった。

体格だって九歳相当だろう。腕も足も細っこい。正直信じられない。

貢献度なら五つ星だと?中級どころか上級冒険者じゃねぇか!

ドワーフなら小さくてもまあ分かる。だけどあいつは人間だろうに。

絶対あの小僧は、何かせこい手を使っているに違いない。


例えば、他人が倒した獲物をズルして横取りしていた、とか。



次に顔を見たら、あのロドとか言う小僧を問い詰めてやろう、と、

ナーボは彼にしては珍しく連日のように冒険者組合へ顔を出していた。

仮に問い詰めても何か変わる訳はないのだが、そう思い込んでいた。


そもそもナーボは、怠け癖もあって期限ギリギリにしか仕事をしない。

一か月に一度、それも仕事振りはあちこち粗の目立つものだったから、

冒険者組合からも依頼主からも、決して評判が高いものではなかった。


それでも冒険者資格を失効していないのは、ただの幸運でしかない。

実家が人気の食堂だったせいで、衣食住は何とかなっていたのである。


ナーボは冒険者資格の失効期限を碌に覚えていなかった。

上位になればなるほど、期限は伸びていくのである。三つ星なら半年。

一つ星の自分は期限一か月なので、まだかまだかと待ち構えていたが、

見かけた頃から早いものでもうすぐ一か月過ぎようとしていた。

もはや自分の期限が危うい。依頼を受けないと。



少し迷った挙句、ナーボは冒険者組合で獲物解体の依頼を受けた。

かつて嫌々ながら実家で獣肉の捌き方は叩き込まれていたため、

本人にとっては楽と思える仕事なのである。処理は雑であったが。


組合裏に回り、運び込まれた獲物を捌く。

多くはシカやらオオカミやらだが、時にはかなりの大物が混ざる。

今回は、ナーボも初めて目にしたオーガだった。全部で四頭。

四頭とも、首を一撃で刎ねられている。それ以外は全部古傷だ。


つまりこいつらは、まともに相手と戦う間もなく倒されたという事。

人間よりも倍近く大きい、オーガの首をどうすれば刎ねられるのか。

余程の大剣や大斧の達人か、あるいは名のある魔術師か。


すごい奴がいるな、などと考えながら数人がかりでオーガを捌く。

オーガは肉こそ使えないが、骨も皮も内臓も使いみちが多い。

倒した奴は、一頭だけでもひと財産の収入があるだろう。

羨ましいもんだ。



獲物の解体は、神経を使う上に肉体労働なので、かなり疲労する。

ナーボも初めてのオーガの解体に、完了後は疲れ果てていた。

獲物が獲物なだけに数人がかりでナーボも手は抜けなかったため、

報酬を受け取ったらさっさと引き上げ、とにかく休みたかった。


「偶発遭遇での駆除報酬として、オーガ四頭大金貨八枚です。

 素材は骨以外売却との事でしたので、そちらは大金貨四十枚。

 合計で大金貨四十八枚がロドさんの口座に振り込まれます」


なんだと!あの小僧が仕留めた?嘘だ!どうやって?

窓口から聞こえた受付嬢の言葉に、ナーボは耳を疑った。

それまでナーボは腕さえ上がりそうにないぐらい疲れていたが、

思わず受付の方に目を向ける。壁板に隔てられて見えないが。


「ありがとうございます」


あの小僧の声だ。一度しか聞いていないが間違いない。

どんなイカサマをやりやがった!と怒鳴り声をあげそうになるが、

そこでふとナーボは気づいた。


オーガ四頭、どうやって持ってきた…?急速に興奮が冷めていく。

あの巨体ゆえ、オーガはクマなどよりかなり重たい。それが四頭。

どう考えたってイカサマでどうにか出来る重量じゃあない。


何人も仲間がいたのなら、そいつらにも報酬は分配されるだろう。

あの重量、持って帰るなら最低でも一頭で十人位は必要なはず。


だが報酬があの小僧の口座に全額振り込まれるらしいって事は、

たった一人で倒して運んだことになる。そんな事がありえるのか?


「上手く仕掛けた罠が作動してくれたようです。

 あと何か所か別の場所にも仕掛けてありますから、

 かかったらまたよろしくお願いしますね」


罠…?そうか!オーガは罠で仕留めたのか!

どんな罠かは分からないが、ナーボもそれなら理解が出来た。

正面切って戦ったんじゃないなら、そりゃ小僧でも倒せるわな。

せこいっちゃあせこいが、横取りとかじゃあないのか。

ナーボの苛立ちはやや落ち着いた。


そうだ、オレも罠を仕掛ければ楽して大儲け出来るんじゃないか?

帰宅して落ち着いた後に、ナーボはそう考える。


ナーボはこの時点でまだ理解をしていない。


シカやイノシシ相手程度の罠で、オーガなど仕留められない事を。

オーガ四頭をどうやって運んだのか、未だ分かっていない事を。

ちなみに大型生物の丈夫な骨を加工した特殊断頭器を使用。ゴブリン用から大幅強化済み。

運搬方法は《障壁》を担架代わりに横にして運んでいます。

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