表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/54

第二部・第1話:名前を出す

 カメラの赤いランプが点いた。


 それだけで、

 世界が一段、静かになる。


 柊 翔は、

 画面の向こうを見ていた。


 コメント欄は流れている。

 いつもより、

 少しだけ遅い。


 ――みんな、待っている。


 翔は、深呼吸をしなかった。

 もう、整える必要はない。


「今日は、

 ちゃんと話します」


 それだけ言って、

 一拍置く。


「俺が、

 なんでここまで来たのか」


 ◇


 言葉は、選ばなかった。


 飾らない。

 煽らない。

 感情を盛らない。


「俺は、

 元の世界で――

 母親を殺されました」


 コメントが、

 一瞬、止まる。


「刺されて、

 目の前で」


 事実だけ。


「犯人は、

 俺の知り合いでした」


 名前は出さない。

 でも、隠しもしない。


「そいつは、

 この世界に来て、

 被害者みたいな顔で

 生きていました」


 視線を逸らさない。


「それを、

 俺は許せなかった」


 ◇


 コメントが、

 少しずつ戻ってくる。


〈本当なの?〉

〈重すぎる〉

〈信じたい〉


 翔は、続ける。


「復讐しました」


 はっきりと。


「殺してはいない。

 でも、

 逃げられない場所まで

 追い込みました」


 言い訳はしない。


「それが正しかったかどうかは、

 今も分かりません」


 一拍。


「でも、

 俺はそうするしか

 なかった」


 ◇


 翔は、

 少しだけ目を伏せた。


「この話を、

 黙ったまま

 次に進むこともできた」


「でも、

 それはしなかった」


 顔を上げる。


「俺は、

 この先も

 表に立つ」


「だったら、

 背負ったまま行く」


 ◇


「これで、

 同情してほしいわけじゃない」


「許してほしいわけでもない」


 声は、

 静かだった。


「ただ、

 事実です」


「それを知った上で、

 見るかどうかは

 あなたたちが決めてください」


 ◇


 少しの沈黙。


 翔は、

 最後に言った。


「これが、

 俺の過去です」


「これからの俺は、

 ここから先で

 決めます」


 深く、頭を下げる。


「以上です」


 ◇


 配信を切る。


 部屋が、

 急に静かになった。


 心臓の音が、

 やけに大きい。


 ――言った。


 隠していたものを、

 全部。


 怖さは、

 あった。


 でも、

 後悔はなかった。


 ◇


「……終わった?」


 背後から、

 声がする。


 振り向くと、

 少女が立っていた。


 かつて、

 母だった存在。


「うん」


 翔は、

 短く答えた。


 少女は、

 少し考えてから言う。


「……学校、

 通ってみたら?」


 提案は、

 軽かった。


「少しは、

 落ち着くかも」


 翔は、

 苦笑する。


「どうせ、

 今まで復讐以外

 何もしてなかったしな」


 ◇


「じゃあ、

 通うか」


 自分でも、

 驚くほど

 あっさりと言えた。


 期待は、していない。

 希望も、ない。


 ただ、

 空白を埋める場所が

 欲しかっただけだ。


 ◇


 画面の外で、

 世界はまだ動いている。


 優しいかどうかは、

 分からない。


 信用できるかも、

 分からない。


 それでも。


 復讐が終わった今、

 翔は初めて――

 次の場所を選んだ。


 第二部は、

 静かに始まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ