第二部・第1話:名前を出す
カメラの赤いランプが点いた。
それだけで、
世界が一段、静かになる。
柊 翔は、
画面の向こうを見ていた。
コメント欄は流れている。
いつもより、
少しだけ遅い。
――みんな、待っている。
翔は、深呼吸をしなかった。
もう、整える必要はない。
「今日は、
ちゃんと話します」
それだけ言って、
一拍置く。
「俺が、
なんでここまで来たのか」
◇
言葉は、選ばなかった。
飾らない。
煽らない。
感情を盛らない。
「俺は、
元の世界で――
母親を殺されました」
コメントが、
一瞬、止まる。
「刺されて、
目の前で」
事実だけ。
「犯人は、
俺の知り合いでした」
名前は出さない。
でも、隠しもしない。
「そいつは、
この世界に来て、
被害者みたいな顔で
生きていました」
視線を逸らさない。
「それを、
俺は許せなかった」
◇
コメントが、
少しずつ戻ってくる。
〈本当なの?〉
〈重すぎる〉
〈信じたい〉
翔は、続ける。
「復讐しました」
はっきりと。
「殺してはいない。
でも、
逃げられない場所まで
追い込みました」
言い訳はしない。
「それが正しかったかどうかは、
今も分かりません」
一拍。
「でも、
俺はそうするしか
なかった」
◇
翔は、
少しだけ目を伏せた。
「この話を、
黙ったまま
次に進むこともできた」
「でも、
それはしなかった」
顔を上げる。
「俺は、
この先も
表に立つ」
「だったら、
背負ったまま行く」
◇
「これで、
同情してほしいわけじゃない」
「許してほしいわけでもない」
声は、
静かだった。
「ただ、
事実です」
「それを知った上で、
見るかどうかは
あなたたちが決めてください」
◇
少しの沈黙。
翔は、
最後に言った。
「これが、
俺の過去です」
「これからの俺は、
ここから先で
決めます」
深く、頭を下げる。
「以上です」
◇
配信を切る。
部屋が、
急に静かになった。
心臓の音が、
やけに大きい。
――言った。
隠していたものを、
全部。
怖さは、
あった。
でも、
後悔はなかった。
◇
「……終わった?」
背後から、
声がする。
振り向くと、
少女が立っていた。
かつて、
母だった存在。
「うん」
翔は、
短く答えた。
少女は、
少し考えてから言う。
「……学校、
通ってみたら?」
提案は、
軽かった。
「少しは、
落ち着くかも」
翔は、
苦笑する。
「どうせ、
今まで復讐以外
何もしてなかったしな」
◇
「じゃあ、
通うか」
自分でも、
驚くほど
あっさりと言えた。
期待は、していない。
希望も、ない。
ただ、
空白を埋める場所が
欲しかっただけだ。
◇
画面の外で、
世界はまだ動いている。
優しいかどうかは、
分からない。
信用できるかも、
分からない。
それでも。
復讐が終わった今、
翔は初めて――
次の場所を選んだ。
第二部は、
静かに始まっていた。




