第47話:選び直す
朝は、何事もなかったみたいに来た。
カーテン越しの光。
いつもの天井。
変わらない自分の部屋。
――変わったのは、
自分の中だけだ。
翔は、静かに起き上がった。
◇
父の顔が、
頭の隅に残っている。
泣きそうな目。
震える声。
「生きてて、よかった」という言葉。
考えれば、
足が止まりそうになる。
だから、
考えない。
それは逃げじゃない。
選択だ。
今ここで立ち止まることの方が、
よほど無責任だと、
自分に言い聞かせる。
◇
シャワーを浴び、
身支度を整える。
鏡の中の自分は、
相変わらず表情が薄い。
だが、
目の奥にだけ、
意志が戻ってきている。
――やるしかない。
父に会ったからといって、
世界が変わるわけじゃない。
殺した事実は消えない。
逃げた人間が、
被害者面して生きている現実も。
「終わった」なんて、
誰にも言わせない。
◇
配信をつける。
短い告知だけ。
「今日は、
これから動きます」
それ以上は語らない。
コメントが流れる。
応援も、心配も。
全部、
受け取らない。
今は、
余計な感情を入れない。
◇
外に出る。
街は、
何も知らない顔で動いている。
父がどれだけ探したか。
自分がどれだけ削れたか。
そんなこと、
世界は気にしない。
だからこそ。
――自分がやる。
父が戦った。
それは事実だ。
でも、
それで救われなかった人間がいる。
自分だ。
◇
歩きながら、
翔ははっきりと意識する。
復讐は、
感情だけじゃない。
意味があるかどうか。
正しいかどうか。
そんな問いは、
もう一度、横に置く。
今はただ――
選び直す。
父に会った“後”の自分として。
それでも、
復讐を選ぶ。
その重さを、
自分で引き受ける。
◇
スマホが震える。
澪からの短いメッセージ。
――無理はしないで
――帰り、待ってる
翔は、
一瞬だけ立ち止まり、
それから返す。
――分かってる
嘘ではない。
無理はする。
でも、壊れるつもりはない。
◇
翔は、
前を向いた。
父との再会は、
迷いを生んだ。
それでも、
足は止まらなかった。
だからこれは、
逃避じゃない。
覚悟の更新だ。
この選択が、
どこへ向かうのかは分からない。
だが、
自分で選んだ以上、
最後まで歩く。
翔は、
もう一度だけ、
心の中で線を引いた。
復讐は、
まだ終わっていない。
それを選んだのは、
他の誰でもない。
――自分自身だ。




