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第44話:終わったと言うな

 周の声は、落ち着いていた。


 まるで、

 もう全部片づいた話を

 整理して伝えているみたいに。


「……元の世界でさ」


 何気ない調子で、

 それを言う。


「お前の父親、

 翔がいなくなったあと――

 ずっと動いてた」


 翔は、足を止めた。


 周は続ける。


「心、相当やられてたらしいけどさ。

 それでも、

 殺したあいつが指名手配になるように

 署名集めたり、

 情報提供したり、

 とにかく必死だった」


 言葉は、丁寧だった。

 配慮もある。


 だからこそ、

 胸の奥が嫌な音を立てる。


「結果、

 ちゃんと指名手配にもなった」


 周は、少し息を整えてから言った。


「だからさ。

 翔の復讐は、もう終わってる」


 その一言で、

 何かが切れた。


「父親が、

 そこまでやってくれたんだ」


 周は、

 安心させるように笑う。


「もう無理しなくていい。

 前みたいに――

 仲良くやろうぜ」


 大丈夫だ。


 そう言わんばかりの顔。


 まるで、

 自分が“正しい側”に

 立っているみたいに。


 ◇


 頭の奥で、

 血管が膨らむ感覚がした。


 熱が、

 一気に上がる。


「……大丈夫?」


 その言葉が、

 最後の引き金だった。


 翔は、

 叫んでいた。


「ふざけるなっ!!」


 声が、

 周囲の空気を裂く。


「大丈夫なわけ、

 ないだろ!!」


 周が、目を見開く。


 翔は、止まらない。


「元の世界で、

 お父さんが――

 どんな気持ちで必死だったか、

 考えて言ってるのか!?」


 言葉が、荒くなる。


「探して、

 探して、

 それでも見つからなくて!」


 喉が、痛い。


「それでも、

 やめなかった人間の前で!」


 一歩、前に出る。


「“もう終わった”だ?

 ふざけたこと言うのも

 いいかげんにしろ!!」


 周は、言葉を失っていた。


 ◇


「兄様っ――!」


 腕を掴まれる。


 澪だった。


 背後から、

 必死に引き留める。


「落ち着いて、

 お願い……!」


 その声が、

 耳に届いた瞬間。


 翔の中で、

 何かが、さらに軋んだ。


 ――なだめる?


 ――止める?


 ――今、この瞬間に?


 胸の奥で、

 別の感情が、

 黒く広がる。


 裏切られた。


 そんなはずはないと

 分かっているのに。


 それでも、

 そう感じてしまう。


 押さえられた腕が、

 ひどく重い。


 守ろうとしている手が、

 今は――

 邪魔に思えた。


「……離せ」


 声は、低かった。


 澪の手が、

 一瞬だけ強張る。


 でも、

 それ以上は力を入れなかった。


 ◇


 沈黙が落ちる。


 周は、

 何も言えずに立ち尽くしている。


 翔は、

 荒い呼吸を整えながら、

 視線を逸らした。


 怒りは、

 まだ消えない。


 でも、

 今は殴らない。


 壊さない。


 ――計画を、

 崩すわけにはいかない。


 翔は、

 それだけを支えに、

 背を向けた。


 心臓の音が、

 やけに大きく響く。


 「終わった」と言われて、

 終われるほど。


 自分の人生は、

 軽くなかった。


 その事実だけが、

 胸の奥に、

 焼き付いていた。

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