表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/54

第36話:踏み込まない距離

 二次審査の案内は、具体的だった。


 日時、場所、簡単な課題。

 それだけ。


 条件が増えたぶん、

 余計な説明は削られている。


 ――ここからは、

 「見られる側」だ。


 柊 翔は、画面を閉じて深呼吸した。


 ◇


 配信をつける。


 告知だけの短時間。

 雑談も深掘りもしない。


「今日は報告だけ。

 二次、行ってきます」


 コメントが流れる。


〈がんばれ〉

〈応援してる〉

〈次は何するの?〉


 好意は、ありがたい。

 同時に、重い。


 翔は一線を引く。


「詳しい話は、

 終わってから」


 そこで切った。


 ◇


 神崎 遼から、すぐにメッセージが来た。


――無理すんな

――踏み込みすぎると、見えなくなる


 翔は短く返す。


――了解


 助言でも命令でもない。

 隣に立つ人間の距離だ。


 ◇


 夜。


 澪がキッチンでコーヒーを淹れていた。


「兄様」


「なに」


「……近づかれてるね」


 視線を逸らしたまま。


「誰に」


「いろいろ」


 曖昧な言い方。

 それで十分だった。


「距離、間違えないで」


「分かってる」


「分かってる人は、

 時々間違える」


 澪は、カップを差し出す。


「だから、

 “踏み込まない選択”も

 用意して」


 翔は、受け取った。


「……ありがとう」


 ◇


 由衣は、ソファで端末を見ていた。


「例の人、

 今日は動いてない」


「配信?」


「うん。

 静かすぎる」


 それが、

 警戒なのか、準備なのか。


 翔は、聞かない。


「由衣」


「なに?」


「無理はするな」


「それ、

 私の台詞」


 少しだけ笑って、

 画面に戻った。


 ◇


 ベッドに腰を下ろす。


 境界線の外から、

 覗いてくる視線。


 踏み込まれたくない。

 でも、完全に遮断もしない。


 踏み込まない距離。


 それは逃げではない。

 戦うための位置取りだ。


 翔は、目を閉じる。


 二次審査。

 配信。

 割れた意見。


 そして、

 まだ名を持たない違和感。


 すべてを同時に抱えない。

 一つずつ、置く。


 それが今の最善だと、

 自分に言い聞かせた。


 次に進む準備は、

 もうできている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ