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第35話:違和感の置き場所

 結果通知は、思ったより早かった。


 オーディションから三日後。

 事務的な文面で、簡潔に。


 ――二次審査に進んでいただきます。


 柊 翔は、画面を見つめたまま、

 しばらく動かなかった。


 嬉しい、という感情は薄い。

 落ち着きすぎている。


 それ自体が、

 今の自分らしいと思えた。


 ◇


「通ったんだ」


 神崎 遼は、画面越しに軽く目を見開いた。


「おめでとう」


「ありがとう」


 それ以上、言葉はいらなかった。


 褒めすぎない。

 期待を煽らない。


 その距離感が、

 今はありがたい。


「……で」


 遼が、少しだけ声を落とす。


「例の女子高生は?」


 翔は、一拍置いてから答えた。


「いた」


「やっぱり」


 納得したように頷く。


「何か言われた?」


「核心までは、来なかった」


 嘘ではない。

 だが、全部でもない。


「でも」


 翔は、正直に続けた。


「俺が思ってるより、

 人は俺を見てる」


 遼は、少し考えてから言った。


「それ、

 アイドルとしては正解だな」


「……復讐者としては?」


「不正解」


 即答だった。


 翔は、小さく笑った。


 ◇


 夜。


 家に戻ると、

 リビングに澪と由衣がいた。


「結果、どうだった?」


 澪が聞く。


「次に進んだ」


 由衣が、ほっと息を吐く。


「よかった」


 それから、

 少し間を置いて。


「……あの子、いた?」


 由衣の問いは、

 具体的すぎなかった。


 でも、伝わる。


「ああ」


 翔は、ソファに腰を下ろす。


「やっぱり、

 よく見てるタイプだった」


 澪が腕を組む。


「兄様が揺れた?」


「一瞬だけ」


 正直に言う。


 澪は、目を伏せた。


「それは……

 危険だね」


「否定はしない」


 由衣が、静かに言う。


「でも、

 敵じゃない気がする」


 翔は、少し考える。


「俺も、そう思う」


 それが、

 何より厄介だった。


 ◇


 自室に戻り、

 ベッドに腰を下ろす。


 天井を見上げると、

 いくつもの顔が浮かぶ。


 殺人鬼。

 擁護する人々。

 割れた意見。


 神崎 遼。

 澪。

 由衣。


 そして――

 オーディション会場の女子高生。


 母親でもない。

 相棒でもない。


 なのに、

 境界線の外側から、

 中身を当ててくる存在。


 翔は、静かに考える。


 あの違和感を、

 どこに置くべきか。


 排除するか。

 無視するか。

 観測対象として残すか。


 答えは、まだ出ない。


 でも一つだけ、

 はっきりしている。


 ――自分はもう、

 完全に隠れきれる場所には戻れない。


 名前を出した。

 顔を出した。

 言葉で世界を割った。


 だからこそ。


 これからは、

 違和感をどう扱うかが、

 自分の戦いになる。


 翔は、目を閉じた。


 復讐は、

 まだ終わっていない。


 けれど、

 形は確実に変わっている。


 それを自覚できただけで、

 今夜は十分だった。

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