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第31話:踏み込めない線

四度目のコラボ配信が終わったあと、

 通話は切らず、そのまま二人きりになった。


 画面の向こうで、青年――例のイケメン配信者が、

 少しだけ姿勢を崩す。


「……で」


 声は軽い。

 だが、目は逃がしていない。


「そろそろ、

 本題があるんじゃないですか」


 柊 翔は、数秒だけ黙った。


 この沈黙は、計算じゃない。

 言葉を選んでいる。


「ユニットを組まないか」


 簡潔に言った。


「コンビで」


 一拍。


「並んだ時、映える。

 数字の伸び方も悪くない」


 条件だけを並べる。

 感情は入れない。


 相手は、すぐに答えなかった。


 少し考えるように視線を逸らし、

 それから、ゆっくり口を開く。


「嫌じゃないですよ」


 翔の胸が、わずかに緩む。


「ただ」


 その一言で、空気が変わった。


「アイドルって、

 きれいごとだけ言ってれば

 人がついてくる仕事じゃない」


 翔は、反応しない。

 表情も変えない。


「特に、コンビなら」


 青年は続ける。


「相方にさえ、

 心からの本音を話せないなら」


 一拍。


「それ、

 アイドル以前に

 芸能の仕事として

 続かないと思います」


 静かな言葉だった。


 責める調子でも、

 突き放す声でもない。


 それが、余計に刺さる。


 翔は、初めて視線を落とした。


「……本音?」


「はい」


 即答。


「あなた、

 何一つ、本音で話してない」


 空気が、張りつく。


 翔の中で、

 何かが音を立てて動いた。


「最初から、

 全部“正解の言葉”しか出してない」


 青年は、淡々と言う。


「怒らない。

 踏み込まない。

 誰も否定しない」


 そして、首を傾げた。


「それ、

 “いい人”ではあるけど」


 視線が、真っ直ぐに戻る。


「人としては、

 何も見えてこない」


 翔の指が、無意識に強く握られた。


 ――分かっていた。


 見抜かれる可能性は、

 最初から計算に入れていた。


 それでも。


 口に出されると、

 違う。


「……じゃあさ」


 翔の声が、少しだけ低くなる。


「馬鹿正直に言えばよかったのか?」


 青年が、目を瞬かせる。


「俺は復讐したい。

 人を許せない。

 世界を信用してない」


 言葉が、止まらなくなる。


「それを言って、

 味方になってくれたか?」


 感情が、滲む。


「正義感だけで動くお前が!」


 自分でも分かる。

 言い方が、荒い。


 でも、止められない。


「そんな話、

 聞いた瞬間に

 距離置くだろ!」


 画面の向こうは、沈黙した。


 数秒。

 十秒。


 翔は、息を荒くしたまま、

 言葉を続けようとして――

 止まった。


 青年が、ため息をついたからだ。


「……当たり前だろ」


 静かな声。


 だが、否定でも拒絶でもない。


「一線、超えない限り」


 翔は、顔を上げる。


「味方になるに決まってる」


 言葉の意味が、すぐには理解できなかった。


「友達なんだから」


 その一言で、

 翔の思考が、一瞬止まる。


「友達なんだから」


 その一言で、

 翔の思考が、一瞬止まる。


 青年は、画面越しに視線を外さず、

 淡々と続けた。


「約束するよ」


 声は落ち着いている。

 感情を煽る調子じゃない。


「もし、超えたら」


 一拍。


「その時は、止める」


 命令でも、忠告でもない。

 宣言だった。


「それも――」


 少しだけ、言葉を選ぶ間。


「友達だから」


 翔の中で、

 何かが、静かに崩れた。


 正義でもない。

 条件でもない。

 監視でもない。


 味方か敵か、

 止めるか放置か、

 そういう二択じゃない。


 青年は、当たり前のように言う。


 友達。


 その言葉が、

 こんな形で使われるとは、

 考えたこともなかった。


 頭の中で、

 今までの思考が、

 一つずつ、剥がれていく。


 ――信用できるか。

 ――利用できるか。

 ――危険か。


 どれでもない。


 ただ、

 一緒にいる人間。


 翔は、ゆっくりと息を吐いた。


「……」


 何か言おうとして、

 言葉が出ない。


 復讐のことを考えすぎて、

 自分が何を捨ててきたのか。


 その答えが、

 ようやく見え始めていた。


 青年は、少しだけ困ったように笑う。


「だからさ」


「ユニットの話、

 考えるのはいい」


 一拍。


「でも、

 全部隠したままじゃ、

 一緒には立てない」


 翔は、ゆっくり頷いた。


 肯定でも、否定でもない。


 ただ、

 逃げなかった。


 通話が終わる。


 画面が暗くなったあとも、

 翔はしばらく動けなかった。


 友達。


 その単語が、

 胸の奥で、静かに重なっていく。


 ――復讐のことを考えすぎて、

 俺は、

 友達を作ることを忘れていた。


 まだ、答えは出ない。


 でも。


 線を引く理由が、

 一つ、増えた気がしていた。

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