第30話:噛み合う違和感
コラボ配信の開始時刻、三分前。
柊 翔は、画面の向こうに映る青年を見ていた。
名前は、まだ伏せている。今日は試運転だ。
「音、聞こえます?」
「問題ないです」
返事は簡潔。
声のトーンも落ち着いている。
――無駄がない。
開始ボタンを押す。
配信開始。
◇
「こんばんは。柊 翔です」
いつもの、穏やかな挨拶。
「今日は、初めてのコラボ配信です」
コメントが流れ始める。
《コラボきた!》
《相手だれ?》
《イケメン二人で草》
翔は、横を向いた。
「今日は、こちらの方と一緒です」
青年が軽く会釈する。
「こんばんは。
普段は雑談中心で配信してます」
名乗らない。
自己主張もしない。
だが、
画面が一段、締まった。
コメントがざわつく。
《顔強い》
《並ぶと映えるな》
《コンビ感ある》
由衣の言葉が、脳裏をよぎる。
――“映える”。
確かに、並ぶと強い。
◇
「今日は、軽く雑談で」
翔が進行を取る。
「お互い、配信始めた理由とか」
青年は、少し考えてから答えた。
「……理由、ですか」
一拍。
「向いてると思ったから、ですね」
コメントが反応する。
《合理的》
《頭いい人の答え》
翔は、表情を崩さない。
「向いてる?」
「はい。
話すのは嫌いじゃないし、
顔も……まあ、使える」
淡々とした自己評価。
嫌味がない。
誇張もない。
相性がいい。
会話が、自然に転がる。
◇
途中、視聴者から質問が来た。
《正義感強そうだけど、
炎上とか怖くないんですか?》
空気が、一瞬だけ張る。
翔は、口を挟まない。
観測する。
青年は、困ったように笑った。
「正義感、ですか」
一拍。
「正義って、
“使う側の都合”で形が変わるので」
コメントが止まる。
「だから、
軽々しく振り回さない方がいい」
視線が、カメラに戻る。
「黙る選択も、
逃げじゃないと思ってます」
翔の胸の奥が、わずかにざわつく。
――理解が、早すぎる。
違和感が、確かにある。
だが同時に。
破壊的じゃない。
◇
「翔さんは、どう思います?」
突然、話を振られた。
逃げ場はない。
翔は、いつもの仮面を被る。
「僕は……
応援される立場でいたいだけです」
正義も、糾弾も、語らない。
「誰かを殴るためじゃなくて」
青年は、わずかに目を細めた。
――拾ったな。
でも、追及はしない。
「その方が、
長く続きますよね」
軽く流す。
コメントが肯定で埋まる。
《いいコンビ》
《考え方近い》
《安心して見れる》
相性は、確かにいい。
◇
配信の終盤。
「今日は、この辺で」
翔が締めに入る。
「また、コラボするかもです」
青年が頷く。
「機会があれば」
控えめだが、拒絶はない。
配信終了。
◇
画面が暗くなる。
数秒の沈黙。
「……楽でした」
青年が、先に言った。
「進行、無理がない」
翔は、短く返す。
「助かりました」
嘘じゃない。
だが。
頭の中では、
別の評価が回っている。
・映える
・会話が安定
・正義感がある
・頭が切れる
・踏み込まない
危険だ。
そして、
魅力的だ。
もし、コンビを組めば、
伸びる可能性は高い。
同時に、
最初に違和感に気づくのも、
こいつだろう。
翔は、静かに決める。
――まだ、踏み込まない。
復讐は、共有しない。
思想も、語らない。
もう一度、
観測が必要だ。
「また、連絡します」
「はい」
通話が切れる。
翔は、椅子に深く座り直した。
相性は、いい。
違和感も、ある。
だからこそ。
このコンビは、
使いどころを間違えれば、致命傷になる。
それでも――
盤面に置く価値は、十分にあった。
次は、
もう一段、近づく。
ただし、
線は越えない。
柊 翔は、
静かに次の手を考え始めていた。




