第29話:観測対象
配信一覧を、ただ眺めていた。
柊 翔は、自分の配信準備を終えたあと、
無意識に“同時視聴数が伸びていない配信者”を探している。
派手なタイトル。
過激な煽り。
炎上狙い。
そういうのは、全部除外だ。
――長く一緒にやれる可能性がない。
条件は単純だった。
・顔がいい
・喋りが落ち着いている
・視聴者を煽らない
・数字の割に、完成度が高い
つまり、
なぜ埋もれているのか分からない配信者。
「……これか」
指が止まる。
画面に映ったのは、
やけに整った顔立ちの青年だった。
照明も普通。
背景も簡素。
服装も地味。
それなのに、
画面に“余裕”がある。
同時接続、三十人前後。
この顔で、この数字は不自然だ。
翔は、無言で配信を開いた。
◇
「こんばんは」
青年の声は、低すぎず高すぎず、
聞き取りやすい。
「今日は、雑談です」
それだけ。
盛り上げようとしない。
媚びない。
でも、切り捨てもしない。
コメントが流れる。
《今日も頭いい話して》
《相談いいですか》
翔の眉が、わずかに動く。
頭いい話?
「いいですよ」
青年は即答した。
相談内容は、進路の話だった。
曖昧な夢と、現実的な不安。
青年は、少し考えてから答える。
「それ、
選択肢を増やす方向で考えた方がいいですね」
感情論じゃない。
でも冷たくもない。
「今決めなくても、
将来の自分が楽になる道を選ぶ、
って考え方もあります」
コメント欄が、静かに流れる。
《なるほど》
《分かりやすい》
翔は、内心で評価を更新した。
――頭がいい。
それも、
見せびらかさないタイプ。
◇
次の話題で、
青年はふと、言った。
「最近、
“正しいことを言った人が
必ず評価されるわけじゃない”
って思うんですよね」
翔の指が、止まる。
「声が大きい人が勝つ。
でも、それが正しいかは別」
コメントが割れる。
《それな》
《でも黙ってたら変わらなくない?》
青年は、少し困ったように笑った。
「黙るのも、
一つの選択だと思います」
翔の背中に、
薄く冷たいものが走る。
正義感がある。
でも、
突っ走るタイプじゃない。
「正義って、
使い方を間違えると
人を壊しますから」
その一言で、
翔は確信した。
――地雷だ。
そして同時に、
最高の相棒候補でもある。
◇
配信が終わる。
青年は、軽く頭を下げた。
「今日もありがとうございました」
画面が暗くなる。
翔は、しばらく動かなかった。
顔はいい。
喋りも安定している。
思考は鋭い。
それなのに、
なぜ配信者をやっているのか分からない。
――普通なら、
もっと上に行っている。
「……二つ、欠点があるな」
独り言が、静かに落ちる。
一つ目。
正義感がある。
黙ることを選べるが、
納得できないことは
きっと見過ごせない。
二つ目。
頭が良すぎる。
違和感に、気づく。
言葉の端から、
人の本音を拾う。
もし、コンビを組めば。
――いずれ、
俺の“復讐”に感づく。
その時、
こいつはどう動く?
止めるか。
告発するか。
黙るか。
それとも――利用するか。
不確定要素が、多すぎる。
だからこそ。
「……観測する価値はある」
翔は、チャンネル登録ボタンに
すぐには触れなかった。
距離を保つ。
近づきすぎない。
まずは、
コラボが可能かどうか。
それだけを見る。
復讐は、共有しない。
思想も、語らない。
ただ、
“性格がいいアイドル”として
隣に立った時、
何が起きるかを確かめる。
翔は、画面を閉じた。
次の一手は、
まだ、切らない。
だが、
盤面に新しい駒が置かれたことだけは、
間違いなかった。




