表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/54

第24話:信用という土俵

答えは、もう出ていた。


 柊 翔は、端末の画面を消し、部屋の明かりを落とした。

 暗くすると、考えが整理しやすい。


 正しさでは、前に進めない。

 怒りでも、復讐でも、世界は動かない。


 ――信用だ。


 この世界は、

 信用がなければ、何も始まらない。


 翔は、指を組んだ。


 配信で語った犯人は、

 正しいことを言ったわけじゃない。

 ただ、先に“被害者”として認識された。


 世界は、話の中身じゃなく、

 語っている人間の印象で判断する。


「……じゃあ、土俵を変えるしかない」


 独り言は、静かだった。


 組織を作るにしても、

 思想を掲げるにしても、

 顔の見えないトップでは信用されない。


 匿名は、安全だ。

 でも同時に、疑われる。


 陰謀。

 扇動。

 裏で糸を引く何か。


 そう見られるくらいなら、

 最初から表に出た方がいい。


 翔は、はっきりと理解していた。


 信用は、構造ではなく、人物に付く。


 ◇


 では、自分はどんな人物として見られるべきか。


 怒っている人間?

 復讐を誓う被害者?

 正義を訴える告発者?


 ――どれも、違う。


 それらは全部、

 世界と戦う役だ。


 翔は、戦わないと決めた。


 なら、残るのは一つ。


「……好感度」


 言葉にして、少しだけ苦笑する。


 好かれている人間。

 知られている人間。

 見たことがある人間。


 そういう人の言葉は、

 内容に関係なく、まず聞いてもらえる。


 理不尽だが、現実だ。


 翔は、感情を交えずに考える。


 ――性格がいい人。

 ――穏やかで、丁寧で、攻撃的じゃない。


 それは、演じられる。


 むしろ、自分は得意だ。


 怒りを見せない。

 本音を語らない。

 踏み込みすぎない。


 全部、これまで生きるためにやってきたことだ。


 それが、

 **「感じのいい人」**に見える条件だと、

 今になって理解する。


 ◇


 もう一つ、冷静に整理する。


 あいつが、

 自分を恋人を奪う存在だと勘違いした理由。


 感情的な嫉妬じゃない。

 客観的な比較だ。


 ――顔。


 翔は、そこを否定しない。


 自慢する気もない。

 卑下する気もない。


 ただの、条件分析だ。


 もし自分が、

 明らかに劣っている外見なら、

 ああいう勘違いは起きない。


 つまり、


 自分は、少なくとも

 “勝ち目がある側”に見えていた。


 それは、隙だ。


 利用できる隙。


「……あるものは、使う」


 それは冷酷でも、傲慢でもない。

 生き残るための判断だ。


 ◇


 翔は、頭の中で仮定する。


 もし自分が、


 ・名前を知られていて

 ・顔を知られていて

 ・穏やかで

 ・人当たりがよく

 ・誰かを糾弾しない人物だったら


 その人間が、


 「線を引く必要がある」

 「放置はよくない」


 そう言った時、

 世界はどう反応する。


 ――少なくとも、

 最初から拒絶はされない。


 それだけで、十分だ。


 正義を通す必要はない。

 敵を作る必要もない。


 話を聞いてもらえる位置に立つ。


 それが、第一歩。


 ◇


 翔は、ゆっくりと息を吐いた。


 覚悟、というほど重いものじゃない。

 これは、役割選択だ。


 怒りは、内側にある。

 復讐心も、消えていない。


 でも、

 それを表に出す役は、

 今の自分じゃない。


 世界が好むのは、

 怒っていない顔だ。


 だから。


「……性格がいいアイドルユニット結成、か」


 声に出すと、

 少しだけ、滑稽に聞こえた。


 けれど、

 否定はしない。


 自分が、

 この世界で進むために必要な仮面なら、

 被る価値はある。


 翔は、立ち上がった。


 これは、逃げじゃない。

 偽善でもない。


 信用という土俵に上がるための準備だ。


 正しさは、

 土俵に立ってから語ればいい。


 今はただ、

 名前を覚えられる人間になる。


 柊 翔は、そう結論づけた。


 怒りを抱えたまま、

 穏やかな顔で前に進む。


 それが、この世界で

 自分が選んだ、生き方だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ