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幼稚園入学

春の風が優しく吹き、桜の花びらが舞った。

その下を、母・美咲はユウトの小さな手を引いて歩いていた。


ユウトの頭のミコは、風の匂いを嗅ぐように鼻先を持ち上げ、喉を鳴らした。

ユウトは不安と期待が混じった瞳で、門の奥の園庭を見つめていた。


幼稚園の門をくぐったとたん、子どもたちの声が一瞬止まった。


「……猫……?」

「見て! あの子……」


大人たちの視線が集まり、母親たちの表情が強張った。

「まさか、本当に……」「あれが、あの……」

そんな囁きが風に混じった。


その空気を変えたのは、駆け寄ってきた担任の女性だった。

ブラウスの袖をまくり、動きやすそうなズボン姿、健康的な笑顔が似合う先生。


「佐倉さんですね! 待ってましたよ!」


その名は、藤沢 真由。

元気いっぱいで、子どもが大好きで、どんな子も平等に愛することをモットーにしてきた教師だった。


藤沢はユウトとミコを一瞬見て、心の奥で衝撃を受けた。

(これが……三毛猫症候群……)

けれどすぐに笑顔を深め、声を明るくした。


「ユウトくん、ようこそ! 一緒にたくさん遊ぼうね!」


子どもたちの緊張を和らげようと、大きな声で言った。

(私は先生だもの。みんな、同じように大切な子たち。ユウトくんも、その一人。)


だが、その場にいた小さな女の子が、ユウトとミコを見て後ずさった。

「……いや……いや……」

目に涙を溜め、ついには泣き出した。


泣き声が空気を震わせた。


そのとき、ひとりの男の子――タイチが駆け寄った。

「すげー! 本当に猫だ! すげー!」

目を輝かせ、ミコを見て満面の笑みを浮かべた。


「名前は?」


「……ミコ。」


「ミコか! カッコいいな! よろしくな!」


タイチはユウトの手を握り、園庭の輪の中に引っ張った。


藤沢はその様子を見て、心の中でガッツポーズをした。

(そう! それでいいんだ、タイチくん! その優しさが、みんなを変える!)


そして、サクラがそっと近づき、ミコを撫でた。

「ミコ、可愛いね。」


藤沢は大きく深呼吸をし、心から微笑んだ。

(どの子も宝物。私は、みんなの先生だから。)


美咲は胸の奥で涙が滲むのを感じ、春の風に花びらが舞った。

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