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母の名は

母の名は、美咲――佐倉 美咲。

白い肌、細い体、黒髪の奥で光る瞳。

その名の通り、どんな困難の中でも「美しく咲こう」と生きてきた女だった。


夜、ユウトとミコを寝かしつけ、窓の外に星の灯りを探す時間。

美咲の胸に、遠い田舎町に住む父の顔が浮かんだ。


父は口数が少なく、不器用な人だった。

ユウトが生まれたことを告げた夜、電話口の向こうでしばらく黙り込んだ後、低く言った。

「……大丈夫、か……お前が……」


「大丈夫よ。」と答える美咲の声に、父は何も言わず、ただ「また連絡する」とだけ残して切れた。


父は、ユウトの姿を怖れていた。

孫を愛したい気持ちと、理解を超えた現実への恐れが、父の心を引き裂いていることを、美咲は知っていた。

(お父さん……あなたが怖がるのも、無理はないのよね……でも、それでも……)


一方で、母の記憶は美咲を支えていた。

病弱で、やせた手を美咲の頬にあて、「人に優しくしなさい」「弱いものの側にいてあげなさい」と繰り返した人だった。

母の死は、美咲がまだ若い頃のことだった。

あの日の葬儀の白い花の匂いと、冷たい風が今も胸に残っている。


(お母さん……あなたなら、今の私をどう思う?

 きっと、ユウトを、ミコを、私と一緒に抱きしめてくれるよね……)


美咲は、胸の奥に両親の影を抱きながら、今も孤独の中で静かに戦っていた。

誰にも頼れない日々でも、彼女の背中を押していたのは、過去に確かにあった家族の愛だった。

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