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第2話:優しさの絆

朝の光が紅蓮蓮華アカデミーの高いアーチ型の窓から差し込み、荘厳な講義室をやわらかく照らしている。僕――コフィは1年A組の教室の前方の席に座っていたが、姿勢は固く、視線は落ち着きなく周囲を泳いでいた。


昨日の出来事がまだ心に重くのしかかっていたが、隣にいるベレニース皇女の存在が、僕にとっては心の拠り所だった。


ベレニース様は、僕が彼女の保護下にあることを皆にはっきりと伝えてくれた。


彼女自らが僕を授業へと案内し、その威厳ある態度に誰も異を唱えられなかった。生徒たちの囁きや冷たい視線は完全には消えていなかったが、露骨な敵意は幾分和らいだようだった――少なくとも、今のところは。


教授が教室に入ると、クラスに静寂が訪れた。ベレニース様がそっと身を寄せ、穏やかな声で囁いた。


「忘れないで、君は一人じゃないわ。もし誰かに何か言われたら、余に知らせてくれ」


僕は小さくうなずいたが、膝の上で握った手にはまだ力が入っていた。


彼女の優しさには心から感謝していたけれど、それでも自分が“外の者”だという感覚は拭いきれなかった。この豪華な学院の雰囲気と、周囲の色白で高貴な顔立ちの生徒たちは、僕の故郷アザニアのにぎやかで温かい生活とはまるで正反対だった。


授業が始まり、なんとか集中しようとした。今日は元素魔法の講義。これは僕がアザニアで深く学んできた分野だ。教授が火と水の操作の仕組みを解説するのを聞いているうちに、少しずつ気持ちが落ち着いてきた。これなら、僕にもわかる。


教授が講義を中断して質問を投げかけた時、僕はおそるおそる手を挙げた。


「アザニアでは、元素魔法は自然との深い結びつきがあるとされています。大地や空の精霊が、僕たちの呪文を導いてくれるんです。もしかしたら、時間帯や季節によって魔法の力が変わるのも、そのせいかもしれません」


..........................


教室が静まり返り、視線が一斉に僕に注がれた。


心臓が激しく脈打つ。でも、ベレニース様がすぐに口を開いた。


「素晴らしい指摘だわ、コフィ。ヴァロリア帝国にも似た理論があるけれど、我々はそれを精霊ではなく、天体の配置の影響と考えてきたの。こうして文化によって解釈が異なるのって、とても興味深いわね」


その一言が空気を変えた。数人の生徒がうなずき、後ろの列から一人の女の子が前かがみになって話しかけてきた。栗色の髪と温かな笑顔の子だった。


「すごく面白い話だね!そんな風に考えたことなかったよ。もしかして、精霊も天体の影響を受けたりするのかな?」


その声に僕は少し驚いた。本当に興味を持ってくれているようだった。


「可能性はあると思います」

と僕は答えた。


だんだんと声に自信が宿ってくる。

「アザニアでは、世界はすべてつながっていると考えます。精霊も、元素も、星々も――すべてが同じ織物の糸のようなものなんです」


少女の目が輝いた。

「なんて美しい考え方なの!アザニアの魔法について、もっと知りたいな」


挿絵(By みてみん)


ベレニース様が微笑んだ。

「こちらはレディ・エヴリーヌ。余の親しい友人の一人よ。昔から、他国の文化に強い関心があるの」


「うん、本当だよ」

とエヴリーヌがにっこり笑った。

「あなたが遠い国から学びに来てくれたこと、本当に素敵だと思う。お互いにたくさん学べたらいいな」


休み時間になると、エヴリーヌと数人の女子たちが僕のまわりに集まって、アザニアの伝統や魔法、料理について色々と質問してきた。その好奇心は本物で、僕の言葉に耳を傾けてくれる姿勢には敬意さえ感じられた。


小柄な赤毛の女の子――マリアというらしい――が、僕の袖のビーズ細工に手を伸ばして言った。


「これ、とっても綺麗ですね。もしかして、自分で作りましたか?」


「いいえ、これは姉が作ってくれたものです」

と僕は微笑みながら答えた。

「アザニアではビーズ細工は大切な芸術です。それぞれの模様に物語が込められているんです」


マリアの瞳が丸くなる。

「わあ……その物語、今度ぜひ聞かせて」


その時、僕の胸にぽっと灯るような温かさが広がった。


魔法ではない、本物の温もりだった。――ここに来て初めて、僕は“異邦人”ではなく、“語るべき物語を持つ存在”として見てもらえた気がした。


授業が終わったあとも、ベレニース様はずっとそばにいてくれた。


でも、彼女は僕が他の生徒たちと自然に打ち解けられるよう、そっと背中を押してくれていたのだと思う。日が暮れるころには、僕は新しい友人たちと、そして自分自身と、少しだけ自信を持って向き合えるようになっていた。


寮へ戻る道すがら、ベレニース様がふと僕を見て微笑んだ。


「今日はよく頑張ったわね。君なら、きっと皆に受け入れられると信じていたの」


僕も微笑み返した。心は昨日よりもずっと軽い。

「ありがとうございます、皇女様。ベレニース様がいてくださったからです」


「いいえ、きみ自身の力だわ」

と彼女は首を振った。

「コフィ、君は自分が思っているよりも強いのよ。そしてもう、君は一人ではないわ。...ここには、君のことに興味津々な人たちもいるのだから」


その夜、僕は希望を抱いて眠りについた。


これからも困難は待ち受けているかもしれない。けれど、僕には仲間がいる――ありのままの僕を見てくれる友人たちが!


そして今、ようやくこの奇妙で不思議な世界で、自分の居場所を見つけられるかもしれないと信じられた......

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