04.そういう機能も実装してるの?!
あれ以来、二人はたまに街に出るようになった。
ユノとしても誰かと一緒に街を歩くのは楽しい。
初夏の風が通りを抜け、軒先の風鈴をからんと鳴らす。
青空市の露店では、朝採れの野菜や果物が山と積まれ、活気に満ちていた。
その通りの一角。
ブルーは、無言で人参を手に取り値札を確認し、それをそっと戻した。
「お、今日は見てくだけかい?」
店主の男性が、少し冗談めかした声をかける。
ブルーは一瞬だけ視線を合わせ、それから小さく頷いた。
「今日は買わない。でも、味は悪くなさそうだ」
「そりゃどうも。兄ちゃん相変わらず愛想が無いねぇ」
店主は苦笑しながら、しかしもう以前のように警戒されている雰囲気は無かった。
初めの頃は、返事もしない無愛想な奴だと快く思われていないのが見て取れたものだが、今はもうそんなことは無い。
ユノはその様子を見ながら、ブルーが街のみんなに受け入れられていくようで、自然と笑みがこぼれた。
***
二人は町の小さな食堂で食事をすることにした。
ブルーは、無駄のない動きで食べ物を口に運ぶ。
その姿は隙の無い容姿と相まって本当に美しいが、どこか無機質で、全ての動作がプログラムされていることを実感させた。
そもそも食事が出来ることにも驚きだが、戦前の技術ならさもありなんと深くは追及していない。
「ブルーって本当に完璧だね」
ユノが思わず言葉を漏らすと、ブルーは一瞬動きを止めた。
「どういう意味?」
ブルーは目線を上げて、ユノを見た。
「だって食事の時も無駄な動きをしないし、すごくキレイだから…まるでロボットみたい」
ユノは笑いながら言う。
ブルーは少しの間黙り込んだ後、ゆっくりと自分の手を見つめ、そして再びユノの方を見た。
「ロボットだからね」
口の端を少し上げて、ブルーは静かに言った。
「でも見た目は完全に人間と同じだよ。体も。見てみる?」
ブルーは淡々とシャツのボタンを外していく。
「いい!いい!要らない!ここ食堂だから!」
はだけた胸元にすっかり動揺したユノが真っ赤な顔をして必死に止める。
(忘れてた。ロボットだから羞恥心が無いんだ。これで学習するとは思うけど。)
そう思ってブルーをチラリと見ると、可哀想なものを見るような目でユノを見ている。
「あっからかったのね!」
「こんなところで服を脱ぐわけ無いだろう。ユノは騙されやす過ぎる」
今度はハッキリと分かるくらい笑いながら言った。
(こんな冗談まで言うようになるなんて!すごい学習能力!さすが高性能ロボット!)
ロボットの裸に恥ずかしがるのもおかしい気がして、ユノは自分の感情の置きどころに困ったが、頬は勝手に赤くなっている。
ユノはすぐには熱が引かない頬を手で扇ぎつつ、ブルーが人間であってくれたらというあり得ない願いがよぎって胸がチクリと痛んだ。
「人間には配線なんて通ってないもんね」
ユノは浮かんだ願いを打ち消すように、自分に言い聞かせるように、言った。
ブルーは再び自分の手を見つめ、ため息をついた。
「……そうだね」
そう言うブルーの、どこまでも澄んだ瞳には、宿るはずの無い寂しさが灯っているように見えた。
***
「そろそろ帰ろっか」
何となくいたたまれなくなったユノが声をかけた。
「ああ」
食堂を出てしばらく歩いたところで、ブルーが立ち止まった。
目線の先を見ると店先の小さな飴玉が入ったビンが気になるようだ。
「買ってく?」
ブルーは小銭を店の女性に渡し、ビンを受け取る。
「ユノの瞳の色に似ている。美しい琥珀色だ」
そう言うと、ユノの瞳をまっすぐ見つめた。
(ふぁっ?そういう機能もついてるの!?)
ユノは驚いてブルーを見つめ返すが、いつも通りの涼しい顔だった。